71:私を見つけて!

『もっと色々とお話したいところじゃが、もうあまりわしに残されたぱぅわぁーがなくてのう。お前様にわしからの心からの願いを聞いて欲しいのじゃ。お前様達がいうゲート内のどこかにわしがおる。今お前様が目にしている状態のわしが』


『そのわしを見つけ出して解放して欲しいのじゃ。もう800年もこのままの状態は退屈で寂しくて悲しくて泣きたくて辛くてかなわんのじゃ。どうか頼む、お前様、わしはもう十分反省して心もすっかり入れ替えた。今は星々の悲しみも小さな虫一匹の悲しみも枯れゆく花や草木の悲しみも十分分かる』


『じゃから頼むからわしを解放して欲しいのじゃ頼む・・・どうか・・・お前様・・・ズビーーーッ』と、最後に盛大に鼻水をすする程にこの少女は800年以上の間辛い目にあったのかと思うと冴内も思わず酷く悲しくなって鼻水をズバーーッと盛大にすすった。うーむ光生命体でも鼻水は出るのか・・・


「分かった!必ず見つけ出す!」

『ワァーーーーン!探してくれるかお前様ァーーーッ!!』

「待ってて!絶対見つけ出す!必ず見つけ出すから・・・」

『から?』

「なにか・・・手がかりとか目印とかない?」


『ウン、分かった。明日までになんとかして、あらゆる汚い手も使ってなんとかする。分かったことは全てお前様に伝えるようにする』


 いや、あらゆる手はいいけど汚い手はダメだろ。


「分かった、待っててね!必ず見つけ出すから!」

『ありがとうお前様、わしは待っておる、お前様を信じて待っておる!』


 そうしてまた深い眠りについた冴内であったが、翌朝目が覚めたらすっかり忘れていたということもなく、単なる愉快な夢だったとも思わず、決意新たに熱い思いを込めて凛々しい目つきで洗面台の鏡を前に自分の顔を眺めたのだったが、目の前の鏡に映る自分の髪の毛の寝癖が盛大に爆発しているのを目にして我に返った。


 研修センターの食堂は朝6時から朝食時間帯の開始なのでその前にひとっぷろ浴びてシャキッとすることにした。爆発髪の毛寝癖を直すのにも丁度良かった。その後食堂で朝食をとり決意新たに富士山麓ゲートに入場した。


 入場後、まずはいつも通りプレハブ小屋のおばさんのところに行ったが、さすがにまだ朝7時前なのでおばさんはいなかった。「不在時はセルフで登録願います」と大きく目立つ手引き書が壁に貼られていて、セルフ登録の仕方という簡単な手順書も描かれていたのでその手順に従って自分でピッとステータスデータをスキャンして登録した。


 ロッジにはさすがにこの時間でも案内カウンターには人がいるので新規に個室の利用申請を行うと、前と同じ部屋を手配してくれた。勝手知ったる個室部屋に手荷物を置いて早速外に出た。


 表に出るやいなやすぐに携帯端末に入っているビーコンアプリを起動して「アリオンただいま!今からそっちに行くよ!」と音声登録して、早速草原エリアCに向けて駆けだした。


 一方アリオン達の群れは既に全員起きていて、各々朝食も済ませ思い思いにあちこち駆け回って己の脚力を鍛える自主練をしていた。その時アリオンの神の首飾り(ビーコン付き名札)からブザー音が鳴り、冴内の声が聞こえてきた。ユニコーン達は一斉にアリオンの元に集結し「キターーーーーッ!」という歓声を上げた。


 そんな様子を遠くから、ユニコーン達を刺激しないようにずっと観察、記録し続けていた生物研究シーカー達は、いきなりペガサスを筆頭にユニコーン達が雄たけびを上げて興奮した様子になったので何事かと身構えた。


 アリオンは仲間達の興奮を静め、とりあえずあるじ様を迎えに行くと言って飛び立ち、仲間達には吉報を待てと言い残した。


 地上と違って行く手を遮るものは何一つなく目標まで一直線の最短距離で行くことが出来るアリオンは冴内をすぐに捉えることが出来た。なんとわざわざあるじ様自らこちらに出向いて下さるとは!


 こうして久しぶりに愛馬と再開した冴内であったが久しぶりの空中乗馬だったので何度か落馬してしまった。地面にほど近い低空だったから大事には至らなかったが改めて馬具の大事さを身をもって痛感した冴内であった・・・

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