62:銃

 ストーンヘンジ・ゲートのゲート村で冴内が最初に訪れたのは、富士山麓ゲートにおいてのプレハブ小屋に相当するバンガローで、入ってみるとなんとなくプレハブ小屋のおばさんを彷彿する愛想の良さそうな中年女性がステータスをスキャンしていた。


 今回冴内の場合はスキャンではなく携帯端末からデータ転送していた。その理由はステータスだけでなく血液型やその他のシーカー情報も登録するためである。そしてもう一つの理由は冴内のステータスを見て野次馬が集まってきて余計な時間を取られるのを防ぐためでもあった。当然データをスキャンする中年女性は、英国シーカー機関の情報部員でもあるため、冴内のことは既に熟知しており他のシーカーが感心を抱きそうな余計なことは一切しゃべらず、ごくありきたりな会話を交わして淡々と事務手続きを行った。


 次に向かったのが今回最大の渡英目的でもある武器屋である。ここには英国が全世界に誇る名剣【英雄剣】がある。


 冴内自身は正直なところ武器屋にはあまり関心がなかった。何故なら武器屋に入っても冴内は武器に触れることすら出来ないからである。確かにカッコイイ剣を見るだけでも目の保養にはなるが、それでもそんな男のロマンを目の前にして触る事すら出来ないというのはかなりガッカリくるものがある。


 そんなわけで武器屋にはそれほど気乗りしなかったのだがシーラ嬢に手を握られては、例えそれが地獄の門であったとしても喜び勇んで入っていくのであった。


 しかし入ってみて一目で冴内の目を奪ったものがあった。それこそまさしく【英雄剣!】・・・ではなくて、富士山麓ゲートの武器屋にはまったく存在していなかった武器、すなわちそれは【銃】の存在であった。


「あっ!銃がある!ここには銃があるんですね!やっぱり日本とは違うんだなぁ!」と物珍しさでいっぱいの冴内であった。


 店内にはハンドガンの他にアサルトライフルやショットガンやスナイパーライフル等があり、さらに物騒なことにNLAW等の対戦車ミサイルまであった。


 説明によると非戦闘スキル持ちのシーカーの護身用ではあるが、ゲート内の危険対象物に対してはあまり効果がなく、マグナム級の強い威力の弾薬を用いてもワイルドボア(イノシシ)1頭倒すのに何発も撃ち込まないと倒せないそうだ。アサルトライフルならばフルオートで弾丸を発射できるのでワイルドボア(イノシシ)の突進を食らう前に倒せる確率は上がるが消費弾薬に見合った見返りがないのでほとんど銃火器を利用するシーカーはいないとのこと。


 当然流れ弾が他のシーカーに当たってしまう危険性と、銃を撃ったシーカーが例え流れ弾の過失だとしても別のシーカーに危害を与えたとして消滅してしまうのではないかという恐れからもほとんど利用されることはなかった。


 あくまでも銃器メーカーの宣伝広告的存在として置いているに過ぎないと、武器屋の親父は興味なさそうに語っていた。そんなもんよりもこのミスリルナイフを見てくれよ逸品だぜコイツはと、ゲート内素材で作られた原始的武器の方に大きな関心を寄せていたのであった。


 それでも冴内は本物の銃を間近で見たのは生まれて初めてだったし、ゲームやアニメ、映画などで見た最新式の銃器に胸躍るものがあったのでとても興味深く見ていた。


「そんなに珍しいってんなら持つだけ持ってみるかい?」と店主が弾の入っていないハンドガンを冴内に渡してきた。

「いや、自分は・・・」といいかけてグリップを掴もうとすると・・・

「あっ!」なんと、冴内は手渡された銃を握ることが出来たのであった。


 シーラ嬢もこれには目を丸くした。

「おいおいなんだってんだよ、お嬢さんまで。こんな世界中どこでも目にするグロックがそんなに珍しいってのかい?」と、店主も驚いた。そしてさりげなく店内に紛れ込んでいた情報部員数名もこの光景には驚いた。


 情報部員は冴内がゲート素材で製作されたありとあらゆる武器を手にすることが出来ないことを知っていただけに、この予想外の出来事を目にして一気に希望の光が、それこそ♪ファーーーン!というギフトを授かる時の音ともに光り輝いた気がした。


 シーラ嬢を含むその場にいた情報部員全員が、これワンチャンあるんじゃね!?と胸躍る気分になった。

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