56:イギリス到着
出発当日、国際空港に母と一番上の姉さんが見送りにきた。二人とも携帯の待ち受け画像が「げぇっ!」だったのには閉口した。その後もあれこれと30分程話していたが、途中でシーラさんが加わったあたりから母と姉の二人の態度は一変し、話しの最後の方にはどうか息子、弟を末永くよろしくとか言いはじめて、この二人をどう扱ってよいものやらほとほと困り果てた。
そうして母と長女に見送られ、冴内はイギリス行きの「政府専用機」に乗り込んだ。海外旅行には行ったことがなく、飛行機自体数回しか乗ったことがない冴内なので、当然これが政府専用機だということは知らず、思っていたよりも座席数が少なくて座席間隔もかなり余裕のあるスペースなので、さすが国際線はギュウギュウ詰めの格安航空機とは違うなぁとつくづく平和な考えをしているのであった。
機内で過ごすことおよそ12時間。途中、豪勢な機内食を食べた後で、生まれて初めてワインを飲んだのだけれど、まだまだお酒に飲みなれていない冴内には結構なアルコール強度だった。
シーラ嬢が「私、なんだか酔ってしまいました」とこの手の小説にありがちな、いかにもあざといモーションで冴内の悲しい男心をくすぐり続けたが、さすがに機内で押し倒すことも出来ず、そもそもそんな度胸もエロパワーもからっきしな冴内ヤツ、いや冴えないヤツなので、大して飲んでもいないのにグデングデンのゆでだこのように・・・って、グデングデンのゆでだこというものがどんなものなのかこれを書いてる作者にも良く分からないが、ともかく地獄のような天国気分を味わい続ける我らが冴内であった。
当然機内に乗っているのは全員が英国情報部員であり、「これで冴内はほぼ掌握したも同然だ、あともう一押しだ!頑張れシーラ!」と内心でエールを送っていた。
シーラはいつ冴内が我慢の限界を超えて自分を押し倒してきても「いつでもカマァァン!」の覚悟を決めていたが、冴内の臨界点は別のところで突破してしまい、グデングデンのまま意識を失っていってしまった。
・・・要するに、酔っ払って寝た。
またしても個人のプライバシーを明かすようで誠に遺憾で、申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、シーラ嬢はそれなりに恋愛経験はあるが、キス以上の・・・アレに関しては、まだその、なんというかまだアレである。そこは察していただきたい。
読者に対して察してくれと書く小説もいかがなものかと思うが、ともあれそんなこんなで真夜中に冴内を乗せた政府専用機は英国本土に到着した。
酩酊状態というわけではなかったので、シーラ嬢に起こされると、この手の物語にありがちな「ウ~ン、もう食べられないよ~」などというお約束なセリフが出ることもなく、普通に「すいません、すっかり寝てしまいました」といって起きた。大した量を飲んでいないので、アルコールは抜けたようだ。
そのまま由緒ある格式の高いホテルに向かい、普通の旅行客ではまず予約すら出来ない部屋に案内された。
ウィリアム3世の権力を用いればロイヤルスイートを抑えることも可能だが、あまりにあざとすぎるとこちらの下心を察知される可能性があると、情報部トップのブレーン達に指摘されたので1段階程グレードを下げた部屋にした。
シーラ嬢は、なんなら今からヤりますか?今なら確実ですぜ、という勢いで、ウィリアム3世も、ヤってくれるか我が姪よ、というノリだったが、いや、あくまでもそんな勢いだったっていう比喩というかものの例えであって、決してそのままのセリフを発したわけではないのだが、それでもそれぐらいの覚悟と勢いの眼差しで、シーラは叔父でもあるウィリアム3世を見つめ、ウィリアム3世もそれに頷いたので、またしても情報部トップのブレーン達から、待て待てお前らまだ早いと釘を刺されたのであった。
ちなみに政府専用機内で、あともう一押しだ!頑張れシーラ!と心の中で応援していた別の職員達はトップブレーン達から、余計なことすんなやお前らと、後でこっぴどく叱られた。
このように冴内が呆けた顔で二度寝し始めている「すぐ隣の部屋で」事実上英国ゲートのトップでもあるウィリアム3世を含めた情報部員達と、なかなか際どい恰好をしたシーラ嬢は今後の方針を検討するのであった。
そんなことなどやはり我知らず関せずの冴内は、実は冴内の・・・アレが危機一髪だったことなど知る由もなかった。
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