55:渡英準備
シーラからの作戦成功の報を受け、英国情報部戦略チーム「冴内招致作戦計画」のプロジェクトルームは歓喜に包まれていた。
英国ストーンヘンジ・ゲート局長サー・アーサー・ウィリアム3世も誰はばかることなくガッツポーズをとっていた。プロジェクトルーム内にはどこから調達してきたのかシャンパンが持ち込まれてきた。
ウィリアム3世はプロジェクトチームに向けて
「まずは作戦の第一段階は無事成功した。我らが待ち望んでいた英雄が我らの大地を踏むまではまだ予断を許さないが、今日のところはこの成功を大いに喜ぼうではないか!引き続き諸君らの力を私に貸してくれ!Cheers!(乾杯!)」
「「「Cheers!(乾杯!)」」」
こうして英国情報部戦略チーム「冴内招致作戦計画」は第二段階へと突入した。英国情報部戦略チームはその後も綿密な作戦を練り上げ速やかに実行していった。
まず渡英前に冴内はいったん実家に帰郷するであろうと予想。冴内が正式ゲートシーカーになってからまだわずか12日しかたっておらず、その間彼はゲート外に出ていないので実家とは一切連絡をとりあっていない。そんな中いきなり億万長者になって実家に戻ろうものなら必ず家族からの質問攻めにあうことは必至。彼の人柄的に両親はまだ大丈夫だとは思うがその親類縁者までは分からない。いきなり大金のなる木がやってくるのだ、知己を得ようと接触してくる人間が大勢いるかもしれない。
そんな些末で些細なことに宝石よりも貴重な彼の時間を奪われてなるものかと、日本お得意お家芸の「ザ・根回し」で先手を打つことにした。
まずこれまでの冴内の活動内容を一般人でも理解出来るように簡潔にまとめあげ、一流のシナリオライター、一流の監督、一流の演出家のもと一本の動画を完成させた。あまりゲートに関心がない者が見ても飽きさせない作りになっており、この動画は後に冴内の初期の活動内容を描いたドキュメンタリー作品として高く評価されることになる。
他にも恐らく冴内が実家に大金を贈与するであろうから、贈与税等の税金に関連することもあらかじめ家族に伝えておき、さらに両親家族が心配するであろう健康面や安全面その他もろもろの不安要素を取り除き安心して渡英を見送れるよう、一流カウンセラーによる「健康・安全のしおり」を作成した。日本製でないにも関わらずこのしおりは後に日本のみならず世界中でゲートシーカーの健康面と安全面での標準的しおりとなる。
神代本人も、神代がトップに頼み込んで招集された諜報部チームも舌を巻くほどの速さと緻密さで、冴内の渡英準備は着々と進行していた。
一方、相変らずそんなことが水面下で進行していることなど1ミリも知らない冴内はアリオンに休暇を言い渡していた。
「しばらくゲートの外に出かけてくるから、その間
いったん故郷に戻って家族や仲間に会ってきなよ」と言った。果たしてちゃんとアリオンに通じたのかは分からないが、アリオンはいつもより多く冴内に顔をこすりつけた。この様子ならしばらく出かけてきても大丈夫だろう。
アリオンに休暇を言い渡した冴内は、いったん久しぶりにゲートの外に出て実家に連絡した。「急遽イギリスに行くことが決まったけど、その前に色々報告があるからいったん実家に戻るよ」と言ったのだが「話しは全て聞いているからその必要はない。お前は安心して大事な勤めを果たしなさい」と言われた。「えっ、それでも一応は帰った方が良くない?」と言ったのだが「いいから心配するな、お前ももう一人前の社会人、それもギフトを授かった特別な存在なのだから、勤めを果たすことを最優先にしなさい」と妙に物分かりの良い対応をされたので、確かに親の言うことも一理あると素直に了解した。
そのやりとりの一部始終を通信傍受していた英国情報部戦略チームは「イエス!」とガッツポーズをとっていた。おいおい通信傍受はいかんだろ。
その夜食堂でいつものメンバー(良野、木下、早乙女、梶山、宮、鈴森、矢吹)で簡単な送別会が開かれた。その際シーラ嬢も出席し、男性陣はことごとく見事なまでにメロメロになるというていたらくだった。ちなみに食後のデザートはスライムゼリー(メロン味)だった。
こうして翌日、冴内はゲートを出立した。
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