13:熊肉フィーバー

 熊を倒した現場付近を確認すると爪と肉が落ちていた。爪は自分の指二本分の太さと長さで肉はイノシシ肉のときと同じく大き目の枕くらいのサイズだが厚みがその倍はあるかという大きさだった。


 携帯端末を見るとまだ午後2時だったが極度の緊張状態を強いられていたので引き上げることにした。若干の便意があってトイレに行きたくなったのだ。事前講習で野外で用を足すときの一通りの手順や注意事項は教わったが、まだそこまで緊急じゃないので出来ればトイレで用を足したい。そんなわけで引き返すことにした。


 最初に通過した草原には誰もおらずイノシシの姿もなかった。早歩きで帰ったので15分程度でたどり着きまずはトイレに駆け込んだ。


 用を足した後で換金所に寄ったところ、熊の肉を持ち込んだことで周りのシーカーが大いに喜び、今夜は食堂に熊肉が出されるといって大盛り上がりだった。熊の爪も良質なポーション材料になるそうで換金結果は下記の通りになった。


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熊肉1万5千円、熊爪5千円、合計2万円

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 換金所を出た後でプレハブ小屋のおばさんのところにいった。まだ午後の3時前なので他のシーカーはいなかった。

「あら冴内君、今日はもう終わり?」

「はい、今日はもう終わりです。熊を退治したらどっと疲れました・・・」

「えっ!? 熊? 独りで?」

「はい」

「ちょっと大丈夫!? ケガとかしてない?」

「はい、どこもなんともないです。プロテクターに傷一つついてないです」

「あらあらまぁまぁこりゃとんでもないわねぇ」

「熊退治なんてあの力堂君でも半年かかったわよ。それがまだレクリエーション3日目の子が独りで熊を倒すとか聞いたことないわよ」

「・・・そうなんですか」

「そうよ、前代未聞よ」


 その後もおばさんとは色々と話しをして、ゲートのことや他のシーカーの方々のことを教えてもらった。早めに来たことで他のシーカーの方が全然来なかったので、なんやかんやで2時間近くも話し、しまいにはイスを持ってきてもらいお茶までご馳走になった。終盤の会話にて熊肉が手に入ったことを告げると、おばさんも大喜びで今日は食堂に行かなくちゃと言っていた。


 時刻は夕方になりかなり早いけど野外食堂に行ってみると、看板のお品書きに書きこんでいる様子が目についた。


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熊肉ステーキ(20食限定)

熊鍋定食

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 まだ人はまばらだが看板に書かれたメニューを目ざとく見つけたシーカーの一人が大袈裟に騒いだため、なんだなんだと人が寄ってきた。こりゃいけないと思い食堂に入って厨房カウンターに行き熊肉ステーキを注文するが、まだあと一時間以上かかるけど一応注文は受け付けてくれた。


 するとどんどん他のシーカーもやってきて同じように注文した。気を利かした料理人の人が注文札代わりに手書きで「ステーキ(番号)」と書いた紙きれを渡し始めた。調理までに1時間以上かかるということで、自分は例の桃味のお酒を注文したところ他のシーカー達もビールなどの各種アルコールを注文した。


 やがてプレハブ小屋のおばさんや鈴森さんがやってきて、二人ともステーキにギリギリ間に合ったようだったが、「あちゃー! もう売り切れかよォー!」と大きな声で嘆くシーカーがいたので見てみたら矢吹(やぶき)さんだった。しかし熊鍋でも十分ご馳走のようで今日の食堂は大賑わいだった。


 鈴森さんとプレハブ小屋のおばさん、そして矢吹さんも同じテーブルに座り、自分の熊ステーキと熊鍋半分こしませんかと矢吹さんに提案したら、矢吹さんは大喜びでカウンターにすっ飛んでいき、空の器やスプーンなどを持ってきて意気揚々と熊鍋を持ってきた器によそっていた。


 最初の方こそ全員黙々と熊肉を味わいそれぞれに味を堪能したが、一息ついたところで会話が弾み楽しい飲食の場に変わった。当然自分が単独で熊を退治したことが明らかになり、周りにいるシーカーも含めて大賑わいになった。


 とりわけ一際興奮していたのが矢吹さんで、

「オレも拳一つで戦う拳闘士だがそれでもバトルグローブのおかげで攻撃力は大幅にアップしてる」

「だがお前ときたらまさに文字通り素手じゃねぇかよ」

「一切武器を持たず徒手空拳で戦うなんてマジであこがれるぜシビれるぜお前!」

 と、まるで我がことのように嬉しそうに語ってくれた。矢吹さんにそう言われると嬉しくて、ちょっと目頭が熱くなってしまった。こんな人にこんな風に褒められたことなんて自分の人生で一度もなかった。


 そして周りのシーカーの方々も大いに楽しそうに飲んで食べて語らっているのを見て、自分も最高に楽しい気分になった。恐らくきっとお酒に酔ったせいもあるんだろうけど、それでも本当に心地よいひと時だった。


 その後酔いを覚ました後で、矢吹さんと鈴森さんと一緒に大型テントの共同風呂に入り、明日でゲート内レクリエーション最終日だと話していたら矢吹さんが「お前絶対ゲートシーカーになれよ!」と言ったので、力強く「はい! なります!」と言ったら「おう! 待ってるぜ!」といって最高の笑顔を見せてくれた。鈴森さんも実に柔らかい笑顔で「私も待ってますよ冴内君」と言ってくれた。


 そうして最高の気分で3日目の夜を終え、木製ロッジの個室部屋へ帰ってきた。これだけ感動興奮したのだから眠れないかもと思ったが、布団に入ったらすぐに眠りに落ちた。

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