11:試し割り
昨晩は夜9時という時間に寝てしまったため、日の出前に目が覚めてしまった。どうしたものかと考えたが個室部屋にいても何の娯楽もないので装備品を身に着けて結局外に出た。
驚いたことに結構人がいて武器屋、防具屋、道具屋もやっているようだ。野外食堂もやっているようで何人かのシーカーが向かっている。食堂にある看板を見ると朝食が何種類か書かれていて日替わり弁当まであることを確認した。
とりあえず和食の朝食と昼飯用の日替わり弁当を注文する。朝食はご飯とやはり生卵、浅漬け、普通の味噌汁、焼き魚がついていた。日替わり弁当は何が入っているのか昼のお楽しみだ。
食後は今日もイノシシのいる草原に向かった。草原につくと遠くに他のシーカーの方が2名いて、イノシシを狩っていた。二人とも片手に盾と剣をもっていたが、力堂さんが持っていたものよりもだいぶ小さい盾と剣だ。
一人が両手で盾を持ちイノシシの突進を受け止めて、その間にもう一人が剣で首のあたりを突き刺しているようだ。何度か突きを繰り返すとイノシシは消滅した。
先客の先輩シーカーと思われる人がいたので、どうしたものかと考え、少しだけなら林に入ってもいいかと決めた。
草原と林の境界線を歩いていると、小川が見えてきた。見通しが良く草原から10メートルも離れてないのでここなら多分大丈夫だろうと思い小川に向かった。
小川についたもののイノシシのいる気配はなく、やはりやることがなくてどうしたものかと思っていたが、他にやることもないのでなんとなくチョップの素振りをやり始めた。大小さまざまな石のある地面なので足元がおぼつかなく、体裁きを含めた全身移動を伴う素振りではなくその場に立っての素振りになったのだが、昨日さんざん素振りをやったのでさすがに退屈だ。
そのうち以前ウィーチューブで見た試し割の動画で瓦を手刀で割っていたのを思い出し、ひょっとしたら自分にも出来るかもと思って近くにあった平べったくて薄い石を置いてみた。一応回復ドリンクもあるので大丈夫かなと思ったが、それでもやっぱり怖いので石の上にリュックを置いて、さらにその上にシャツを脱いで折り畳んで置いた。
何度か素振りを繰り返しては石の上で寸止めしてまさに動画でみた通りのものまねをしてみる。スーハーと何度か呼吸を繰り返して、ヨシッ!やるぞ!と意を決して石に向かって手刀を振り下ろした。
実のところ怖くて半分程度の力しか出していなかったのだがそれにも関わらず石は簡単に割れた。それどころか石をどかしてみると地面そのものにまで割れ目が出来ていた。小指側の手の側面も全く痛くない。
これならば!と思いちょっとだけ大きい石を探して今度はリュックやシャツなしで直に石に向かってチョップした。それでも素手なので怖くてさっきと同じくらいの力加減だった。準備動作もなくやってみたが石はあっさりと割れた。インパクトの瞬間確かに手応えのようなものはあるが全く痛みはない。それでもまだちょっと信じられなくて、さらに大きな石をみつけてチョップするとやはり割れた。
スゲーーーッ!と、思わず変な裏声が出てしまった。面白くなってどんどん大きい石を割っていき、石というよりも岩に近い大きさの石を割り、いよいよ自分の腰ぐらいまである岩すら割ってしまった。
そのあたりでちょっと手が熱をおびた感覚になったので、小川に手を突っ込んで冷やすと頭も少し冷静になった。
夢中になって試し割をしていたのでひょっとしたらまたもやレベルアップに気付かなかったかもしれないと思いステータスを確認したが特に変化はなかった。
もっと大きい岩を割ればレベルアップするのだろうかと思い、辺りを見渡すがもはやなかなかそれに見合う岩がなかったので、手頃な岩を求めて小川をもう少し探索することにしたところ、自分の背丈程はあろうかという大きな岩のかたまりを見つけた。
さすがにこれは・・・どうだろう・・・でもまぁ回復ドリンクもあるし一応やるだけやってみるかと思い、何度か深呼吸と素振りを繰り返した後に覚悟を決めた。危険な賭けではあるが、今度は恐怖で手加減することなく、全力を出すことを決意する。
力むことなくパカーンと割れるヴィジョンを脳内に強くイメージする。
スーーーーー・・・ハーーーーー・・・・
スーーーーー・・・ハーーーーー・・・・
スーーーーー・・・・・・・
ここで息を止めて、心の名でヨシッ!と気合一閃!
ヤーーーーッ!!バガァァァン!!
そこには筋肉質でもなんでもない普通の若干細身の青年が、自分の背丈程もある大きな岩の塊を素手で真っ二つにするという光景があった・・・
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