10:戦わない人達
野外食堂はフードコートのような感じで、給仕の人はおらずセルフサービスだ。
手書きのメニュー看板が分かりやすく目立つ場所の何か所かに置かれていて、シシ肉ステーキセットと書かれたところは取り消し線が引かれているが、シシ鍋定食と書かれたところは取り消し線がない。他にも焼き魚定食や煮魚定食、野菜キノコ炒め定食などが書かれていた。面白いことにスライムゼリー(桃/りんご)とか、スライムババロアなんていうデザートもあった。
とりあえず昨日食べたイノシシ肉のステーキが美味しかったのと、今日もイノシシ狩りをしたということでシシ鍋定食を注文し、同じく昨日飲んだ桃味のお酒がおいしかったので、スライムゼリー桃味も追加で注文することにした。
他のシーカーさんが注文するのをまねて、配膳カウンターの前に立ち、奥で調理している人達に向かって、大きめの声で注文すると「あいよー!」という返事をしてくれた。
注文し終わったので座席を探そうと見渡してみた。大小さまざまな手作りのテーブルとイスがあり、恐らく100人くらいは利用出来そうな規模だが今は20人程度だ。とりあえず身近にある小さめのテーブルに腰かけて料理を待つ。
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大戦後にゲートが出現してからおよそ80年。
その間様々なシーカーが生まれ育っては引退していった。中には戦えない人や戦わない人もいる。例えばこの野外食堂にいる料理人の人達や、武器職人、防具職人、薬剤師、大工などの専門職の人、さらには高齢のシーカーや怪我をして戦えなくなったシーカー、戦える能力があっても戦いを好まないシーカーなどが清掃作業やその他のサービス活動に従事している。
80年もゲート活動が続いているので、ゲート内での住環境は十分整っているといって良い。
一方でゲートに入らないシーカーもいる。一般社会で普通に暮らすことを選択するシーカーだ。
ギフトで与えられた能力は活用次第では非常に有益であるため、各々の方面で活躍し高収入を得ることが出来るチャンスがある。
身体面でも著しい能力向上が見込まれるため、オリンピックなどの競技大会には出場することはできないが、興行的なプロスポーツやシンプルに体力を使う職業で活かすことも可能だ。
ただゲート外の一般社会ではあまりレベルアップしないことが80年に渡る歴史で証明されているので、体力を活かすためにはゲート内でステータスを向上させる必要がある。
高い戦闘能力を有するシーカーは一般社会においては、存在そのものが非常に危険な脅威となる。
しかしこれまで80年に渡る歴史の中で、シーカーによる傷害事件は偶発的な事故を除きほとんど起きていない。
基本的にギフトを授けられた人達は常識的な人が多く、そもそもそういった人達にしかギフトが授けられないようだ。
しかしそれでも過去80年の歴史においてごくわずかだがシーカーが人を襲う事件があった。
何らかの精神支配を受けたのではないかとか、ゲート内の戦闘行為などで受けたケガや、恐怖体験から正常な精神が保てず錯乱したために一般人に対して攻撃したのではないかと憶測されるも、全ての事件が未遂に終わっているので原因は不明である。
事件が未遂に終わり原因が不明な理由は、事件対象のシーカーが人を傷つける直前に、輝く光とともに粒子となって消滅してしまったからだ。
またこれとは逆に一般人がシーカーを害しようとした場合、害しようとした人間が一定期間全身マヒ状態になることも確認されている。
そのためシーカーの能力を悪用しようとする反社会的組織や、軍事独裁国家などが強制的にシーカーを利用しようと試みた例があるがどれも成功しなかった。
軍事や反社会的ではなく警察や自衛目的で能力を使用した場合、それにより例え相手が凶悪犯であっても、人を害するようなことに能力を使用した場合、能力が消失するケースも確認された。ただレスキュー隊員など人命救助目的での能力利用は問題ないようだ。
他にも様々な事象が80年という歴史の中で立証されてきたので、ゲートシーカーは戦いを好む危険な存在という認識はほぼなく、際立った差別や偏見、排斥運動などは今ではほとんど起きていない。
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・・・といったことを以前シーカー講習で受講したことを、思い出していると注文した料理が出来たという声が届いた。
配膳カウンターに行って料理を受け取る際に、携帯端末を機械にかざして料金を支払った。合計でちょうど千円だった。
注文したシシ鍋セットは野菜がタップリ入った、イノシシのスライス肉入りの味噌汁で、数日煮込んだ濃厚な豚汁といった感じで、サービスで生卵つきのアツアツ大盛ご飯がセットになっている。
このシシ鍋汁が実に旨くご飯がもりもり進む。これまでどちらかというと小食だった自分だが、あっという間にペロリと完食してしまった。
そしてその後に食べたスライムゼリーだが、これがまた食後にほてった口の中をヒンヤリと冷やしてくれて、プルンとした食感とほんのり甘い桃の味が口の中に広がって、シシ鍋汁でこってりした口内を爽やかにしてくれた。
しばし食後の余韻を味わった後、野外食堂を後にし、今日も大型テントの共同風呂に行って汗を流した。
昨日風呂場の洗い場で下着を洗濯しているシーカーがいたのを見ていたので、それをまねて自分も今日は下着を洗濯した。木製ロッジの2階にある個室部屋に戻り、備え付けのハンガーに下着を干してノンビリしていたら眠くなったので、いつもよりもかなり早いが今日はもう寝ることにした。
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