第21話 司会者は泣いている

 それにしてもパーティー会場はすごい数の人だ。

 貴族や金持ちばかりなんだろう、さすが帝国一の街の領主のパーティだけある。


 僕はクルミさんの後ろを黙ってついて歩く。


 確かに入口までは一緒にいたはずなのにギンゾウさんはいつの間にかいなくなっている。


 すると会場内から突然大きな声が上がった。

 なんだか騒然としている。

 

 そちらに目をやると見知った顔があった。


 コウタロウさんが壇上でマイクのようなものを手に何かを言っている。


「え? コウタロウさん?」


「アダンさん。静かに」


「あ、はい」


 コウタロウさんはほとんどしゃべることができず泣いている。


「私、司会の、コウズカ・コウタロウと、申します。えー、あのー。」


 だめだ、全く司会になっていない。

 みんなの目がコウタロウさんに集まり、それが緊張をさらに加速させている。


「わたくし、魔石のことしかわかりません。そんな私がなぜこんな場所で司会をしているのか、自分でもわかりません。くぅ!」


 正直、あの役割が自分だったらと思うとぞっとする。


 きっとあれだ、コウタロウさんも被害者側だ。

 ギンゾウさんの口車に乗せられて知らず知らずのうちにあそこに立っているに違いない。


 それで会場がざわついていたのだが、コウタロウさんは助けを求めるように会場にいる人たちを見回していた。


 誰かを探しているようだ。


「え? あれ? まさか」

「その通りです」


 するといつの間に着替えたのかギンゾウさんがステージに上がる。


「さてさて、皆様、宴もたけなわでございますが、こちらの泣き虫司会者ちゃんが役に立たないため、これよりの司会はこのマルデウーソが務めさせていただきます!」


 なんであんな格好ができるんだろうかというほど派手な銀色のタキシードに赤い仮面だ。


「アダン君。私たちも舞台のそばへ行きましょうか」


 クルミさんは舞台に近づいていくので、僕も後ろに付き従う。



「さあさあ! お立合い! これから始まりますのは我が商会の自慢の大イベント! 本日はなんと! あの! あの! シラトナ・イチローが! この場に現れるのです! しかもただ現れるのではありません! なんと、なんと! 新しい魔道具をひっさげての登場です! それではご登場願いましょう! どうぞー!」


 なぜか、うおおおおおお、という歓声の中、僕のよく知る男がステージに現れた。


 会場にいる人はシラトナ・イチローなる人物に心当たりがあるんだろうか?


 少なくとも僕は知らない。

 あの! って言ってるけど、まあお客さんは盛り上がれば何でもいいのか。


 髭クルンおじさんのツワブキさんがなぜか甲冑のような衣装で舞台に登場し、なぜかいつもの格好のコウタロウさんはスポットライトを照らしている。次は照明係になったのか、ま、相変わらず泣いてるけど。


 ってこれ、いったい何が始まるんだろう?

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