第2話 Happy weding
冬が終わり数多の生き物たちが今にも起きようとしている三月の終わり。部屋中に二人の曲が鳴り響くと同時に彼女は純白のベールに身を包ませながら入ってきた。今に至るまで幾度となく彼女の姿をこの目で見てきた。だけどそのどれを足しても今の彼女の姿に勝ることはできないだろう。
二人で腕を組みながら、そして幸せな表情を顔の上に張り付けながら僕のもとに近寄ってくる。そんな彼女を僕はただひたすらに眺めている。おそらくこの姿を見るのは今日で最後になるだろう。だけどそんな悲しみ、残念さを僕に感じさせないほどの美しさを彼女は放っている。彼女は僕の前まで来ると僕に尋ねた。
ねえ、今日の私、どうかな。
こんなことを聞かれてた僕の中では答えは一つに決まっていた。だけどあまりにも様々な感情がその言葉を下に押し込んでくる。だから僕は彼女に対してすぐに答えられなっかった。その感情を抑えながらも一言。
すごくきれいだ。
彼女のたった三文字で表せるのかどうかはわからなかった。もしかしたら彼女を飾る言葉はもっとあったのかもしれない。だけど今の僕にはこの三文字でしか彼女の姿を表すことはできなかったし、それに十分なような気がした。
真冬に降り積もる純白の雪景色のような真っ白な衣装に身を包んだ彼女は僕と同じ存在とは到底思えなかった。まるで福音を告げに来た天使のようで、すぐにどっかに去ってしまうような気もした。そんな彼女に僕は近寄り彼女のベールを外す。そして僕たちは儀式的な言葉を交わし、儀式的な行為を終えた。
私たちこれから夫婦だね。
彼女は僕にそんな言葉をかける。だけど僕は事実を受け入れることができなかった。
うん。僕たちはこれから夫婦だ。ずっと一緒にいよう。
そんなありきたりな、本で目にするような言葉を彼女に行った。僕たちは二人だけの時間をただひたすらに感じながらお互いのこれからの人生のこと、子供は何人欲しか、新婚旅行はどこに行きたいかといったとりとめもない話をずっと話した。
彼女越しに見える景色はただひたすらに美しかった。木々の葉は動かず、月は私たちの上に白銀の弓を降り注いだ。僕たちのいるこの部屋、この空間のみが時が進んでいるような気がした。
彼女は僕よりも先に寝てしまった。僕はできるだけ彼女に身を寄せながらこれから待ち受けるであろう運命に打ちひしがれながらも二人の幸せを願いながら眠った。深い眠りに落ちた。意識がもうろうとしている中でもはっきりわかった。どれだけ深く落ちて行ってもまるで底が見えなかった。
あれから、あの日から随分と長い年月が経った気がする。僕はいつものように朝起き、食事を済ませ、そして彼女の顔をこの目に二度と忘れないように焼き付け言葉を交わしてから出かける。
僕たちが出会った桜の舞う四月。結局あの日からほとんど変わることはなかった。僕は今でも彼女を愛している。彼女のためならこの体を滅ぼすことだってできる。でもたぶん彼女はそんなことを許さないだろうが。そんな変わらない二人の関係は僕も深い眠りにつくまで変わらなかった。だけど一つ変わったことがあるとするのなら、それはあの幸せに包まれた僕たちの二人だけの日の後。天使は僕たち二人を祝福することはなかったことと、彼女の体は僕たちが夢に描いていた、二人でその先も描き続けるはずだった運命をことごとく拒絶してしまったことだろう。それだけが今でも一抹の曇りとなって僕の心に残り続けている。
短編 chisyaruma @chisyaruma
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