解散
涼
1初恋
それは、17歳の春。何気に通った、スクランブル交差点で、ストリートライヴをしている、3人組を見つけた。私は、一気にその歌声に引き込まれた。背は、小さかった。同い年くらい…いや、勘だが、1つくらいしたかも知れない。その時、一緒に歩いていた友達が、歩みを進めようとした瞬間、私は、彼女の腕を引っ張り、制止した。
「どうしたの?」
「その人たちの歌、良くない?」
「あー…確かに…」
友達の反応も悪くない。
遠回りに言っても仕方ない。
私は、その時、その3人組のボーカルの男の子に、恋をした。
しかし、私はこの3人を見つけるのが、少し遅かったようだ。周りには、結構ギャラリーがいたし、熱心な視線を送る可愛い女の子も中にはいた。私は、男子と接するのが下手だ。男子と話したことなど、中高合わせて、10回、あれば良い。いつも、緊張してしまって、…まぁ、自意識過剰と言うやつだろうか…。
幸い、恋はしたことがなかったので、その点で、困ることは今まで経験せずにすんでいた。
しかし、これは大問題に発展しそうだ。この胸のドキドキは何だろう?この胸の高鳴りは、なんの合図だろう?あの男の子から目が離せない。ただ、声がすき。一生懸命張り上げる声と、その高い声を出す為に、首筋に浮かび上がる血管。
ダメだ…と思った。もう好きになっていた。こんなほとんど男の子と碌に話した事の無い私が、何をどうやって赤の他人に自分をアピールすれば良いのか…。
最後までライヴを聞き終わると、その3人は日曜日にストリーライヴをしているという。もう決まった。毎週、通おう。
それからは、楽しかった。人を好きになるって、こんなに素敵な事なのだと、初めて知った。最初は、見て帰るだけだったが、少しずつ差し入れをするようになった。
…と言っても、話すのは一言三言。それでも、幸せだった。
…と言っても、幸せだったのは、ほんの数週間だった。なんでだろう?ライヴから帰ると、涙が止まらない。胸が苦しくて、苦しくて、恋を、恋をした自分を、恨んだ。それには、容易に想像できた未来があった。
ギャラリーがどんどん増えていったのだ。ほんの一言三言話し、やはり一つ下だと分かった時、私の持ち合わせているかもわからない自信が、崩壊していった。一つ下…そんなことが絶望に思える。相手にされるわけない…と。
私は、毎日泣いた。日記も、4ページに及び、その人に言えない気持ちが溢れ、たまった。
しかし、その時は、いきなり訪れた。
「僕たちは、解散します」
「え―――――!!!!」
ものすごいどよめきが、広場に響いた。
私は、目の前が真っ暗になった。
(もう…会えない?少し…ほんの少し…話せればよかったのに…苦しくても、悲しくても、辛くても、叶わなくても、会えるだけで、歌を聞けるだけで…それで…良かったのに…)
それから、高校を卒業するまで、私は、その人を想い続けた。…と言うより、忘れることが出来なかったのだ。
初恋とは、こんなにも、胸に残るものなのだ…と、こんなに消えない存在になるのだ…と、思い知らされた。
でも、良かった。会えて。恋して。話せて。苦しくて。切なくて。
全てが、私の中の、消えない存在。
解散 涼 @m-amiya
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