はぐれ魔族との戦い

 首の骨を砕く感触と共に、ラプスは颯爽と着地した。レベルアップによる影響か、着地でのダメージなどもない。


「な、何だぁ!?」


 はぐれ魔族たちは驚きと共に、一斉に武器を構える。片手剣のようだが、ぼろぼろにさびているような粗悪品ばかりだ。


「あ、貴方は……?」

「……通りすがりだったから、助けに来た」

「え?」

「な、何だこのガキぃ!」


 目を丸くしている女性の手を拘束していたはぐれ魔族が、一瞬の硬直から慌ててこちらを攻撃してきた。掴みかかる攻撃である。


(……こいつら、あのバケモノに比べたら、全然大したことないな!)


 勇んで助けに来たはいいものの、はぐれ魔族とやらが強かったらどうしようと思わなくもなかったが――――――ドラゴンゾンビとの戦いのせいか、俺たちのレベルははるか上らしかった。


「種族 レッサーデーモン 系統 魔族 地属性


 レベル 6


 ステータス

 HP E

 MP E

 攻撃 E

 防御 E

 魔法攻撃 F

 魔法防御 F

 器用さ  F

 敏捷   E

 幸運   F


 スキル(パッシブ) なし」


 想像以上に雑魚だった。ドラゴンゾンビどころか、廃棄孔にいたブロブ以下じゃないか。……というか、ドラゴンゾンビだけがやけに強すぎたまである。


「ラプス、こいつら、大したことないぞ」

「そりゃそうだよ、所詮落ちこぼれだもん」


 掴みかかって来た男の顔面に、俺のこぶしが叩き込まれる。攻撃力強化の魔法なんか使わなくたって、男の頭蓋は簡単に砕けた。

 ひっくり返る様に拘束していた男が倒れたことで、女性は完全に自由になった。

 だが、ラプスと女性を囲むように、男たちは剣を抜いて構えている。


「このクソガキ、どこから現れやがった……!」

「うらああっ!」


 男の振りかぶった剣を、ラプスは難なく躱した。そして俺は、空を切った錆びまみれの刃を掴んだ。


「――――――『ラーニング』!」


 叫ぶと同時、剣の構造が俺の中に流れ込む。


「――――――『ラーニング』終了。新たな『構造変化』を取得しました。

 TIPS 『構造変化:シャープブレード』

 使用中、攻撃ランクが1段階上昇 」


「『構造変化:シャープブレード』!」


 俺が叫ぶと、俺の形はみるみる変わっていった。


そして右腕そのものが、漆黒の剣へと変形する。


「おお……すごっ!」

「な、何だコイツ!?」


 ラプスは自分の腕の変化に驚嘆し、はぐれ魔族は一瞬ひるんだが、すぐさま切り返して剣を振りかぶる。


「はああああああっ!」


 ラプスも負けじと、ブレードを振りかぶった。

 ぶつかり合った刃は、さびた剣を一刀のもとに両断する。


「げ、げえっ!?」


 動揺した男の首を、返す形で振りかぶられたブレードが斬りおとす。男は絶命し、その場に倒れた。


「う、うううう、くそぉっ!」


 男たちは剣を構えるが、完全に気圧されていた。滴る血を振り払ったところで、俺の形は元に戻った。


「……まだやるなら、容赦しないよ」

「――――――! お、覚えてやがれっ!」


 生き残ったはぐれ魔族2人は、慌てるように逃げていった。完全に視界から消えたことを確認し、俺たちは息を吐く。


「ふぅ。……大したことなかったね」

「ああ。レベルアップもしないしな……」


 だが、まあ、収穫はあった。新しい『構造変化』も覚えることができたし。


 それに、何より。


「あの、大丈夫?」

「え、ええ……。あの、ありがとう」


 この女の人を救うことができたのだから。魔族の倫理には合わないかもしれないが、やはり俺は人助けするのは気持ちが良かった。

 女の人も、俺たちに対する警戒心は薄い。助けてもらったのもあるだろうが、ラプスが女性であるから、というのもある。男の俺も一応いるにはいるが、向こうは気づいていなかった。まあ、今の俺はただの【右腕】だしなあ……。


「この草原、地元の人は近寄らないよ? さっきみたいなのが住み着いてるから」

「そうなのね……私、全然知らなくて」


 女性は髪を整え、服を整え。身なりを正すと、改めて俺たちに頭を下げた。


「助けてくれてありがとう。それで、お願いがあるんだけど……。この先の町まで、着いてきてくれないかしら? 誰かと一緒じゃないと、怖くて……」

「はあ。……ねえ、【右腕アンタ】はどーする?」

「え?」


 ラプスが右腕に話しかけるのを見て、女性は戸惑っていた。そりゃそうだよね。


(……どーするか……)


 俺は正直、ちょっと迷った。下手に話しかけて、女性を怖がらせてもなあ。かといって黙っていれば、ラプスは、頭がちょっと残念な少女に見えてしまうだろう。


「……あの、なんで腕に聞いてるの?」

「私の【右腕】、喋るんだよね」


 ああもう、バラしちゃったよ。じゃあ、もう喋るしかねーじゃん。ドン引きされても俺知らねえからな。


「……あー、どうも。【右腕】です」

「まあ。変わった腕を持ってるのね! あなたも助けてくれたのね。ありがとう!」


 さすが、ファンタジー世界。度量が広いや! 腕が喋るくらいじゃ全然動じねえ!

女性に優しく撫でられながら、俺は「えへへへへ」と、我ながら気持ち悪い笑いを浮かべていた。

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転生先は、魔王の右腕!! ヤマタケ @yamadakeitaro

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