第3章 2話 人事異動(後編)


「異議とはどう言うことかな?ルル、ロキ、ハナ?」


意外な人も出てきてるな。それにロキか。まぁこっちはある程度予想つくけど、聞きましょう。部下の反対を握り潰すのでは無く、しっかりと聞くのも、総支配人(仮)の役目ですから。


「じゃあ私から。なんで私がファストに残るの? 別にファストは嫌いじゃ無いし、お姉ちゃんもいるならと思うけど、踊り子の夢を応援してくれるなら、大きい町に私も行きたいです!」


「んーと、未成年だからって部分が大きいかな。あとはハナに話しを聞いて、まだ教えられることは山程あると言ってたので、まぁ成人したらおいでよ。村が近くてご両親に近い方がいいだろうし。向上心と上昇志向は買うけど他に理由はないんだよね?」


「うっ、思ったよりまともな理由、おにいちゃんが偉い人をしている。まぁ別にララちゃんだけ連れてくのはズルいって少し思ったけど、それが理由ではないもん!」


 うん、それが理由なんだな。ララだけってわけでもないんだけどな。ハケン村からも連れて行くし、なんでララだけ特別に見てるんだろう。まぁ従業員の不満を解消するのも俺の役目か。


「ララはもうすぐ成人だしね。ルルが14歳になれば次は成人だから、ハナから教わることが無くなって、その時にもう一度来たいなら考えるよ。昇格や降格..や異動人事は定期的にあるから。あとルルはオールインの酒場の人気娘なんだから、辞めるまでに後任を育てないとね」


「ゔぇ? 私が育てるの? 人を?」


 変な声が出たルルにしっかりと説明しておこう。ついでに周りにも話しておこう。僕がレオに言われた悔しい言葉を。


「引き継ぎをするのは社会人として、大人としての基本だからね。例えばルルが突然辞めて、ルル目当てに来ていたお客様が来なくなったら? 君はこの宿屋の酒場に損害を与えた事になる」


「でも、そんなのやってる人いないよ。他の酒場でも突然お客さんと結婚するってこの間やめた子も居たし」


「ルル、君は世界一になるのに、なんで出来ない人の真似をしようとするんだ? 下を見ないで上を見てくれ。この世界に引き継ぎの文化が無いなら僕がその文化を作る。ルルだけじゃ無い。他のみんなもだよ。辞めるのは許さないなんてことは言わないけど、早目に言うことや、自分の代わりを育てると言うことは、徹底して欲しい」


「わかった。でもおにいちゃんが言った事全部やったら、私もおにいちゃんのところに行くからね! 踊りも仕事も頑張ります」


「うん、待ってるよ。頑張ってね」


 しんとその場が静まりかえり、たまにヒソヒソと「天然たらし」とか聞こえた気がしたが気のせいだろう。ルルも含めて、とりあえず俺の話を聞いてくれたようだ。新しい事を定着させるのは難しいから気長に行こう。


「それじゃあ次は俺だな。にいちゃん、俺はファストにも残らないし、サーズにもいかない」


「「ベルドラに行く」」


 はっ? て顔したロキがいる。まぁ最後の一言を被せて行ったのは僕だから、そうなるだろう。レオの指導で技術的な部分も伸びたし、師匠が欲しがってた・・いやこっちは内緒にしておこう。


「なんでわかったんだ? 俺、ねえちゃんにも言ってなかったのに。師匠が言ったのか?」


「その、師匠というのは僕では無くレオのことだね? 寂しいなぁ。いや恩着せがましいわけじゃ無いけど、宿屋でも働かなかった君に金貨を出してまで村から連れ出したのは僕なのに。戦闘の基本や体力作りを教えたのも僕だったよね」


「ご主人様?どうされたのですか? ロキ! お姉ちゃんは反対だよ! まだ貴方は11歳なんだから」


 それはそうだよなー。成人してないって言う理由ならロキも同じだし。でもこっちは本人が行きたいなら行かせてやろうと思ってる。

 何故って、もう僕にも教えられることはないからだ。本当に僕の目は正しかったよ。じゃああの態度はって? 嫉妬ですよ。


「まぁ元々僕は君を『竜の息吹』加入させる予定ではあったよ。予定よりかなり早いけどね。その件はベルドラの師匠にもレオにもやんわり伝えてあるから、OKだ。もう僕教えられる事ないし」


「にいちゃん……イヤ師匠今までありがとうございます! 立派な冒険者になって、故郷にも、にいちゃんにも恩返しするから」


「いや、ララと君の両親の承諾は自分で取るんだよ。あと君の代わりの僕らの護衛は君が探すんだ。今はモンとキーもいないからね」


「俺まだ11歳……「一人前の大人としてここを出て行くんだから、大人としての仕事をしなさい」はい……」


 いい話し風にまとめかけたロキにも引き継ぎをするように言って、この異議も終了。モンとキーが帰って来てくれればいかせてあげられるんだけどね……生きてるかな?


 最後はハナだけど、そもそもこの娘は酒場だけのアルバイトだし、ギルドの受付の仕事もあるから、一応名前書いたけどファストに残る以外はないと思うんだけどな。


「最後は私ですね? 私もサーズに行きたいです!何故声をかけてくれないのですか?」


「いや、ハナは冒険者ギルドの受付でしょ? 逆になんでサーズの町に行けると思ったの? 早馬でも1日は掛かるからギルドの受付との掛け持ちは無理だからね」


「辞めます! 私、実は都会志向なので。タツヤさんの話だといずれ王都にも、お店出すんですよね?ギルドの受付の試験で行ったきりですよ。ギルドは異動希望してもイチ受付嬢はそんなに希望通らないんですよね。私がギルマスになるより、そっちの方が早いので。その為ならタツヤさんをご主人様と呼ぶ覚悟も辞さないですよ」


 ギロリとララの目が光るがそれはスルー。

そんな事でこの世界の難関とされるギルド職員国家資格を辞めると思わないじゃないか。計算読み書き言葉遣いなど、ハナの能力が高いのはわかるが冒険者ギルドから睨まれたくないし、僕はとりあえず頷いて次の日ファストのギルド長にチクった。


「ちょっと、裏切りましたね。ご主人様ぁぁ! 私も都会に連れてって下さいよぉぉ!」


「ギルドの人事異動で奇数の町に来たらまたその街でも雇うから。後任を育てないでギルド辞めて来ても雇わないからね。そもそもルルの踊りの先生頼んで承諾したでしょ? あと、往来で……往来じゃ無くてもご主人様呼びやめて! そんな関係じゃないからね。冒険者に君のファン多いんだから! 勘違いで僕がやられる」


 拝啓、以前お会いした時のクールビューティーのハナさん、お元気でしょうか? 僕は元気でやってます。貴方の脱いだ猫の皮は今どこにあるんでしょうか?僕は探しに行きたくてたまらないです。


まぁそんな紆余曲折あり、1ヶ月間でサーズの不動産屋や、改装のお願い、お客様のリサーチなどを終わらせて、ようやく僕達はサーズの町にたどり着いた。夜も遅かったので他の宿に宿泊して、明日自分の宿を見に行くところだ。本当に、疲れたよ。

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