第3章 3話劇的にビフォーアフター
一夜明けてサーズの街を散策する。やはりこの街はデカい。下手をするとベルドラよりも栄えている。
ベルドラは王都からは近いが、同時に近くに魔物が多い街でもある。それに比べてサーズは魔物は出るものの充分に対応できる騎士と冒険者がいて交易も栄えている。
何と言えばいいか……そう! 東京の歓楽街は六本木や渋谷や新宿が有名だが、住みやすい街に選ばれるのは吉祥寺や自由が丘のような感じだ。
そうして散策を終えて宿に戻り、皆と合流してサーズの街の大工さんの元に向かった。
「こんにちは棟梁、出来てますか?」
「おぅ、お前さんか! しっかりと出来とるよ。ついて来な」
この街の下見に来た時、居抜きの宿屋があったのだ。内装はまだ使える状態だったがこの世界の人もゲンを担ぐようで、潰れた所でまた同じ商売をやる人もいないらしく、好立地にも関わらず売れ残っていたのだ。
俺は一目惚れしてすぐに買った。不動産屋に話を聞き、その足で不動産屋から紹介された信頼できる大工に改装、増築してもらったのが、この『オールイン・サーズ1号店』だ。
ご覧下さい! 使える状態と言っても、中古感の隠せなかった建物は新築同様の輝きを見せ、柱にはオーナー自ら狩って来た強固なトレントを使っています。
強度を増した宿は二階建てから4階建てに建て増しされ、4階にはオールインお馴染みの、スイートルーム。今回は部屋にオンとオフの利く防音魔法。そしてダンダルに依頼して作ってもらった、ワイルダートレントのベッド。このベッドには追加機能がありますがそれはまた別の機会にご紹介しましょう。コンマンの宿に残っていた調度品を飾り付け、品の良い部屋になっております。
匠の技によって改装された宿は劇的にビフォーでアフターしているのです。
中庭に出てみましょう。
ファストの町よりも更に広い土地だった為、オールイン名物サウナ、水風呂、休憩テラスは勿論のこと、今回は通常の浴場も追加されました。
貴族の間でも石で作られた浴槽がメインの中、檜のように香る木を探し当て乾燥させ浴槽にして東屋のような屋根を作って貰い完全な、日本式の檜?風呂を完成させました。
そして一階の受付横には、当グループの誇る総料理長が腕を振るう、食堂兼酒場。前世の記憶を使い、システムキッチンを再現。その使いやすさにヘイホーも涙しました。
今回1番こだわったのはその酒場の隣にポツンと立つ一軒の小屋。中に入ってみると、バーカウンターがあり、10人ほどしか座れないカウンター席と、その後ろに4人用のボックス席が2つだけの、いわゆるオーセンティックバー《正 統 派》
そんなもの何故作ったかって? そろそろビフォーでアフターな口調をやめて説明しよう。この世界は割と酒は進んでいるのにカクテル文化が無いのだ。あって水割りとか。あと、ノンアルコールの炭酸もない。つまりこんな感じのバーも無い。原酒をそのまま飲むのが一般的なスタイルだから。
宿屋の本懐では無いかもしれないが、俺は観光地と名高いサーズでバーとカクテル文化を広めようと思ったのだ。
嘘です! まぁホントだけど建前です。お酒は結構好きで、学生の時はバーでアルバイトしたことも少しあります。バーテンダーさんとお客さんの関係って格好いいんだよ! バーにはドラマがあるんだよ! バーテンダーやりたいんだよ!
「棟梁、あんた最高だあ!」
「お、おぅ気に入ってくれて良かったぜ」
思わず抱きついた俺に若干引き気味な棟梁を見送り、オープンには必ず来てくれと約束して、みんなに向き直った。
「それでどうかな? この新しい宿は? 僕的にはかなりいいものになったと思ってるんだけど」
「早く厨房に行きてえよ! あんな厨房見た事ねえ。あれは大将のアイデアなのか? やっぱりアレだな! もう何度目かの宿屋の完成に立ち会ってるけど良いもんだなー」
「素晴らしいです。こんなに素敵な場所でまた働けるなんてララは幸せ者です」
ヘイホーと、ララは感情のままに喜び、マリアは微笑みを浮かべて頷く。みんなにも上々な反応をもらえて俺も大満足だ。
「「ただ?」」
「ん?」
「何で酒場が2個もあるんだ? しかもこっちはなんか辛気くせえ感じのする薄暗い感じだ。大将のやる事はわかんねえことが多いがこの酒場は特にわかんねえ」
「私も宿にある明るい酒場だけでいいかと思います。あっ! もちろん、ご主人様には深い考えがあるんだと思ってますよ!」
いいねえ。それでこそやりがいがある。以前サウナを作った時はこんな意見も言ってこなかった。蒸し風呂と似たような説明もあったが、みんな周りをみる生活の余裕もなかったしね。そして今はその余裕があるから、そんな疑問も生まれた。とてもいい事だ。
「そうだな。二人の言うことも尤もだ。まぁ半分は僕の趣味みたいな物だから。オープン前にこの酒場……バーって言うんだけど、みんなをお客様としてここがどんな意図のある建物か知ってもらうようにするよ」
そう説明して宿のお披露目も終わったので、今日は自由行動にして俺は冒険者ギルドに向かった。ヘイホーは一家で街にお出かけ、ララは仕事だと言ったけど、僕について来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます