閑話 人材派遣村



 自らの夢を口に出してそれに向かっていこうと決めたあと、ルルはリリと話をした


「ねぇ、お姉ちゃんは将来の夢とかあるの?」


「えっ何よ急に、今はまだ無いかな。村をもっと豊かにしたいし、宿だってもっとご主人様の役に立ちたいし、忙しくて考えられないよ」


 ふーん、そんなものかと姉妹の会話はそれで終わった。


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「これはこれはタツヤ様! 今日も何人か御所望で?」


「あぁ、何人かお願いします。しかし僕が言うのもなんだが、農作業の方は大丈夫なのですか?」


「えぇ、忙しい時期にはタツヤ様が子供達を買ってくれた資金で隣の村から安く雇い入れていますから。それにララ達4人も村にお金を入れてくれております」


「村長、僕は買ってなどいない。任期が終わったらいつでも帰っていいと言っているんだよ」


 わかっておりますと、失言に頭を下げる村長。程なくして5人の子供が集められて来た。13歳から15歳くらいの子供が達也の前で挨拶をする。


「ご主人様、今日からよろしくお願いします!」


「どうですか? 5人とも健康で働きそうな子達でしょう。簡単な計算とほんの少しですが、読み書きもできます」


 得意そうに、子供達を自慢する村長だが、セーのという掛け声ありきでも、挨拶が揃っていた時点で、達也は気付いていた。


「それではこれで」


「ありがとうございます。おや? 25枚では? 30枚もございます。私が気付かなければ大損ですよ。タツヤ様らしくありませんなあ」


「教育の手間が少しですが減った分ですよ。優秀な人材を育ててくれた、村や親御さんへの正当な報酬です。で、誰ですか?」


 村長の計算能力も上がっているしこれはもう間違いない。一目でいい当てられた事にどきりとしつつも、村長はニヤリとして答える。


「リリにございます」


「へー。リリ、ララ、バインの誰かとは思ったが、教育は誰が? リリはそんなに来れないでしょう?」


「リリの母親がやっております。あれは未亡人ですし、リリとララがタツヤ様に迎えられ、その後も定期的に2人がお金を入れているようで、畑は人に貸しているのです」


 なるほど、それなら出来ない事はないか。達也はリリの母親のところに連れて行って貰うと、そこは小さな学校のようになっていて、中では辿々しくも、リリの母親が教師をしている。文字を覚えるための本や計算の本、紙などもある。


「やぁ、お久しぶりです。とても素晴らしいことをしていますね」


「これはタツヤ様、娘がお世話になっております」


 うやうやしく頭を下げる姿もなかなかなものだ。いつからやっていたのかわからないが本人も村の為と勉強したのだろう。

 聞けばリリも週に一度、多い時は2度(今は週休2日)教えに来ているという。


「これからも村と僕の為に、いい人材を育てて下さい。それではこれで」


「今日も、過分に高値をつけてくれたと聞きました。勿体無いお言葉です」


 リリの母親と別れると達也は5人を連れて、ファストの町に帰って来た。そうしてリリを呼び出す。

「失礼します。ご主人様。リリです」


「リリ、よくやった。まぁ僕の為ではなく、村のためだとは思うが、とてもいい事だと思うよ。これを」


 達也は金貨を3枚リリに渡した。


「へっ? 何ですかこれ? 私は何をしたんですか?」


「今日村に行って君が村の子供達にマナーや計算を教える環境を作り、君自身も手伝いに行っていると聞いた。そのおかげで僕は優秀な人材を得ることができたから、お礼みたいなものだよ」


「貰えません! ララもたまに手伝ってくれているし、これはタツヤ様に命じられてやった事ではないので。本業を疎かにする事は無いのでこれからも続けさせていただければそれで充分でございます! えっ、あっ、あの、ありがとうございます……」


 マリアから学んだら笑顔で無言で圧で受け取らせる事に成功して、そして達也は続ける。


「今回のはちょっと違うかもだけど、やった仕事が成果出てるのに、認められないってとても嫌な事だよね。信賞必罰って言ってね、罪には罰を。信、まぁ、僕の為になった事にはご褒美があげたいんだよ。受け取ってくれてよかった。リリが受け取らないと今後の人も受け取りづらくなるところだったよ」


「しかし、それでは恩返しになりません。私達はタツヤ様の為に、そして村のためにやっていたのに」


「じゃあさ、もしリリが人に教えたりするの好きなら、オールイン系列で学校でも作っちゃおうか。それで他の村とかからも集めてさぁ。奴隷じゃなくて、自分の意思で交渉してみんなが働きに行けるような感じでやってみない? 例えば週二回は村に行って、後はホテルで働くとか。ホテルで、リリの後釜が見つかったら村に専念してもいいし。お給料は僕が頼んだ仕事だからちゃんと払うからさ。どう?」


 突然の展開に、ワンブレスで話す達也。頭が追いつかないリリ。まるで先日のルルのデジャヴのようである。が当然リリはそんな事を知らない。理解したあと、一応答えは保留にしたが、リリの心は決まっていた。


 数日後、休みの日に村を訪れたリリは達也が1人あたり、金貨を上乗せして村人達を雇ったことを聞く。全く本当に恩返しをさせてくれない、ご主人様だ。と涙を流した。


「ご主人様、わたしやってみます。それでこの機会にあの村に名前を付けたいのですが、村長とも話してやはりタツヤ様の名をいただきたいと思うのですがいかがでしょうか?」  


「えっ? タツヤ村ってこと? いやだよ!」


「ですが、村長もそれがいいと賛成してくださって」


「絶対だめ! そんな名前にするならもう村から雇用しないんだからね!」


「ふふっ、はいわかりました」




 私はリリ。最近私には夢ができた。

 ご主人様が世界中につくるという宿の従業員をうちの村から多く輩出することだ。

 えっ? 素敵な人だとは思うけど、ララに殺される覚悟がないとそこは無理だ。


 余談だが村の名前はタツヤ様が名付けてくれたハケン村、しかし村人の間では密かにタツヤ村と呼ばれている。


この後数年後、商人や冒険者や店員など、様々な講師を迎えた、異世界初の人材派遣会社いや、人材派遣村が誕生するが、それはまた別の話。 



後書き

やはりみんなが主役になれるスタイルはいい!


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