日常話 ルルは宿屋になりたくない!

閑話じゃなくて本編にあっても良いような日常の話、でも二章完結してるし!って思ったらつけた、タイトル 日常話です。


主役以外が輝く会はやっぱりいい!


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「いらっしゃいませ」


「ルル、まだ研修をしているのは貴方だけよ。貴方の村からまた何人か新しい人が入って来るんだから、このままだと一緒に研修することになるわよ」


 マリアがため息を吐いて、ルルに言う。むくれたように、ルルは俯く。


「さぁ、もう1度。背筋を伸ばしてしっかりね」


「はい!いらっしゃいませ!」


「もう、言ってるでしょ。宿屋はあなたが主役じゃ無いの。酒場じゃ無いんだから貴女が主役じゃなくていいの、酒場でもあなたが主役である必要もないんだけど……」


 マリアはため息を吐く。酒場で働いて、ギルドの受付のハナに踊りを習ってからは、この子には元々あった華が開いてしまった。それ自体はいいことなのだろうが、問題はオンとオフが出来ないこと。


「私は踊り子になるの! 宿屋になんてならない! もうお兄ちゃんが言った様に最初のお金の分は働いたし、私は自分のしたい事をしていいでしょう? 私はお姉ちゃんとか他の人みたいに操り人形みたいに命令された事しかしない人生は送らない!」


「……ルル、あなた今自分が何を言ったかわかっているの?」


 フロアの温度が下がるのを感じる。別に達也からも、ルルは酒場とかじゃ無くても、承認欲求が強いから人に見られるとか褒められやすい仕事の方がいいかもとは言われている。だがそうでは無い。マリアは恩知らずに怒っているのだ。


「私は間違ってない! お兄ちゃんには感謝してるけど、それはもう酒場で返してるよ!」


「ルル、あなた!」


 マリアが珍しく声を荒げると途中でルルは走り去ってしまった。

 憤怒の表情で、追いかけようとするマリアを偶然聞いていた達也が止める。


「タツヤ様⁉︎ ……申し訳有りません。私の落ち度です。ルルにはしっかりと言い聞かせますので」


「いや、マリアもそんな風に怒ることあるんだね。僕が行くよ」


「あの!……どうか寛大なご配慮をお願いします。あの年頃の娘はああいうのが普通で、むしろララとリリの聞き分けが良すぎただけで」


 あぁ反抗期的な? と理解して、あの言い合いからもルルを庇うマリアに感心しつつ、ルルを探しに行った。


「みーつけた」


「ヒッ!?」


 かなりの間走って森の方まで来たのに、達也がすぐに追いついてきたので、ルルは吃驚した。


「帰るよルル、マリアも心配してたよ」


「私はわるくないもん! 謝らないよ。私は宿屋で働かない。私は踊り子になっていつか大きな舞台で踊るの」


「いいんじゃない? 夢は人それぞれだし、僕は宿屋の店員として君を雇ったけど、あまり向いてそうにないし」


 いいんだ? 私は仕事をクビになったのかな? そうするとどうすればいいんだろう? ハナさんに聞けばわかるかな? あまりにもあっさりと許された事に頭がパニックになる。


「やめたいなら、やめてもいいし酒場の方でだけ働きたいならそうしてもいい。でも礼儀の研修はOKが出るまで続けなさい。計算も、文字も」


「なんで? 必要ないでしょそんなの? 私はもっと自由に……」


「ルル、僕も良くは知らないけど、踊り子は何歳までできる仕事なの? 礼儀もなくてギャラの計算も出来ないような、バカで中身の無い踊り子が、歳をとって腰が曲がっても舞台をもらえるの?」


 ただなりたいと言ったルルよりよっぽど達也の方が未来を考えてくれた。確かに、今の自分では踊れなくなったら終わりだ。


「それに、やるなら王族や貴族が見に来たりするくらいの踊り子になって欲しい。その時になって、君が礼儀知らずだったら見せ物としか見られない。だけど君が貴族令嬢並みの礼節をもって対応したら、ルルの価値が上がるし、故郷は何処とか聞かれて、答えた時にあの村はそんなに素晴らしいのかと、村も見直されて貴族や商人あたりがあの村に訪れてそこから仕事を見つける人もいるかもしれない」


 捲し立てるように喋る達也にポカーンとしながら、聞いているとだんだん自分が恥ずかしくなってきた。


「私、自分の事ばっかりで何も考えてなかった。マリアさんにも酷いこと言って、お姉ちゃん達のこともつまらない人生って見てた」


「反省できるのは良いことだよ。とりあえず成人するまではうちに居なさい。研修の分は今まで通り仕事にしておいてあげるから。その代わり世界一のダンサーになったら私はオールインに育てられましたって舞台とかインタビューで言ってよね。」


「せかい……いち?」


「え? なる気ないの? ダメだよ夢は大きく持たないと。ハナからもう教える事がないって言われたら、違う街から先生も呼んであげるから言うんだよ。さっ、帰ろうか」


 にこやかにそんな事を言う達也を見るとなんだか顔が熱くなってくる。呆然としながら手を引かれ、宿に帰ったルルはマリアに謝って昼からやる気に満ちて孤児院に行った。


「タツヤ様、あの子に何を言ったんですか? 研修に対する真剣さが今迄と段違いで、やる気があり過ぎて違う問題もありますけど」


「えっ、特に何も。あっ、夢は大きく持てってくらい? 華があるのは良いよねー。僕はそこが足りなかったから」


 やる気に満ち過ぎて人を違う意味で惹きつけてしまう挨拶でもしてるんだろうと達也は推測しマリアの問いに答えた。成人したら職業に踊り子でも付いてくれれば良いなーと、思う達也だった。




 私はルル、わたしには夢と目標がある。

世界一の踊り子になる。

もっと村のみんなにも、わたしがたまたま得た、幸運を分けてあげる。

それで夢が叶ったら好きな人のお嫁さんになる。ライバルは強敵ばかりだけど、覚悟しててね。おにいちゃん。




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ルル「レビューポイント下さい!」


ハナ「そんな直接的に言っても貰えるならみんなやってますよ。踊り子になるなら、踊りでチップをもらうみたいに、ポイントもフォローも貰わないと」


ルル「でも文字しか無いから、わたしが踊っても伝わらないよ」


ハナ「ルル、優れた技術に限界は無いのよ! ポイント下さい、フォローしてくださいって思いながら踊りなさい。きっと伝わるから。」


ルル「はい! 一生懸命踊るからわたしの踊り見てってくださいね」


ハナ「きっと伝わったわ」

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