エピローグ side アメリア

「あの、アメリア……さんこれからちょっと出掛けないか?」


「ひっ? えっ? しょっ、しょうがないわね。ちょっと待ってて、準備してくるから。急に言われても困るのよね。女の子は色々あるのに」


思わず変な声が出た。同じパーティにいた3年間でも一度もタツヤから誘われた事はない。そして嬉しいくせに、悪態をついてしまう。


「えっ、じゃあやっぱり今日は無しにする?」


「そんなこと言ってないでしょ⁉︎ 待ってなさい30分で準備しちゃうから」


 私は速攻で二階の自分の部屋に戻り髪を梳かして、服を着替える。お気に入りの服を着た後ふと、クローゼットにある見慣れない服が私を呼ぶ。まるで今着ないでいつ着るのと、私を叱責するかのように、佇んでいる。

 自分には似合わないと思ったそれを履いて私は下に降りた。


「お待たせ。遅くなってごめんね」


「いや、待ってねーし!」


 何かしらその喋り方? 私が笑っていると、彼はバツが悪そうに私を見た後固まった。やっぱりこんな可愛いスカートは、私には似合わないのだろうか?


 とても似合っていると褒めてもらえて私のテンションは上がって行く。ありがとうとも言えなかった私を彼はとても雰囲気の良い喫茶店に連れてきてくれた。


「それで、レオとソフィアがなかなか進展しないから私がこのファスト行きを提案してあげたのよ。思ったより良い所でよかった……ちょっと達也聞いてるの?」


「あぁ、悪い悪い。お前らが来てくれて嬉しかったよ。もうお別れだけどな」


 なんでそんなこと言うのかな。考えないようにしてたのに。

 それにしてもいつもは頭の回転の速い、聡明な印象の彼が今日はどこか変だ。

 私ばかりが喋っているうちに鐘が二つは鳴った。私の話を聞いてくれる達也も好きなんだけど、本当に今日はどこか上の空だ。


 なんだかムードの良いところばかりに連れて行かれるなと思う。そしてその先でいつもモジモジしている。流石の私も彼が何か私にアクションしようとしていることがわかる。

 あぁ焦ったい、私もうララから聞いてるのよ。私が自分の気持ちを話しちゃってるって。なんで安全なのに来ないの!


 そうしていろいろ回った後、夕暮れどきになってきた。もう私が言っちゃおうかしら。でも男の人から言って欲しいのよね。

 まぁ、ホントはそんな勇気あったらパーティにいる時にとっくに言ってるのだけど。

 そんな事を考えていると、タツヤが連れて行きたい場所があると言ってきた。


「ねぇこんな人気のないところに何があるの? いやらしいことでもする気?


「するか! そっ、それは行ってのお楽しみだよ!」


 うん、いつもの計算づくの顔じゃないわこれ。まさか知らないの?

 私達は軽口を叩きながらその場所に着いた。


「綺麗、こんなのエルフの森でも見た事無いわ」


「あぁ、ホタルか? 本当に綺麗だ」


 やっぱり何があるか知らなかったのね。でもこんなに素敵な場所に連れて来てくれたからいいわ。水辺には花も咲いていて、本当に綺麗な場所。でも何でこんな所を知ってるのかしら。そうして彼は言葉を紡ぎ始める。


「だから何よ? 言いたい事あるなら言いなさいよ。……待っててあげるから」


 自分でもビックリするくらい優しい言葉が出た。いつもの私なら「早く言いなさいよ! 馬鹿なの?」くらい言いそうなものだ。



「あの……前に言ってただろ? 俺の……いや違う、エルフの風習で結婚を申し込む時は木の素材の指輪を男性が送るって。エルフの……ふー、俺の国では、左手の薬指に男女が同じ指輪を付ける風習があって。あっ、でもいやなら、あの、その、つまり……」


「大丈夫。ゆっくりでいいから最後まで聞かせて」


崩壊しかけの涙腺を押し止めたのは余りにもお粗末な言葉。将来誰かに話す時、彼の中でスマートなモノに改竄されてたらそっとしておいてあげようって言うレベルだわ。


「俺と結婚して欲しい。必ず幸せにするから」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


何で敬語? いいじゃない。私も一杯一杯なのよ!嬉しい。あの日、私の命を救ってくれた彼が。どうしようもなく好きな彼が、私にプロポーズをしてくれた。

 私達は幻想的な風景の中で抱き合った。んっ? いいでしょう?ちょっと位自分に酔ったって。


 町に戻り豪華な食事とワインを一杯だけ飲む。今日は酔うわけにはいかない。すぐに結婚は難しいので取り敢えず婚約という形で、今は落ち着いた。私達って付き合った期間ってあるのかしら?


 ララの事を話してタツヤは私に殺されるんじゃないかってくらい怯えながら言葉を選ぼうとしている。この件に関しては正解など無いのに。

 私がララと向き合えと言うと、訳が分からない顔をしてたけど、いいのよそのままで。

貴方は無自覚にモテてるんだから自覚しちゃダメ。


「はい! この話はこれで終わり。この条件は呑んでもらうからね。今日は私だけの貴方なんだから、まだまだ楽しませてよね」


「かなわないな。今日は酔っ払っても朝まで付き合うよ」


「何言ってるの? 今日はもう飲まないわよ。朝までは付き合って貰うけど。勿論部屋を取っているのよね?」


 そう、私達は明日ベルドラに戻る。既成事実と言うか、愛された証が欲しいわよね。それが全てって訳じゃ無いけど、やっぱりね。って言うか女から言わせないでよ。


「ちょっとトイレに……」


タツヤは物凄いスピード走り、近くの綺麗な宿屋に着く。そして何事もなかったかの様に、息を整えて戻ってきた。でも私、魔力探知持ってるのよね。


「そのまま食事して帰ろうとしてたのね」


「そんな訳ないだろう?」


「準備して無かったのね。これだからヘタレ童貞は」


「童貞じゃねえし!」


「えっ? 違うの? 前の世界でそう言う事を?」


「……してません」


 まぁそうだよね。最初にあった時も薬の口移しで暫く謝ってたし照れてたし。お姉さんぶった私は宿屋でタツヤをリードする。まぁ継承放棄してるとはいえ王族ですから房中術みたいな事は仕込まれている。

 彼が可愛い顔をしている。さてと、私もするのは初めてなのよね。


「いたぁい‼︎」


「へっ? お前、そんな経験豊富みたいな感じだったのに」


「無いわよそんなもの。こんなに痛いのね!」


 タツヤが体を引こうとするので私は必死で彼に抱きしめ……しがみつくと彼は少し困惑している。


「やめてなんて言ってないでしょ。もっと、して。その……愛してよ」


「あぁ。愛してるアメリア」


 後日タツヤは私のこの一言が反則だったと言った。タツヤも私を抱きしめて、それから何度も交わり、痛みと多幸感に包まれた夜が明けた。


「お前らやっとかよ……って婚約! 俺たちより先に!」


「おめでとうございますアメリア。ファストに来て本当に良かったですね」


「ワシの作った指輪が似合ってるな。さすがワシ!」



 冷やかされたり、祝福された朝帰り。これも含めて昨日からの1日は思い出に残る日となった。

 ララとは強く握手して少し言葉を交わした。彼女がどう言う行動に出るか少し心配だけど楽しみだ。



 今、私はベルドラに戻る途中の宿で1人横になっている。今まで知らなかった、好きな人と眠りそして目を覚ます幸福。いつかそんな幸せが毎日の物になるのだろうかと思いながら、私は指輪を眺めてまた会える日を思い、眠りにつくのだった。

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