閑話 アメリアとララの裏話


 あれは赤き翼がファストの町に来て3週間が過ぎた頃。


「ララ、仕事終わった? サウナに行きましょう。2人で」


 その一言に宿屋オールインの受付は凍り付いた。

 ララを誘ったのはファストの町にも慣れて来たアメリアだ。


 誘った相手がリリでもルルでも果てはファストの町にいる間に顔見知りになった近所の婆さんでもこんな空気にはならなかっただろう。

 だがアメリアが誘ったのはララなのだ。

 どうやっても達也への好意が隠し切れていないララなのだ。


 ファストに滞在している間にアメリアが酒を飲む事は良くあった。大抵は正直になる前に達也が回収して行くのだが、たまに遅れるので、達也への好意はダダ漏れだし、今日は酒も飲んでいないようだ。だからこそ周りも心配になるのだ。


「えっ、あの……はい! 行きます!」


「じゃあ引き継ぎ? するの待ってるわね」


 行くの!? 受付やエントランスにいた宿泊客や従業員は驚き、2人の何気ない会話に耳をすませる。

 コレは血の雨が降る。いやアメリアの魔法でララちゃんが危ない! そんな事を考える輩までいる程だった。


「お待たせしました」


「えぇ行きましょうか」


 心配する優しい人達兼野次馬がアイコンタクトをして1人の女性が頷きサウナに向かおうとする。


「でもきてくれて良かったわ。昨日から貸し切り申請しておいたのよね。来なかったら一人でサウナだったから。今日は女同士ゆっくりお話しましょう」


「はっ、はい! 私なんかで良ければ」


 貸し切りだとぉ! かくなる上ははサウナの近くで盗み聞きを。でもバレたら間違いなく燃やされるんじゃ無いだろうか? 優しい人達は静観する事を決めた。


「…………」


「…………あの?」


 ララが口を開いたのは入ってから10分後、程よく汗も書き始めた頃だった。アメリアは大きく深呼吸するといきなりのストレートを投げ込んできた。


「ララ、あなたタツヤのこと好きよね?」


「えっ!? 突然なんですか?」


「私は好きよ。1人の男として。尊敬してますとか、感謝してますとかそう言うのはいいからね」


 この人は突然私を連れ出して、何を言っているんだろう。そんな事知ってますし、私が見たところ、と言うか私以外が見たところで、この人はご主人様と両想いだ。

 それなのに私を奈落に叩きつけたいのだろうか。


「はい。勿論感謝も尊敬もしていますが。それ以上に私はご主人様を慕っています。あっ、こんな立場ですしアメリアさんから取ろうとかそう言う事は思ってませんから大丈夫ですよ」


「そう言うことじゃなくて、この国は一定の地位以上は重婚が認められているでしょう? アイツはきっとそれくらいにはなるわ。私もエルフの王族の端くれだし、私だけを見てなんて言えないのよ。だから変な女でハーレム作られるくらいなら、貴方みたいなしっかりしてて彼も気を許している、人がいいかなって」


「へっ?王族?何を言ってるんですか?それにアメリアさん酔っ払った時あんなにご主人様の事自分だけのものにしたい! くらいのこと言ってるのに。あっ!」


 私は不文律に触れた。酔ったアメリアさんを素面のアメリアさんに教えると言う禁忌に。


「私が王族ってことに驚いたあなたより、今の私の方が驚いているわ。ねぇ、みんな知ってるの? 私がタツヤをどう思ってるか、って言うか酔ったら私どうなってるの? ちょっと話しなさいよ」


「えーと、その、そろそろのぼせちゃいますし出ませんか?」


「そうね。それで水風呂に入ってまたサウナに入りましょうか。『ととのう』って言うのよね。まだまだ時間はたっぷりあるんですもの」


 にこりと笑うアメリアを見て逃げられない。ララはそう悟り。諦めて色々話した。結局サウナを堪能しても話は終わらず、他の宿の酒場にいきアメリアとララは朝まで話した。


「えっ? 私そんな事まで言ってるの? 恥ずかしくて死にそう。だってイヤよ! 制度として決まってても、重婚なんて。好きな人を自分だけのものにしたいって、自分だけ見てて欲しいっておかしいかな?」


「アメリアはおかしくありませんよ。私だって、ご主人様に私だけを愛して欲しいです」


「やっとハッキリ言ったわね。お慕いしてますなんてむず痒いのよ。私は冒険者をまだ辞めないし、貴女もわかってるかも知れないけどタツヤは無自覚に意外とモテるわ。今迄は私が見張っていたけど、これからは貴女に任せるわよ。これ以上アイツに変な女が付かないように」


 アメリアがニヤリとしてララの肩を掴む。ララも今までで1番の大仕事を任された感じがして深く頷く。


「競争ね。どっちがアイツの1番になるのか。負けないわよ!……フフッ、ドロドロした愛憎劇は貴族あたりに任せといて、私達は正々堂々行きましょう」


「私も負けません! ご主人様……タツヤ様といつも一緒にいるのは私の方ですから」


「ぐぬぬっ! 言うわね。あーあ、私達のようないい女が、付き合ってとも言って来ない男の為に何を話しているのかしらね。本当にアイツは……」


「フフッ、えぇ本当に。そこだけはタツヤ様の悪いところです」


 空が白んで来た時間にアメリアとララは杯を交わした。



後書き

今の所の予定閑話リスト


・ヘイホーとマリア完全版

・ルルは宿屋で働きたくない?

・名もなき村のその後

・エピローグ.サイドアメリア

・ギルド長ミヤイの日常(仮)

・ララの誘惑


ちょっと続きますがスピンオフだと思ってみて貰えば、嬉しいです。

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