第二章 25話 赤き翼

「なぁ、なんでこんなに急ぐ必要あるんだ? 急ぐ旅でも無いのに一人一頭馬使って、早馬でここまで3日、宿で寝たの一度って緊急依頼並じゃねーか!見ろ! 馬がもう疲れたって顔してるだろう?」


「半年もクラン(私)を放って置いたクランマスターに責任追及するためよ。私達の休暇も次の依頼までで、決して時間があるわけじゃ無いんだから!(訳、早く会いたいし、早く着けば長くいられるでしょ?私達の休暇ギリギリまで一緒にいたいの)」


 もはや副音声のようにアメリアの心の声が聞こえることに、赤き翼のメンバーは苦笑いする。


「それだけではありません、宿屋となれば女性店員もいるでしょう? お酒の話をしていたと言うことは酒場もある。きっとそこに女性店員はいるはずです」


「しかしエルフのアメリアくらい綺麗なら、他の女なんて心配する事ないんじゃ無いか?」


「レオは分かってません。距離がどれだけ心配になる原因か、アメリアさんほどの美人で無くても、その人は毎日タツヤさんと働くのですよ! 遠くの美女より、手頃な近場の女です」


「べっ、べつに私はそんな、私達はそういうんじゃ……まだないし」


 普段は大人しいソフィアが力強く語るので、他のメンバーが引き気味の中、アメリアが照れている。

 懐かしいなこの感じ。タツヤが抜けて以来だな。そんな事を思っているうちに一行はファストの町についた。



 一目でわかる、高級で歴戦の勇姿が纏う装備をした、精悍な顔立ちの冒険者、西の外れのファストの町に着いた6人は町の人からすれば英雄の凱旋のようにも映る。

 そしてこの何も無いのどかな町に何かあるのだろうか? と不安になる。


「オールインはどこ?」


「そこをまっすぐだ。なぁあんたら高位の冒険者かなんかだろう? この町に何かあるのか?」


「何もありませんよ。友人に会いに来ただけですから。ありがとうございます」


 6頭の馬に乗った戦士たちは今、町で話題の宿屋に着いた。馬を預ける間もなく、絹の様な銀髪の女神がオールインの受付に舞い降りた。礼儀のしっかりとした、町でも評判の受付嬢がたじろぐ程の美貌である。


「いらっしゃいま」


「タツヤはどこ?」


「へっ?ご主人様……んんっ! タツヤ様ですか?」


「今、あんたなんて言った? ご主人様? あいつ奴隷を買ったのかしら? しかもこんなに可愛い女の子を……貴女、変な事されてない? 乱暴にされたりしてない?」


「えっ? はい。タツヤ様はとても優しくて私達にとって神様みたいな方ですよ。偶に厳しい時もありますが、色々教えてくれます」


 アメリアが誤解をして、顔色を百面相の様に変える。そうして繰り広げられるすれ違いコントに笑いを噛み殺しながらスミスが入って来た。


「アメリア、そんな迫力で問い詰めちゃいけないよ。それにしてもこんな田舎で、こんな綺麗な子を……流石タツヤだね。僕らは彼の元パーティメンバーで、依頼を(半ば無理やり)受けて来たんだ。それでタツヤを探しているんだけど知らない?」


「タツヤ様はもうすぐ戻られると思いますが……それでは、お二人は赤き翼の方々なんですか‼︎ そうなると・・スミス様とアメリア様ですか?」


「へぇ♫ わかるんだ。どんなふうにタツヤが君達に話しているか興味はあるけど君の他の仕事もあるだろうし、どこかで待たせてもらいたいんだけど、あと馬を繋がせてもらえる?」


(話に聞いた通りの2人だ。スミスさんは本当にスマートに話を進める軽い男って感じ。アメリアさんは……あっ、いけない仕事しなきゃ)


「それでしたら、隣に食事処兼酒場がございますので、そちらをご利用ください。オルテカさん。馬をお預かりして、お客様をご案内してもらえますか?」


 綺麗な言葉遣いや貴族並みの所作の美しさに、スミスが口笛を鳴らす。酒場の話をして目の色が変わるメンバー2人を落ち着かせて、酒場へ向かった。


「ねぇ、最後に一つだけ、さっきご主人様は私達にって言ったわね。(奴隷は)何人いるの?」


「えっ? あぁ私の様なもの(村から雇われて来た人達)は、4人います」


「そう……ありがとう」


 アメリアの葛藤は続く。


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 昼、ヘイホーは柄にもなく緊張していた。マリアと会う前にも世界を旅した事もある。その旅でもA級冒険者なんて数えるほどしかいなかった。

 そもそも、そんなパーティから抜けて宿屋やっているなんて、大将が自分を大きく見せるためのホラだと思ってたら、本当だった。


「ここのメシはうまいな!」


「全くだ。おっ? おいこれ見ろよ! 俺の故郷の料理もメニューにあるぜ!」


「お待たせしました! とっても美味しい料理長のスペシャルです!」


 普段なら孤児院でまだ文字の勉強中のルルも、赤き翼の接客のために、狩り出されている。勉強を切り上げられたせいか、いつもより機嫌もいい。


「ねぇ、貴女いくつ? まさか貴女も達也の?」


「もうすぐ14歳です。お兄ちゃ……ご主人様……タツヤ様は恩人です!」


 ララから言い含められたであろう受け答えを台無しにする、ルルのある意味完璧な受け答えはアメリアに深いダメージを与える。

 横ではドワーフと、もう1人が杯を乾かす文字通りの乾杯を体現し続けている。


 カランコロンと酒場のドアが鳴り達也かと思いアメリアが凝視するが、スミスとソフィアとレオがギルドへの報告から帰って来ただけだった。


「この町、美人多いねー。あのギルドのハナさんも無愛想だけど、綺麗な人だったなー」


「「「ぶっ!」」」


「? まぁ、これで町への滞在もギルドに報告したし、後はタツヤが来るのを待つだけだろ? 俺もエール下さい」


 酒場にいる地元の人たちがハナの話をした時に、そこかしこで吹き出す音がしたが、気にしない様にした。

 長旅の疲れを美味い飯と酒で癒し、早くタツヤと会いたいもんだなんて話していると、カランコロンとドアがなり、急いで来たのか、息の軽く上がったタツヤがそこに立っていた。久しぶりの感動の再会にタツヤは言い放った。


「なんでお前らが来てるの!?」

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