第2章 22話 コンマンの乱心
Side コンマン
全く忌々しい小僧だ。しかし1日時間を開けるあたり詰めが甘いなぁ。私なら問答無用で朝イチで教会の人間を連れてくるがな。
その辺が私とあの小僧の頭の出来の違いだな。そのおかげでこうして準備もできると言うわけだ。
コンマンは机の引き戸の鍵を開け、契約書の束を取り出した。
「ええと、あったこれだ。確かに契約魔法と書いちまってるな。これもか? 3人の分以外にもほとんどがそうだな。ちっ!」
コンマンは庭に行き、該当する雇用契約書? を燃やして、焚き火を眺めるようにワインをガブ飲みする。
「全く、大損害だ。しかしこれで明日あの達也とか言うやつが、教会の有力者でも連れて来れたら見ものだな。冤罪として慰謝料を頂いて、この損害の補填にするか」
「3人の雇用契約書が無い?」
「うちの従業員では有りませんから。教会の方まで連れて来て迷惑な。この落とし前はちゃんと付けてもらいますよ!……なんてな」
一人芝居までしてすっかりいい気分のコンマンは火に映る自分の影がたまにブレていることに気付かなかった。
(なんて野郎だ。これをすぐに、報告しねえと、また同じような犠牲者が出てしまう。行かねーと、きっとあの兄さんならなんとかする。俺達の正義の使徒としての役割はこの企みを伝える事だ)
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Side『オールイン』
「と言うわけで、明日はコンマンのところに行かない方がいい」
例の如く隠密を使い、コンマンのすぐそばにいた、モンとキーが見た事を説明した。
「大丈夫。初めから行く気ないから。なんか予想外の隠し金庫とかに隠してくれれば、行ったけど、燃やすとか破くとかは予想の範囲内だから」
どう言う事だと頭を捻っていたが、予定通りと言うなら大丈夫だろう。
「しかし劣悪な雇用契約もなー。オーナーとしては失格だけど、ウチもいずれは労働組合とか考えた方がいいのかなー」
何やらブツブツと言う達也が気になったがそれより、モンにはもっと気になっていたことがあったので、そっちを優先した。
「それよりタツヤさん、帰り道に俺の体が重くなっちまって、いや元に戻ったと言うべきか? なんか知らないかい?」
「んっ、なんかあったの?」
「あぁ、三馬鹿を捕らえる時やコンマンの野郎のところに行く時は正義の力で風のように早く動けたんだが、帰り道は元に戻っちまって。俺の正義が足りねーのかな?」
この人は何を言ってるんだろう? もしかしてまだ支援魔法に気付いてなかったのか? 冒険者では無いマリアやヘイホーも早かっただろう? あれも正義の力だと思っていると言うのか? コイツらやばい!
「おいタツヤさん大丈夫か? どうしたんだ腹を抑えて?」
「腹が、ふっ腹筋が破壊されそうで」
腹を抱えて踞りツボに入って笑う達也をモンはただただ心配するのであった。とりあえず達也は面白いから、正義云々はわからないと答えてまだ答えを濁した。
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翌日の夕方、オールインにコンマンが顔を真っ赤にして訪れた。そしてドアを開けてすぐに彼は赤い顔で尋ねた。
「タツヤは何処だ?」
「……」
「おいマリア、あの若造を出せ」
「…………」
昨日言った通り一切のコンマンとの会話を無視するマリア。いつも対応の良いマリアが返事をしない事に怪訝に思いながら、ララが対応した?
「どうされたんですかコンマンさん、そんなに鼻息を荒くして、ご主人様なら今呼んできますから、落ち着いてください」
今日もサウナやミニビアガーデンが賑わう庭にまで、コンマンの絶叫が届いた。何事かと見に来る野次馬達。
「タツヤは何処だー!!」
タッタッタッタと走ってくる音が聞こえて、衛兵を伴い達也が来た。
「どうしたんですかコンマンさん? そんなに怒鳴って? うちのお客様も気にしてますよ。たまたま来ていた・・・・・・衛兵の方々も来てしまいました」
ここまで馬鹿だとは思わなかったな。前の世界でもそうだがホテルに警察が来ると言う状況はあまり好ましく無い。何とかこの男を主役にこの騒動を喜劇にしたいものだ?
「どうしたもこうしたもあるか! 何故来ない? 何故教会の奴等とうちの宿の雇用が契約魔法を騙ったかどうか確認しに来ない?」
「えっ、いやー、よくよく考えたらコンマンさんがそんな事する訳ないですし、教会の方に手間を取らせるのもどうかと思いまして。何か不都合でも? 正式にお約束はして無いですよね?」
「ぐっ、それでも来るのが礼儀では無いか?」
ロクな言い訳も思いつかないコンマンがどんどん狼狽ていく? 周りの野次馬達も楽しそうに見ている。
「そもそもコンマンさんが見間違いでは無いかと、仰っていたのでそれを信じて行かない事を決めたのですが。私がいかなかった事で何かご迷惑が?」
「大損害だ! 何のために大事な契約書を燃やし……失礼。少し、飲み過ぎたようだ。帰るよ。皆様もお騒がせしました。衛兵さんも。私は暴れてなんかいませんからね。これで帰ることにしましょう」
惜しい、でも野次馬を見ればこのやりとりを誰かに話したくてうずうずしている顔をしているし、成功といえば成功だろう。暫くコンマンとは関わらなくて良いな。
その日の夜、若干復活したオルテカ達3人と話して契約問題も無いし、もう一度オールインでヘイホーやマリアと働かないかと聞いてみた。
「俺達は犯罪者です。大恩ある方の宿にゴミを撒いたりもしました。今更そんな虫のいい話はねえ」
「そう思うなら、その罪を償う為にウチで働けよ。勿論1番下っ端からな。マリア、まずはマシューも含めて3人とも接客研修から初日は俺がやるがその後も厳しくしつけてやってくれ」
「「「ありがとうございます」」」
3人はまた涙を流し感謝をした。タツヤ様はやはり救世主とか2人ほど言っている。あれ? マリアの説教と洗脳って、ポーションで解けてないのか?
そして次の日
「「「ありがとうございます」」」
「違う! お辞儀の角度とあげるまでの長さを合わせろって言ってるんだよ」
「「「申し訳ございません」」」
「カイア、オルテカ、それがマリアに習ったことか? お前らがミスするのはマリアの恥でもあるんだぞ!!」
シフト制と休日ありに喜んだ後、達也にしごかれる3人がいた。ヘトヘトになって帰って来て孤児院に向かうのを見て、私達もこうだったんだなと思い出し、心の中でエールをおくるララ、リリ、ルルの姿があった。
新たな経験者という戦力を得てさらに活気づくオールイン。
そして!
コンマンの宿はあの騒動のふた月後に潰れた。
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