閑話3 ララの場合3


サイドララ


 それは突然私達に訪れました。

 お給料を突然渡されたのです。私達から前借りを言わない限りお給料は月単位と言われていたのに。

 それに村から来た人だけが呼ばれて、明日10:00頃に来いと言われたのです。


 辞めさせられるのですか? 初めて褒めていただきましたが最後だからなのですか? 私達は期待に応えられなかったのですか? 聞いてしまいたいけど聞けなかったです。もしうんと言われたら、そこで全てが終わってしまうから。


 翌日10:00にみんなで宿屋の入り口から入って来てと言われた通り入ると、マリアさんとご主人様に、出迎えられました。


 なんて綺麗な接客なんでしょう。私も早くこんなふうになりたいものです。どうやらたまにやってるロールプレイというやつの様だったので、首では無いようです。


 さぁ、次は私達の番ですね。今見せていただいたものを参考にって、ちょっとご主人様? どこに行くんですか? 置いて行かないでください。やっぱり首なんですか?

 私達は慌ててご主人様を追いかけました。


「んっ? だから、良いよ働かなくて。お金も渡したし、好きにしなよ。お昼ご飯12:00-14:00の間だから、食べるならその間に来てね」


 働かなくて良いよ、好きにして。お金渡したよね。ご主人様が私達にかけた言葉はテンパってた私にはそう聞こえました。


「頑張ります。もっと頑張ります。他のみんなもそうです。ここで働きたいです。今見せていただいたくらいになれる様に頑張ります。村には返さないでください。見捨てないで下さい」


 私はまたすがりついてしまいました。村の時に続いて2回目です。私以外のみんなも縋り付いたり半泣きしたりしています。


「見捨てる? そんな訳ないでしょ! なんで? あっ……マリアさんから今日みんなが休みって聞いてない?」


「「「……はい」」」


「折角だからと内装が終わった宿で労いたいと言うことも? その時に僕らの出来る最高の接客を受けて刺激を受けて欲しいとかも?」


「「「はい……」」」


 私達は説明を受けて、マリアさんからのお仕置きだと言うことを理解しました。気が緩んでたのはそうかもしれませんが、本当に心臓に悪いです。特に

最近注意されていたルルはずっと見られていました。


 気を取り直してご主人様に買っていただいた可愛い私服に着替え、町へと出ました。楽しい。屋台で買った串焼きを歩きながら食べて、雑貨屋さんで取り留めない話をする。これが休日なんですね。


 夕方まで町中の好きな場所を好きな様に歩いて楽しんでいると、夕方を告げる最後の鐘が鳴って、夕食を取るため宿に戻る為歩き始めました。

 さっきまで、満面の笑みだったルルの顔が固まっていきます。


「私、生意気なこと言っちゃったよね」


「大丈夫よ。私も一緒に謝ってあげるから」


「そうよルル怒られる時はみんなでって決めたでしょ」


 ルルの表情が少し和らいだ。

宿に着き食堂に着くと、ご主人様とマリアさんが給仕をしてくれる。


 コース料理と言うの練習だった様で、順番に色々な料理が運ばれてくる。最近教会の絵本で読んだ絵お姫様になった気分だ。


「そろそろメインの肉料理を運ばせていただきますね」


 ルルの表情がまた強張ったけど、すぐに厨房からただよってくる暴力的な肉の焼ける匂いに気がとられている様で、蕩けた様な顔になった。運ばれて来たのはミノタウルスのステーキ。高いですよね? これ凄く高いですよね?


 周りのみんなが食べ出した後、私も猛烈ないい匂いに抗えず、食べた。

 美味しい、あまり濃い味は得意じゃ無いのですごく丁度いい。でもロキには物足りないかな?


「肉が厚くて濃い味! いっぱい噛める。やっぱり肉はこうだよな」


えっ?えっ?えっ?

みんな違うこと言ってる?


「へへっ、すげーよな大将は。ここ数日の食事で全員分の好み覚えちまってるんだから」


「言った通りに調理法変えて全部旨いお前も凄いけどな」


「えっ? 味が違う?」


「少しだけお仕事の話になりますが記憶は財産です。あのお客様は桃の果実水より林檎の果実水が好きとかでも良い。これからお客様のお相手をする時はまた来てくれる様な接客もして下さいね」


 凄い! 私もこんな人になりたい。バインのヘイホーさんを見る目がキラキラしてる。わかるよバイン!


「俺が下げるの手伝います」


 突然バインが肉料理の皿を下げるのを手伝い出した。私が手伝おうとすると、頑なに拒否された。

 後日ヘイホーさんから聞いたら皿に残ったそれぞれのソースを舐めようとしたらしい。


 バインが見られたく無いのもわかるけど、料理人になろうとしてるんだなぁって感心した。

 名誉のために言っておくが、ヘイホーさんがバインを止めて鍋底に残ったソースを味見させたそうだ。


 満腹で、部屋に戻ろうとすると、明日は私達がご主人様達を接客するのだと聞いた。大急ぎで部屋に戻りミーティングを始めた。

 1時間ほど、話してあーでも無いこーでも無いと白熱していると、コンコンっとノックが聞こえた。


「やっぱり仕事してる! あのタイミングで言った僕も悪いけど、休みの日に仕事の事考えちゃダメだよ! 休むのも仕事のうちなんだから。仕事禁止〜」


そうおどけて、ご主人様は行ってしまった。


「命令だし、寝ようか」


「そうだね。あっ! 明日ちょっと早く起きようよ!」 


「それだ! じゃあ、明日は最初の鐘が鳴ったら起きよう」


 明日に備えてすぐにベッドに入った私は今日を思い出し、「楽しかったなぁ」と呟いて

眠りにおちた。


 次の日の朝起きて体と頭の爽快感に気づき、休むのも仕事のうちかぁと改めて感心して、迫りくるご主人様を歓待すると言う大きな仕事に立ち向かう準備をするのだった。

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