2章 12話 サ道
「本日はオールインにご宿泊いただきありがとうございます。そちらの浴槽は水となっておりますので、お気をつけ下さい。サウナ施設初使用という事で、私も今回は参加させていただきます」
仰々しい挨拶と共に達也が宿泊客のうち30名程に演説をし焼き石にお熱湯をかけた。ジュゥーっと石で水分が蒸発する音がして、熱気がサウナの中に広がっていく。
「おぉ! これは……」
「何とも気持ち良い。普通の蒸し風呂とも違うこの感じはなんとも心地よい。疲れが取れていくようだ」
くくくっ、地球ではサウナプロフェッショナルの資格を取ってしまったほどのサウナ好きな俺の力を見るのはこれからだ。
「皆様限界まで汗をかきましたら、外にある浴槽に浸かってください。そして少し休憩してからまたサウナにお戻り下さい」
「体を暖めてから水風呂に? まぁ、発案者の指示だやってみようか……ひっ⁉︎」
かけ湯をしたお客様方が一斉に悲鳴を上げる。サウナの後にはまず水風呂これはサ道(サウナ道)のなかでは初歩の初歩だ。
「どうしました皆さま? どうぞゆっくりと肩まで浸かってください。最初はヒヤリとしますが、すぐに心地よくなりますから」
「しかしこれは」
「私が皆様に不利益な事をするわけないじゃ無いですか」
「「「確かに、オールインのオーナーの言う事なら間違い無いか」」」
恐る恐る入っていき、肩まで浸かり、外に設置してある長椅子で涼む。この休憩こそがサウナの至福!
「ゆっくり目をつぶっていると、水風呂で冷えた身体がじんわり温まっていき、脳内をぐるぐると恍惚感が埋め尽くしてくる。この感覚がいわゆるサウナ界の基本にして王道だと私は思います。この感覚の事を我々は『ととのう』と呼びます」
「「「これが……ととのう」」」」
これを最低3回は繰り返すのが俺のベーシックスタイル。地球の俺の仲間たちは合法的トビ方と笑っていた。
「これは! サウナ→水風呂→休憩を2回目、3回目と繰り返すと体どころか頭の中まで暖まっているような。それにこのリラックス効果、多幸感はなんだ? 4回目は入ってもいいのか?もっとサウナを!」
「(説明サンキュー)お客様落ち着いてください。こちらにキンキンに氷魔法で冷やした、エールとワインが御座います。サウナ上がりに飲むエールこそ私は至高かと思っております。……ングングング」
プハーっと達也がジョッキを置くとゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。
「もちろん、果実水やお水もございますので、また入られる方やお酒の飲めない方はこちらをどうぞ。飲酒してのサウナはおやめ下さいね。水分を抜きすぎることは健康にわる」
「うるさい! 早く飲ませろ!」
説明中の達也を払い除け集団が我先にと飲んでいく。何人かは上品に水を飲みまたサウナに戻って行く。
「粗暴な方にはサウナは合わないのかな? 我々のような余裕のある者や貴族の方々にはおすすめかもしれませんな」
なかなかやるな。だが、一度でわかるほどサ道は浅くはないのだよ。サウナの国フィンランドの叡智を上級者ぶった数人にはプレゼントしてやろう。
「お客様方はサウナを特に気に入っていただいたようで、来週から始めようとしてた時間帯サービスをお先にプレゼントしましょう」
「ほうっ、楽しみだね。まぁ今のままでも悪くないそれなりの娯楽だがね」
達也はオレンジの皮で香り付けしたアロマ水を熱し直した焼き石にかけ、バスタオルを大きく回し始めた。熱波が上から落ちてくる感覚を7人ほど残った客が浴びる。
「これがロウリュというサウナ発祥の地で生まれたものです。腰を曲げ座り背中一面で受け止めるとまた気持ちいいですよ」
「早く言えっ! くっ熱い! が段々とこの熱ささえ気持ち良くなっていく。蒸し風呂の様な者だと思っていたが、全く違うようだな。堪能し……」
「それでは始めさせていただきます。まずは皆様に5回ずつ」
達也は手慣れた手つきでバスタオルを勢いよくはためかせ、高所からおりて来ている熱気を熱風いや、熱波として飛ばした。
「始めるだと何を? これは、ん? なかなか、たまらん! 素晴らしい!」
「それでは皆様終わりましたので、後は先に・・出ていただいて喉を潤してください。おかわり・・・・が欲しい方はお一人様10回まででお願いします」
「わたしはでよう」
「3回頼む」
「私も」
「私は5回で」
「おや皆さんはもう限界かな? 私は10回たのむ」
「「「……10回で頼む」」」
サウナあるあるだな。このサウナマウンティングまで異世界で再現できるとは思わなかったが、この分だとこの世界でもサウナは流行りそうだな。早めに特許魔法取りに行こう。
「それでは皆様10回ですね。最初に10回を申し出た方から始めますね。言い忘れましたが途中で退席されますと熱気が逃げてしまいますので、最後の方が終わるまで待ってて下さいね。2人目以降の方は回数を変える場合は1人目の方が終わるまでに言ってくださいね」
「なっ、待て! そんな事聞いてない……」
最初にマウントを取ったお客様は、余裕のかけらもなく、水風呂に飛び込みすぐに冷たいエールを煽っていた。ちょっと大人気なかったかな?
「また来る。ロウリュのある時に」
「またのご宿泊心よりお待ちしております」
独断と偏見だがサウナに通うほどのサウナ好きは見栄っ張りの負けず嫌いが多い気がする。
女性編はロウリュは無しでマリアが仕切り、温冷保湿が肌に良く美容効果もあると伝えると、笑える事に此処でも張り合いが発生していたとマリアから聞いた。
あー楽しかった。さぁ宿も頑張ろう。
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