2章 第10話 可愛いは正義

 改装も終わり、いよいよオープンの前日になった。宿屋名は『オールイン』意味は英語の

『ALL INN』と『ALL IN 』の掛け合わせ。

 世界に自分の宿屋を作る目標のALL INN=さっくり訳すと全ての宿。そして、

 起業した自分の状況。ALL IN=賭け事用語で全てを賭けると言う意味だ。


 スタッフに聞かれて、そう説明した他にホントは東○インにあやかったのは内緒である。〇〇亭みたいな宿が多いこの世界では珍しいがこれから浸透させていけば良い。


 そして俺は3人の従業員にこれから残酷なことを告げなければならない。


「明日から開店だが、シフトを一部変更する。変更するのはララ、リリ、ルルの3人だ。変更内容は、こうだ」


10:00-12:00接客研修

13:00-15:00 お勉強

20:00-00:00 酒場の接客


 羊皮紙に貼り出した内容を見てショックを受ける、ララとリリあまり考えていないルル。

最近はお家芸(失礼)になっている、ララが縋り付いてくる。


「何故ですか? 受付やホールはホテルの顔とおっしゃいました。私達は確かに美人では無いかもしれません。でもご主人様にもお褒めいただいた愛嬌で頑張って参りました。何故?」


「まず、一つ目、君達は可愛いし、この先美人になると思うよ。まだ幼いけど、この8日で少しは食事が取れて少しは肉が付いて思った。これからマリアに鍛えられればもっと仕草も外見も綺麗になると思うし愛想もいい」


「じゃあ何故?」


「まだ、僕が求めるのには足りない。文字も計算も不安があるしね。しかしそんなことよりも何より大切な事がある」 


 ゴクリと喉を鳴らし俺を見つめる2人に意を決して一言、話した。


「……この宿は、しばらく暇です」


「「はぁ?」」


「どういう事だよ大将? 客あしらいが良くなって、厨房は俺がいる。改装して部屋も綺麗で部屋数も増えた。何で暇になるんだよ」


 俺は自己支援をかけて更に部分支援で、右手の中指と親指を強化して、ヘイホーにデコピンをした。バチンでは無く、ドゴンという音が鳴る。


「客になにも断り無しで、突然宿を閉める。出て行ってくれって滞在客追い出して、その後なんのフォローもしてない宿に人が来るかぁ!」


 ヘイホーが項垂れる? あれ、やりすぎたかな、意識ない方か?


「俺も最初は、ここまで逆境の宿だとは思わなかったけど、まぁ燃えるからいい。とりあえず、宿屋業務は他のメンバーで回していく。マリアからOKが出たら、宿の仕事に入ってもらう。ぶっちゃけ酒場で宿の宣伝してくれ。宿で酒場もやってる大きいところなんてこの町にはないから、そこを売りにしていく」


 後は改装で作ってもらったものがどれだけウケるかだな。

 

 翌日店は無事オープンして、オープン記念セールをしたにも関わらず泊まりに来たお客様は15部屋中2部屋だった。それでも上出来である。そして招かざれる客が来た。


「開店おめでとうございます。目標は町1番の宿屋でしたか? うちの宿は今日も満室で。良かったら紹介しておきますよ。今日から開店したガラガラの宿があるって」


「コンマンさん有難うございます。ご厚意に甘えさせていただきます。コンマンさんから紹介で来たお客様には特にサービスさせていただきますので」


 嫌味を言いに来たコンマンに深々と頭を下げる。調子に乗ったコンマンは更に言葉を重ねる。


「頭が高いんじゃないんですか? 人に頼み事をする時は、それ相応の頼み方があるんじゃないですか? 東方の国に丁度良い頼み方があるらしいですよ。お教えしましょうか?」


「いいえ、どうかよろしくお願いします」


 大方土下座だと思い、地べたに座って頭を擦り付けると、満足そうな顔で去って行った。


「まぁ、考えて置いてあげますよ。他の宿屋との付き合いもありますし、大切なお客様をどこの馬の骨か分からないような人には紹介できませんけどね。はーっはっはっは」


「大将、悔しく無いのかよ。あそこまでコケにされて。あんたはあんなに宿屋にプライド持ってるのに」


「ヘイホー、無闇に敵を作ることになんの意味がある? それにここから逆転した時のコンマンの顔が見れるならいっときの屈辱なんて大したことは無いよ」


達也が冷静な顔でヘイホーを諭す。


「本当は?」


「あの狐目にテープ貼ってこじ開けて唐辛子の汁を入れてやりたい」


 ちなみに1人だけ、コンマンのところから客が来た。浮浪者のようなやつがただで泊まれるとコンマンから聞いたそうだ。

 暇だから泊めた。ちゃんともてなして、体洗って皿洗いさせた。数日酒場の皿洗いさせて、給料を持たせてやった。

 涙流して必ず恩返しに来ますって言ってたけど、また泊まりに来てくれれば良いよって言っておいた。



 夜になると酒場の方が予定通り賑わった。清楚な格好をした、可愛い3人娘が呼び込みをしていたからだ。ロリコン? って思ったが、この世界では来年、再来年には結婚できる歳の子達だからな。


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 2ヶ月ほどが過ぎた。今は大体6月に相当する時期。正式にいうと違うのだが、毎月神の名前がついた名前が長いので、(例、愛と美の神アルストラアルマライトの月3の日)地球の言い方で俺は言っている。

 四季があり暖かくなり始めた今日この頃、まだまだ暇だ。だけど、ほぼ赤字は無くなって来た。


 まずヘイホーの料理が旨いのが町に知られていなかったので広めた。マリアは分業していたので気付かなかったらしいが、料理のネーミングセンスがゼロだった。


 例えば、豚の角煮はメニュー名『煮た豚』など、とても食欲をそそるものではなかった。その為『枝豆』など味の想像できるものしか出なかったようだ


 これを『豚の東方風煮込み』


 長時間豚肉をトロトロに柔らかくなるまで煮込みそこに甘しょっぱいタレで漬け込んで味付けしました。エールに最適‼︎ など、説明に全て変えた。

 エビチリなんて前は、メニュー名『炒めた海老』だったからな。いろいろほんとに残念で惜しい男だ。


 あとは単純に看板娘の人気もすごい。2ヶ月の月日は不健康で骨と皮だけだった3人を嘘のように健康的な美人に変えた。ちなみに、気になるランキングは……


 3位、リリ、しっかりしてそつなくこなすけど面白みに欠ける。


 2位、ララ、真面目なのにたまに抜けてたり、勘違いして取り乱すのがギャップで可愛い。


 1位、ルル、お兄ちゃんと呼ばれたらなんでも買ってしまいそうになる。新しい扉が開きそう。再来年には結婚できるのでタツヤさん、僕にルルさんを下さい。小悪魔っぽさが良い! だそうだ。


 どこぞの総選挙かよ。思わず握手会を開きそうになったよ。いつかはそういうの作ってもいいけど、今は宿屋を軸にしたいんだよぉ。


 そしてララがマリアのテストに合格したので、もうすぐホテルに加わる。本人は嬉しそうだけど、酒場の冒険者とか悲しむだろうな。

 ルルは最近酒場が楽しいようでやる気が無い。リリはルルに構っていて少し遅れてるくらいだ。


 酒場のアルバイトの求人でも出すか。あと、ルルは酒場専門かな? 俺は鑑定があるわけでも無いし、宿より酒場がルルは向いているかもしれないしな。今度本人に話してみよう。


そう言えば喜ばしくも不本意な事に、先月くらいからこの町1番の宿屋では無く、この町1番の酒場のオーナーには、なってしまっている。


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