閑話 ララの場合(後編)

サイド ララ


 朝起きた私、ふわふわで白くてカビてない、良い匂いのするパンに感動しながら今日から何をするんだろうと、期待にあふれながら研修? と言うのを始めた。


「いらっしゃいませ!」


「ララ! 頭上げるのが早い!」


「ありがとうございました」


「鐘の音が鳴るの待ってるんじゃないよ! 集中!笑顔で! お客様はいつも見てると思って。泣きそうとか疲れた顔とか、お金払ってるお客様には関係ないから!」


 鬼がいます。アレは昨日神様に見えた方と同じ人なんでしょうか? 農作業より体は大変じゃないはずなのに、農作業より疲れます。頭の中がパンパンな感じです……やっと終わった。


「みんなお疲れさま」


 あぁ、ご主人様が食事を運んでいます。すみませんすみません。体が動かないんです。

 体をゆっくり起こして食べた昼ごはんにまた感動していたらロキが、私の弟が言いました。


「ねぇちゃん達はいいよな。楽な宿の練習だけで。俺もう疲れちゃったよ」


 バカ! 楽な? それよりもヘイホーさんが言ってました。大将は宿が絡むと人が変わるって。ご主人様の雷が落ちると思ったら、ご主人様は笑顔で「明日はロキも参加してみるかい?」と言いました。


「ひっ⁉︎」


 笑顔なんです。笑顔なのに怖いんです。午前中と同じ笑顔なのにとても怖いです。みんなガタガタ震えてます。

 明日はロキも参加する事になりました。あの子は生意気だけど泣き虫だし……泣くんだろうな。


 お昼からも私たちは何をするのか怖かったんですが、ただ町を案内して頂きました。服を買って良いよと言われましたが。奴隷に服なんて(いまいち自分達の立場が奴隷とどう違うかわかってない)

 あぁロキ、なんで貴方はすぐ服が欲しいって言えるの?


 良いんですか服屋のおばさん? お金は大丈夫ってご主人様のお金ですよねそれ? 仕事の服? 宿は清潔に? でもこの服は関係ありませんよね? でも、何て言うんだろう? 可愛い。

 ご主人様が帰ってきました。みんな似合ってるって言ってくれました。嬉しいけど、頑張って働いて必ず返します。


 教会に行きました。私達が文字を習える? 勉強を教えてもらえる? 

 お母さんが言ってました。勉強が出来ればお金が一杯稼げるって。でも勉強する暇あったら農作業をしろって。

 勉強を教えてもらって、お金が貰える? やっぱり神様でここは天国なんですか? とても疲れましたが。とても良い日でした。


 夕食をとって微睡んでいると庭から何か聞こえてきます。


  「ふっ!ふっ!」


 ご主人様がロキに教えた様な素振りをしています。えっ、仕事の時間は終わりですよね? と言うかあの人、私達と同じ事今日してましたよね? 何で疲れてないんですか?


 私は心地いい疲れに身お任せその日は眠りに付いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 数日が立ち、少しだけ体が慣れてきた頃の夕食後。また、鉄杖を振るう掛け声と最近はロキがそれに混ざって組み手? と言うのをやっています。あの子は何であんなに元気なんだろう。


 先に疲れたロキが帰ってからまた素振り、昨日からはお辞儀の練習もするようになりました。

 なんでもマリアさんに刺激を受けたとか。


「僕には品や感情の部分が足りてなかった。みんなもマリアからそれを学んで」と言われましたが、私にはまだわかりません。


「お帰りロキ。仕事は終わってるんだからあんまり無理しちゃダメだよ」


「姉ちゃん何言ってるの? 仕事が終わっても戦い方教えて貰えるんだよ! 俺は早く強くなるんだ!タツヤ兄ちゃんにも、筋がいいって言われたんだぜ」


「もう、ご主人様でしょ」


そんなやりとりをしていると違和感に気づいた。ご主人様は仕事が終わったら何をしててもいいと言った。……仕事が終わっても?


「あぁ!」 

「わっ! どうしたの姉ちゃん?」


 私は紙を取り出して文字の勉強を始めた。何をしてもいいと言うのは、何もしなくていいと言う事じゃない。

 私は早く役に立つって決めてたのに怠けていた。情け無い。


「うへぇ、仕事の時間じゃないのにまだ勉強するの?」


「うるさい! あと、ありがとう」


 あんたが言うな。ロキは私より無自覚にずっと偉かった。私について来た弟は今、私より先にいる。


 勉強をしていると、扉が開いてリリとルルが入って来た。


「ララちゃーんお話ししよー。えっ?何で……仕事してるの?」


「ルル、これは仕事じゃ無いんだよ! 村で勉強してもお金貰える? 貰えないよ。私もさっき気付いたんで偉そうな事は言えないけど」



 ここ数日は夕食後リリとルルとお話ししていた。村にいたらわからなかった事。

 町がすごい、教会の人達と話した事とか、たわいもない雑談。とても楽しかったけど、今じゃなかった。今はやるべきことがもっとあった。


「ふーん」


「あっ! ルル、部屋に戻ろう」


「えっ、何で? 私まだおしゃべりしてないよー。お姉ちゃんちょっと待ってよー」


 ルルは興味なさそうにしていたが、リリはさっきの私もこんな顔してたんだろうって顔で愕然としながら部屋に帰った。その夜私はいつもよりずっと遅く寝た。


「おはよう。んっ? みんな、頑張り過ぎちゃダメだよ。先は長いんだから」


 ご主人様が私達の顔を見てそう言った。この人は失敗も隠れた努力も全部見てくれる。もっと頑張ろうと思いながら、私は欠伸を噛み殺した。案の定その日の接客研修はボロボロだったけど、いつもより怒られなかった気がする。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


毎日更新できなくてすみません。頑張ります

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る