第2章 9話 ホウレンソウは大切に
私達は目覚めて、とりあえず8時に起き朝食を取った。今日何があるかをご主人様以外に聞いても、誰もが口を黙み、はぐらかすだけだった」
「マリアさん、私たちがどうなるか知っていますか?」
『……にっこり』
無言で微笑まれた。これが貴婦人の微笑みっていう物だろうか? 笑顔に圧があって、これ以上何も聞けなかった。
悶々とする中、あっという間に10時は来て、私達は表の宿の入り口から中に入った。受付にはマリアさんが佇みその近くには、達也さんが作業をしていた。ドアの開く音を聞くと、すぐに達也さんの背中に鉄の板が入る。
「「いらっしゃいませ」」
目と目すら合わせないのに完璧にタイミングのあったお辞儀、同じお辞儀なのに私達と明らかに違うモノに見える。
ここでララはロールプレイというやつだと思い、見本なのかなと思ったので受付に行き流れを話し始めた。
「5人で一泊したいのですが」
「ありがとうございます。部屋は何部屋お取りしましょう」
流れが続いていき、折角だからと研修中でも許される範囲にルルがふざけた。
「お夕飯は最高級の肉料理を食べたいです。私達みんなに相応しい料理を」
「かしこまりました。当宿には最高の料理人がいますので、お客様のご期待に添えると思います」
「それではお部屋にご案内させていただきます。そちらお足元の方お気をつけ下さいませ」
あぁ気持ちいいな。マリアさんとご主人様の接客。声の感じも笑顔も凄くいい。こういうのを目指せっていう課題を見せてくれるのが、今日の仕事なのかな。クビじゃないのかな?ララがそう思っていると。部屋の説明を終えた達也が言った。
「それではごゆっくりどうぞ」と言いドアを閉めて帰って来ないので慌てて追い掛けた。他の、人達も慌てて追いかける。
「あの、どこまでの流れを見せていただけるのですか? 私達ももっと頑張りますので、研修に参加して良いですか?」
「んっ? だから、良いよ働かなくて。お金も渡したし、好きにしなよ。お昼ご飯12:00-14:00の間だから、食べるならその間に来てね」
働かなくて良いよ、好きにして。達也の言葉がリフレインして最後の思い出作りと思ったララが達也にすがりつく。
「頑張ります。もっと頑張ります。他のみんなもそうです。ここで働きたいです。今見せていただいたくらいになれる様にそれ以上も目指して、頑張ります。村には返さないでください。見捨てないで下さい」
「見捨てる? そんな訳ないでしょ! なんで? あっ……マリアさんから今日みんなが休みって聞いてない?」
「「「……はい」」」
「折角だからと内装が終わった宿で労いたいと言うことも? その時に最高の接客を受けて刺激を受けて欲しいとかも?」
「「「はい……」」」
「マリア…さん?」
「だって、その子達今の幸せにもう慣れてしまったんですよ。研修中集中力を切らすし。どんな奇跡でタツヤ様に拾っていただいたかもう忘れてしまっていたので、ちょっとしたお仕置きです」
悪びれる事なくマリアが後ろに立っており冷笑を浮かべると。
ブルリとその場にいた全員が震えた。特に長く見られていたルルは気温よりかなり多い汗をかいていた。
「マ、マリア、次からは最初に僕に言ってね」
「はい。申し訳ございません」
朝の微笑みは私達に怒っていたのだろうか。真意はわからないし聞けないけど、マリアさんもまた絶対に怒らせてはいけない人だと再認識した。
「と言うわけで、君達は今日休みだから昼ご飯いらないなら外で食べてきても良いし、研修も勉強も何もしなくて良い。晩ご飯はルルのリクエストもあったし、食べにきて欲しいけど今なら変更できるよ。今日はお客様だからね」
「えっ……あの……」
「最高級の君達に相応しい肉料理だよね。任せてよ。ヘイホーも張り切るぞー。はっ⁉︎ お客様に失礼な口を。失礼しましたお客様。それでは良い休日を」
「どうする?」
「俺は姉ちゃんといる!」
「ルル、あんた今からでも取り消して来なさいよ。あんな事言って!」
「お姉ちゃんついて来てくれる?」
『いやよ!」
「ご主人様はルルのリクエストに楽しんで見えたし、折角だから休みってやつをしっかり体験しないか?怒られるならみんな一緒にって事で」
そのバインの提案に5人はのり、大いに遊び、昼ご飯は出店で買い食いをして、昼からはショッピングや目的もなくぶらつくなど年頃の男女が普通に遊ぶ休みを満喫した。そして夜ご飯の時間が来て宿に戻った。
食堂に行くとあらかじめ決まっていたのか席に案内された。
「お任せでよろしいですね?」
「はい」
前菜から料理が運ばれて来てその所作の一つ一つがとても美味しい。会話の邪魔をしないタイミングで皿が下げられまた置かれていく。
すっかりとリラックスして食事を楽しんで来た時に達也が笑顔でこう言って来た。
「そろそろメインの肉料理を運ばせていただきますね」
「「「はい!」」」
「緊張なさらずに。気楽に食べてください。ここは王都の高級レストランではございませんから」
適度にリラックスさせてくれる言葉だが、ルルはまたいつあの鬼教官に達也が変わるのかとビクビクして待っていた。しかし他の客がいないので奥からジューっと肉の焼ける音と臭いが漂って来て、口の中から唾液が溢れる。
ルルが自分の軽口を一瞬忘れた頃、マリアと達也がステーキを運んできた。
「お待たせしました。ミノタウルスのステーキです。残念ながら急なもので、最高級の物は流石に用意できませんでしたが、皆様にふさわしい物をご用意しましたのでご賞味ください」
もう我慢できず、フォークとナイフで切り分け皆が一斉に口の中に含んだ。咀嚼すると肉汁が、旨味が溢れて来た。
「美味しい、焼きすぎてなくて薄味でちょうど良い。最高です」
「厚くて濃い味! いっぱい噛める。やっぱり肉はこうだよな」
「ミノタウルスは表面だけ焼けば食えるってヘイホーさんから教わってからはこの食べ方が1番好きだな」
「アレ?ソースで見えなかったけどこれオーク肉だ。私、ミノタウルス苦手だから嬉しいけど」
「凄く柔らかい! お姉ちゃん私こんなの初めて。顎が疲れないんだよ。ソースもね甘くて美味しいの」
「「「「えっ?」」」」
「へへっ、すげーよな大将は。ここ数日の食事で全部覚えちまってるんだから」
「少しだけお仕事の話になりますが記憶は財産です。あのお客様は桃の果実水より林檎の果実水が好きとかでも良い。これからお客様のお相手をする時はまた来てくれる様な接客もして下さいね」
達也のもの言いに宿というのは奥が深い物だと認識して、5人は部屋に戻ろうとした。怒られなかったしとてもいい日だった。
「そうそう明日は僕とヘイホーとマリアとヘイポーが休みで泊まりますから、後はゆっくり休んで皆さん明日は僕らの接客よろしくお願いしますね」
それはごく普通の笑顔と言葉だった。企みもなければ、含みもない威圧的な態度もない。達也の行動はごく普通だった。
それを聞いた5人は慌てて部屋に帰り、明日のミーティングを始めるのだった。それでも休みがあるって幸せだな。と思えるには充分な1日だった。
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