2章 8話 ヘイホー夫妻の過去は気になるが無視する
次の日からマリアとヘイポーが参加した。
「「ありがとうございます」」
「ヘイポーっぶふっ! 首からあげるな! 遺伝子か? 遺伝子なのか?!」
ヘイポーが達也の腹筋に負荷を掛けている横でマリアが完璧としか言いようの無い、お辞儀を見せる。素晴らしい。笑顔に気品すらある。
「マリア……マリアさん、完璧です。寧ろ俺よりも洗練されています」
「あらあら、マリアで構いませんよ旦那様、この命は貴方がくれたものですから。ウチのロクデナシが妬かない程度にして欲しいほしいけどね!」
言葉の前半は令嬢のように後半は肝っ玉かあさんのように、感情の込め方も、喋り方も違う。この人は何者だ? と達也は困惑する。
「貴方は何者ですか?失礼だが栄えていない町の宿屋の奥さんとは思えない」
「ただの没落貴族の娘ですよ。行儀見習いでメイドもやったから、その名残でしょう」
「へへっ」
色々衝撃だがなぜ奥さんを褒めて、お前は照れているんだ? 馴れ初めなど聞かないぞ。気になるけどな。
勝手に昔を思い出してろよ。あと、息子と並んで同じタイミングで首から上げるな。俺の腹筋を壊す気か。しかしそう言う事なら、朝の練習は今度マリアに任せてみるかな。
ちなみに息子のヘイポーは、10歳で、料理人を希望した。
「俺、父ちゃんみたいな、料理人になるんだ! だから父ちゃんに教わりたい」
それならと思った時に、威厳を出そうとしても喜びを隠しきれない頑張ったへの字の口のヘイホーがなんと断ったのだ。
「駄目だ。まずは大将の指示に従え。それからだ」
意外だった。あんなに嬉しそうな顔を隠せていないのに。奴も親父ということか。
「たいしょう、何をすればいいですか?」
「じゃあまずは……」
結果としてヘイポーは、参加したい時だけさせ、基本は勉強と体力作りだが、本人のやる気に任せている。何故ならこの世界では、家業がある小さな家の子供は基本的に、家の手伝いとして無休の無給で働いていた。それを無くした方、無理強いはしない。俺の改革の大きな一歩である。
ヘイポーは従業員では無いので、給料も出さないし休みたいときは休ませる。成長は本人のやる気次第と言うやつだ。やる気のない子供にやる気を出させて育てるほど俺は優しくないから。
ちなみに意識改革は初日で終わらせたので2日目から厨房組はスケジュールを変えてある。
6:00-8:00 朝食と昼食の仕込みと提供
8:00-10:00接客練習
12:00-14:00昼食提供と夕食の仕込み
15:00-17:00 勉強
となっている。夕食はヘイホーに多額の貸しがあるので、ヘイホーに準備と提供で残業させ、そこから天引きしている。
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瞬く間に時は過ぎて、改装終了まであと2日になった。朝のお辞儀や礼儀の部分はマリアに任せて、俺は内装の確認やオープンをいつにするかなどの経営作業に努めていたが、最終テストと言う事でその日は俺も朝から参加した。
既に改装を終えている玄関から入って行く。リィンと鈴がなり受付付近には3人の女性が見える。そこではリリと、ルルが清掃をララがレセプションに佇んでいた。
「「「いらっしゃいませ」」」
一瞬のアイコンタクトのみで、ほぼ同じタイミングのお辞儀をしてくる。笑顔もいい。
「一泊したいんだが」
「はい、ありがとうございます。ただ今空いているお部屋でしたら、素泊りで一泊銀貨3枚で、お食事一食に付き大銅貨5枚となっておりますが。如何なさいますか?」
「それでいい。食事は夜だけ頼む」
「それではお会計が先になりますのでよろしくお願いします。銀貨3枚と……」
……ロールプレイは続き、一通りの流れが全て終わった。
「うん、良いね。よく出来てる。まだまだレベルアップの必要も余地もあるけどみんなここまで頑張ってくれてありがとう」
「「「はい、ありがとうございます」」」
ホゥっと安堵のため息がもれる。ここまで頑張ってきた結果が、主人に評価されて嬉しく思ったからだ。かなりのダメ出しも覚悟していた。マリアも優しい顔で生徒?を見ている。
「うん、そうだな。ララ、リリ、ルル、バインは明日10時に表門から入ってきて。あとこれ、今日まで働いた分渡しておくね。ホントは1ヶ月ごとにしたいんだけど、今は何も買えないと大変だと思うから」
お金を貰えて嬉しい事より、恐怖が勝つシチュエーションだ。呼ばれたのは、村から来た人たちのみ。指定された日以外にお金を渡されたのも同様だ。
村に返されてしまうのか?自分達は期待に応えられ無かったのか?と言う気持ちになり。その日の残りの時間は研修に身が入らなくて、結局怒られてしまった。
「なぁ、どう思う?」
「私達クビなのかな?でも褒めてくれたし」
「でもお母さん達にお金も全部払ってるのに?」
「とにかく、私は村でずっと生きるよりも、ここでご主人様と、良い宿を作っていきたい。明日みんなでもっと頑張りますってお願いしてみよう」
その日の夜は夜そんな会話があったそうな。
そして次の日の朝が来た。
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