閑話 追放エンド回避とプチざまぁ

 これはギルド長が街から消えてから少ししてのある日の事。


「師匠〜聞いてくださいよ。最近同じパーティの奴らが支援魔術師を馬鹿にしてくるんですよ」


「んっ? だが赤き翼A級パーティの誘いを蹴ってまで、選んだパーティだろう?」


 達也がふざけて意地悪くそう言うとカインは、グッと息を呑み込みそれでも余程聞いてほしいのか、話し続ける。


「なんか最近、支援魔法なんて無くても一緒みたいな言い方して来るんですよ。確かにみんな強くなってるんですけどね。やっぱりすぐには不遇職のイメージは変わらないんですかね〜」


 間延びした口調とは裏腹に悲しそうなカインを見て何かが引っかかる。


「あっ! 不遇職追放エンド……」


 訳のわからない言葉を吐いた師匠に困惑しながらカインは真面目に考えてくれる様にと、お願いしようとした。


「カイン! すぐにオウル師匠に連絡して、今迄教えた支援魔術師を集めてもらって。一刻も早く!!」


「ハイっ!!」


 オウル師匠から聞いた話だが、俺が活躍し始めてから、俺に倣い師匠に弟子入り希望するやつがかなり増えたという。ただ、厳しさに9割の弟子が逃げ出すと言う、悲しい相談を受けて俺が修行カリキュラムを作った、学校の様なものがあるのだ。


 ダンダルに俺の時計を見せて劣化品ながらも作ってもらい、渡して体内時計からの支援を飛ばせる様にすることによる継続支援を出来る様になるのがゴールの『ブロンズコース』


 ブロンズを習得して体力をつけ、自分も戦える様になる訓練を師匠につけてもらう、体術メインの『シルバーコース』


 更に狩人や斥候などにも教えを請い、視野を広げたり、指示を出せる様にする他、オウルの本気指導により完成された赤き翼の俺のポジションを目指す『……地獄道』


 何でだよ! ゴールドコースでいいだろう? 俺を目指すのは地獄みたいなの辞めろよ。

ちなみにこのコースの合格者は1人、カインのみだ。



 冷遇の不遇職なので、学校まで大きいものは作れないが、支援術師学校の様なものだ。いずれは正式なものにしたいものだ。おっと、話がそれてしまった。

 閑話休題



 ただならぬ達也の様子に理由も聞かず元気よく返事をして走って行くカイン。その後ろ姿を見送り、達也は講義の準備を始める。4日後、冒険に出ていた者や修行中の者、ベルドラにいる全ての支援魔術師をが集められた。


「今日は忙しい中集まってくれてたありがとう。クラン『龍の息吹』の代表、タツヤ=ニノミヤだ。今日は君達に大切な話があるのだが。その前に一つ聞きたい」


 急に集められてざわざわとする冒険者の様子を見ると、明らかに疲れているものもいる。これが単純に冒険による者だとすればいいが、支援の天才のカインでさえ文句を言われるこの状態ではそんな期待は出来ないだろうな。


「この中で支援魔術師不 遇 職だからと馬鹿にされたり、軽視されている者がいたら教えて欲しい」


 7割以上が手を上げる。やはり長年の不遇職差別が蔓延したこの街では冷遇を簡単に変えることは出来ていなかったか。


「このままでは、変わろうとする我々支援職はパーティから離脱を打診されるか悪ければ不名誉な追放もあり得るだろう。かく言う私も、パーティから軽視された事がある」


 実際はお人好し集団の赤き翼ではそんな事はなかったのだが、ここは嘘も方便ということで。まぁ強いて言えばアメリアだな。


「私達もかなり強くなったし、もう支援魔術師のあなたはパーティを辞めてもいいのよ。心配しなくても貴方が寿命で死ぬまでくらいは、長命種の私がエリクサー代を払い続けるから生活には困らないでしょ」

 

[達也は大切な人で仲間よ。でも心配だから、冒険者以外の安全な仕事をして欲しいの。彼は計算もできるし知識もある。頭良いんだし商人でもなんでもできるでしょ? 達也が少し怪我するだけでも私が耐え切れないの。でも離れるのも嫌だから縁は切りたくないの。どうしたらいい?]


[]がソフィアに俺のことを相談した時の同じ日の会話の内容だそうだ。どうやったら傷付けずに、脱退を進められるかで上の言葉が出てきたそうだ。全くツンデレで済むレベルの不器用さではないな。

 くくっと思い出し笑いをしてしまい、にやけていると怪訝な目で集まった人達が俺を見る。コホンと咳払いをして話を続けた。


「こう言う件に正解はないが私の案として一例をあげさせてもらう。使うかどうかは君達に任せる。それは」


前置きをと少しのタメを入れ達也は続けた


「何もしない事だ。討伐依頼を受けてから、仮病で休んでもいい。理由はなんでもいいから味方に支援をかけない状況を作るんだ」


「そんな事をして、追放されたらあんた責任持てるのか? 助っ人の戦士とかを雇われてうまくいったら? ただでさえ俺たちはあんたと違って弱い立場なんだ‼︎」


「どの道このままならクビだろう? 俺たちに感謝してないんだから。あんたらを見下しているメンバーは今までは無かった継続支援の技術を自分の強さと勘違いしている節がある。自分達の力だけで戦わせてみろよ」


 俺に噛み付いた男は無言になり、場はざわついている。俺はざわつく会場を背にした。

大体のやつが俺の案を試してみるんだとカイン経由で聞いた。

 1週間後街を歩いていると、遠くから声が聞こえた。


「どうもすみませんでした! 俺達が勘違いしてました」


「えっ? ……」


 見に行くと往来にもかかわらず、土下座をしているボロボロの4人組を見つけた。謝られて戸惑っているのは俺に文句を言ってきた支援魔術師だ。


「正直、舐めてた。体調不良のお前の変わりに腕利きの剣士を連れて行ったんだ。だがいつもならこなせてた依頼でボロボロに失敗して気付いたんだ。俺達がお前に助けられてたって。これからも俺達のパーティにいてくれるか? 頼む! 俺はリーダーを降りてもいい」


「俺に指揮能力は無いよ。リーダー、これからも頼みます。ただ、支援魔術師を差別しないでくれ。タツヤ=ニノミヤがいる限り必ず、支援術師は変わっていく。今から俺達のパーティーは支援魔術師を守れる立場でいて欲しい」


 俺の案に噛み付いた男が俺の案を実行して成功する。そして俺を褒め称える。俺は支援魔術師界を背負う気はないのに笑える話だ。

 若干の気まずさを覚えた俺はこっそりと反対方向に歩き始めた。


 見つかる事なく。件のパーティから離れると同じ様な内容で謝る声が数ヶ所から聞こえたが、聞こえないふりをした。

 後日聞いた所によると、脱退した者もいた様だ。皆が聖人君子では無いから。謝ったから許さなければならないわけでは無いしな。


 だがこの試みで謝罪を見ていた町の人や冒険者の間でだけだが支援魔術師の地位が向上したのは紛れもない事実だろう。


 家に着いたら、カインが待っていて

「師匠、さすが師匠です。師匠の言う通りにしただけで俺パーティリーダーになりました。下克上です」と笑顔で言って来たが、詳細は聞かなかったし聞きたくなかった。

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