第1章 エピローグ
話はドラゴンを倒した帰路に遡る。
魔の森からギルドのある街までは離れていたため小さな宿場町に寄り、皆でドラゴンを倒した祝杯をあげていた。
そんな祝杯ムードの時それは起こった。
「みんな聞いてくれ、俺は赤き翼を抜けようと思う」
突然の達也の発言に、祝杯ムードが一転した。
「おいおい、今日の討伐の立役者の1人が何を言ってるんじゃ? もう酔ったのか?」
「あっ、あんた何言ってるの? 私がきつく言ってたから? 確かに昔は足手纏いとか言ったけど、アンタもその事は分かってるって言ってたし、最近は言ってないし……」
ダンダルは冗談と捉えて、アメリアはなんだか焦ってぶつぶつ言っている。レオは何も言わずに真剣な顔で俺を見つめる。
真剣な顔で見つめ返す俺に、皆が冗談ではないと気付いた。
俺は自分の実力不足、そしてこのままではギルド長との確執で自分のせいでA級に上がれないなどの事を説明した。そして最後に1番の理由を言った。
「相談もしなかったのはすまないと思ってるが、かなり前から考えてはいたんだ。実は先日、皆と同様に俺も上級職が選べるようになった。支援魔導士と、もう一つだ」
「いいことじゃないですか? 貴方の支援が強くなれば更にこのパーティーは強くなれます。何故辞めるなどと?」
ソフィアの問いは予想できたもので、俺はすぐに答えを述べた。
「そのもう一つ選べる上級職が問題で、俺の世界の言葉で出現した。そして俺はその職を選ぼうと思っている。ギルドでも前例の無い上位職なのでそれを選んだら支援魔術が使えなくなる可能性もある。それでも俺は選びたい。この世界に来る前に夢だったこと、その夢を、形を変えて叶えられるのはそれしか無いと思ってる」
「……夢というのは? 俺達とS級になることじゃ無いのか? 俺達を後押ししてドラゴンスレイヤーにまでしておいて、お前は抜けるというのか?」
レオがいつもの快活さではなく低く響く声で問いかけてくる。これは怒っている時のやつだ。
「なぁレオ、王都に依頼で言った時に記念に泊まった高級宿のクリスタルガーデンって宿覚えてるか?」
突然の関係ないような話に怪訝な顔をするが俺が真剣なのが伝わったのか、戸惑いながらも答える。
「あぁ最高級の部屋にサービス、確かに良かった」
『じゃあ、同じ王都にあった『豚の餌亭』は?」
「外側は綺麗なのに、最悪だった。飯はまさに豚の餌、ベッドにはダニだらけで、なんで潰れないのか不思議なくらいだったよ」
「俺たちは情報が無かったから最高の宿と最悪の宿に泊まってしまった。俺が前の世界で宿屋をやっていたことは言ったろ。もう一つの上位職の名は『ホテルマン』まぁプロの宿屋みたいな感じの意味だ。俺はこの世界の全ての街に最高の俺の宿を作りたいんだ」
「パーティーはどうするのよ! アンタがいないと今日だって勝てなかったし、私もあんたがいないと……」
後半に尻すぼみになっていく可愛らしいアメリアを見て決心が揺らぎそうになるが、強い心で乗り切る。
「かわりの支援術師にお願いしてある。勿論会って話してからきめてもらおうと思うけど、俺の弟子で天才だよ。俺とは無理でもこいつとならSどころかSS級も夢じゃない。おい、入ってくれ」
「はい……」
ブスッとした態度で、入ってくるのはこの3年の間に俺の戦い方を教わりに来た中の1人カインだ。
「緊張してるのかな? 普段は明るいやつなんだが。弟子のカインだ。こいつの支援は通常で5割増し、パーシャルサポートを使えば瞬間2倍の火力も出せる天才児だ。今はB級目前のパーティーに入っているので、実戦経験もバッチリだ」
「……はいよろしくお願いします」
なんだろう、この冷めた感じはこいつは基本人懐っこいやつなのに。宿場町で待たせた事怒ってるのか?
そもそも俺の話を聞いて赤き翼みたいなパーティに憧れるって言っていたのはこいつだ。
だからこそこいつの才能も人柄もみて、赤き翼を託そうと決めたのに。
「なぁ、カインと言ったな。君は本当に俺達と冒険をしたいのか? 俺にはどうもそうは見えない。媚を売れとは言わないが、とても入りたい奴とは思えない」
「いえ、赤き翼の皆様には憧れていましたし……何より俺を救ってくれた、師匠の言うことは絶対ですから」
その受け答えを聞き、レオがため息を吐き拳骨を俺の頭に落とした。
「バカやろう! 宿屋になりたい? 人の気持ちがわからないとダメって奴が弟子になんて顔させてんだ!」
いってぇ。……そうか、コイツも自分のパーティが大切になってたんだな。それもそうだよな。カインが新人の頃から一緒のパーティだし。
「赤き翼のリーダーとして命ずる。
支援術師、タツヤ=ニノミヤの脱退を認める。それと同時に名称未定だが、俺たちの昇格とともにクランを立ち上げる事を決定する。その代表にタツヤ=ニノミヤを任命する」
俺がカインの気持ちについて考えていると、レオが唐突にそんな事を言い出した。
クランとは複数のパーティや、個人が集まる集団のことだが、えっ⁉︎ 俺は脱退したんだよな? 代表? 俺が? と混乱していると、レオが続ける。
「と言うわけでカイン、君のパーティごと俺たちのクランに入らないか? カインには俺達の手伝いもしてもらうけど、基本は自分のパーティ優先でいいから。あっ、タツヤは変わりの支援術師が、目処立つまでは宿屋もやっていいけど、兼業ね。よく俺に言ってくれたよね。社会人? として責任とか引き継ぎを大事にしろって」
「ぐっ……」
(レオがまともなことを言ってる。パーティ単位って言った瞬間にカインの表情と雰囲気がいつも通りに明るい。憧れの赤き翼のリーダーに誘われたらこうなるか。あーっ、全部正論だよちくしょう)
「わたしも……私もレオの意見に賛成! あんたがやりなさいよ! あんたじゃなきゃだめなこともいっぱいあるんだから!」
アメリアが強く言葉を放つ。語尾以外にも感嘆符のマークがついていそうな力強さだ。
アメリアが手を上げるのを見てすぐにパーティメンバーが全員で賛成の意を示す挙手をする。
他の奴らはニヤニヤしてる。
「でも、俺がいるからずっとギルド長に目をつけられて昇級出来なかったんだぞ。そんな奴が代表になるなんて知ったら……」
「バレなければいい。作戦はお前が立てろよマルチコンダクター様。
大体アメリアの言う通り、お前がまだまだ足手纏いだからっていってやってた買い出し(どの店でも3〜4割引)に装備の手入れ、宿の手配にその他の冒険の準備にetc……配給者のスキルのおかげって言ってもそんなことを全て高いレベルで1人でこなす奴はいないんだよ! 俺らで分担してもお前1人のレベルに達しなかったんだぞ」
「師匠……俺そんなこと聞いてませんよ」
(俺そんな事やってたっけ? ……やってたな。たまに手伝おうかって言われたけど、俺1人の方が割引率とか効率も良かったからずっとそうだったんだっけ。カイン、なんかごめん。だが……)
「いや、ギルド長はごまかせるとしても支援術師が代表とかおかしいだろ。不遇職だぜ」
「クランの中には宣伝目的に金を出して代表になる商人や、同様に貴族もいる。戦えない(と思われてる)支援術師がなってもおかしく無いさ」
今日のレオは一味違う。何も言い返せない。俺がため息を吐き諦めた顔をすると、宿場町の酒場では拍手がおきる。
まぁ強豪パーティのリーダーがクランを立ち上げる宣言だからなぁ。小さな宿場町なら英雄譚のプロローグにでも見えるだろう。
「どうせならあの頭の硬い無能なギルド長に一泡吹かせてやろう。リーダー・・・・、散々言ってくれたんだお前にも協力してもらうからな」
「ゔぇ?」
顔を引きつらせ、変な声を出したレオをよそにそれを聞いたみんなが・・・・笑顔だ。そう俺も含めて。
俺だってコイツらとのつながりが切れないのは嬉しい。
夢と仲間を比べて夢を取ったら、ハードモードだけど両方捨てなくてすみました。みたいな感じだ。
さぁ作戦を考えよう。俺と仲間にとって1番いい作戦を。
「じゃあ改めて」と、俺がグラスを掲げる
「「「乾杯」」」
ジョッキのなる小気味いい音がして、
クラン結成と達也の残留の大宴会は朝まで続いた。
それから約1ヶ月と少しが過ぎ、ベルドラの街に新しいギルド長が就任した。彼の就任後、初の大仕事は新たなドラゴンスレイヤーが立ち上げたクラン『竜の息吹』の承認だった。
その時、同時に王国の歴史上初の支援術師のクランマスターが生まれたことは言うまでも無い。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。もう数話後から宿屋編が始まります。
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