第8話 化かされ化かし

ギルド長の部屋に案内され、レオと達也が入る。他の面々はドラゴンに近寄る奴らへの見張りだ。


「虫の入室を許した記憶はないが、まぁいい。レオナルド君これが今回の報酬だ。本当に良くやってくれた。私のギルドからドラゴンスレイヤーが出るとは、感慨深い事だよ」


「ギルド長、何度も言いますがタッツは大切な仲間だ。そのようにこき下ろすのはやめてくれ」


 少し熱くなりかけたレオを達也が制す。タッツと言うのは流れ人なのを隠すための、公的な場で呼ぶ時の仇名だ。

 ずしっとテーブルが軋むほどの、金貨が置かれる。 

 森の調査の依頼料は金貨100枚、目の前には目算では数え切れないほどの金貨がある。

 ちなみにギルド長が達也をこき下ろす理由はわかっている。


 支援魔術師だからだ。ギルドや街々が今まで冷遇して来た、言わば共通の虐めていい弱者。

 ベルドラのギルドは冒険者の激戦区なので特にその風潮が強い。

 それが可能性を秘めていたとしたら、それが今迄冷遇して来た支援術師達にバレたとしたら……そんな事を考えているのだろう。


「ギルド長、報酬が多すぎます。そして一つ質問ですが、今回の功績で私達『赤き翼』はランクアップ出来ますか?」


「貴様に発言を許した覚えはないがまぁいい。ドラゴンの素材の分だ。そんな事も解らないのか? 本当に貴様以外の赤き翼は優秀だ。寄生虫を首にして腕利きの戦士や魔法使いを入れれば、すぐにでも昇級を認めようそれに」


「「そうですか、それでは」」


ギルド長の胸糞悪い言葉を遮り、レオナルドと達也が立ち上がり、金貨を数え100枚だけ取ってから、退出しようとした。


「なっ、何をしている? まさか君達は素材をギルドに下ろさない気かね?」


「指名依頼に加えて、ドラゴンの討伐でも昇級が認められないなら、他の街に拠点を移そうと思いまして」


「そんな事をしたら君達のパーティーは素行に問題があり、寄生行為を推奨している。なんて手紙が他の街のギルドに届くかもしれんなー。悪い事は言わないから、素材はこのギルドに下ろすんだ」


 嫌らしくニタニタとした顔で脅して来るギルド長に毅然とした態度で達也が答える。


「いえ、折角の竜種ですから王に献上しようと思いまして。Bランクパーティ・・・・・の赤き翼が倒したドラゴンを」


 ギルマスの顔が引きつる。

 今代の王は平等を掲げていて、支援魔術師に関しての差別も嫌っている。もし、素材が献上されれば、ドラゴンを倒したパーティが何故Bランクなのかと調査にかかるだろう。

 同じタイミングでそのパーティが長く拠点にしていた街を去るなら、更なる調査が入るだろう。赤き翼の本人達への聞き込みもすることは間違い無い。


「まっ、待ちなさい……タッツ君だったかな?そんなに大ごとにする事はないんじゃないか?」


「いや、拠点を移すくらいどの冒険者もやっていますし、大ごとでは無いでしょう。王都に移すかもしれないんですから、王への献上品も普通のことですよね」


 達也がニヤリとし、ギルド長が歯噛みする。

最早ギルド長の敗北は必至、後は処分されるのを待つだけになってしまう。

 このままではまずい、どうしたものかと思案していると。達也から思わぬ一言が飛び出た。


「ギルド長、私もこの街にはお世話になりましたから、大事にするつもりはありません。私が辞めれば赤き翼を昇級させてくれるんですよね? 今回のクエストで、私も自分の力不足を痛感しました。このままではいつか足手纏いになる。赤き翼のために、私が身を引こうと思います。その代わりいくつかお願いを聞いて欲しいのですが」


「君は意外と話がわかるようだ。私にできることなら何でもしよう。言ってみたまえ」


「おい、タッツ突然何を言い出すんだよ? 何でお前が辞める必要があるんだよ⁉︎」


 イヤらしい猫撫で声ですり寄る中年男性は明らかに気色良く、且つ上から目線で条件を聞こうとした。この窮地に相手が折れてくる事など、予想もしていなかったからだ。


「まず街ぐるみになっている、支援魔術師への冷遇改善。そして、私も職を失う訳ですから昇級してからの脱退を認めてください。元Aランクパーティと言うのは箔がつきますから。

後は、多少なりともギルドのトップと拗れてしまったので私が脱退したら、貴方も他の街のギルドに移ってください。その代わり王への献上品は無しにして、ギルドか、なんなら貴方個人《《》》に素材の一部を販売しましょう。そしてA級になった赤き翼がこの街に残れば貴方は功績を土産に他のギルドでも責任ある立場につけるはずだ。素材の大半はダンダルがメンバーの装備に加工するので、そこはご容赦を頂きたい」


「……ぐぬぬ!」


困ったふりをしているが、これ以上ない甘い条件にギルド長は顔がにやけそうになる。降格どころか懲戒免職ク ビまで覚悟したのが、きっとギルド長のままで、悪くても副ギルド長くらいで異動をするだけでいいかもしれないのだ。


「苦しい条件だが、仕方あるまい」


バレバレな演技で歯噛みして悔しがるギルド長。


「ありがとうございます。この件は契約魔法により条文にさせていただきます。言った言わないの内容では無いですから」


 達也はあらかじめ持っていた、条文の仮文が書いた物を取り出し、テーブルの上に置いた。


(契約魔法とは小賢しいやつめ。しかも条文を用意してあるだと? あらかじめここまでの展開を読んでいたのか?)


条文

・支援魔術師タッツは『赤き翼』を脱退する

・王族にドラゴンの素材を献上しない。また、他者を使いそれを教唆するようなこともしない。

・ギルド長ミヤイ=ツヤナーヤはギルドを異動する。そして自分の後任に自分の縁者を推薦しない。

・街やギルドに蔓延している、支援魔術師の不遇改善に努める。


 以上を、もって『赤き翼』をAランクパーティに定める。

もし契約に反古が有れば、神の名の下に、己の全てを相手に明け渡すこととする。


冒険者タッツ ギルド長ミヤイ=ツヤナーヤ


「一月ほどで引き継ぎを終わらせてこの街から出よう。異動の目処がついたら昇級もさせよう。そのタイミングで貴様も脱退しろ」


「あぁ。お互いのために良い取引でした」


 達也とミヤイは握手を交わして去ろうとした。


「おぃ‼︎ 箔付けとか、パーティ抜けるとかマジで言ってるのか! お前にとって俺達は、赤き翼はそんな軽いものだったのか?!」


「仕方がないんだ俺も辛いよ。すまんな」


 ギルド長室は胸ぐらを掴むレオにヘラヘラと笑い謝罪する達也。それを内心面白がるミヤイという構図だ。


「テメェ‼︎」


 バキッと言う激しい音がなり、レオが達也の横っ面を殴る。うずくまり、痛そうにする達也に溜飲を下げたミヤイ。


「おぉ恐い。昇級前にタッツくんが首になってもそれは契約魔法外ですから、契約を破らないように頼みますよ♪ レオナルド君、ここは私の部屋なので、続きは帰ってからしてもらえますか?」


「悪いなギルド長、後はパーティの問題だ。後は帰ってからにしよう。失礼する」


 レオからとてつも無い殺気が漏れ出て、冒険者上がりでは無いミヤイがブルリとする。

 そのまま達也を蹴飛ばして起き上がらないのを見て、レオは達也をぞんざいに担ぎ部屋を出た。


 ギルドを出て、依然力無く引き摺られる達也が呻く様に口を開く。


「いてぇな……この大根役者が」


「うまくいったろ。それにお前が言ったんだじゃないか。俺に演技は無理だから力技で行こうって。それにしてもあいつ想像以上に頭悪かったな」 

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