第7話 ドラゴンスレイヤー

 『赤き翼』はB級では珍しいギルドからの指名依頼で魔の森に来ていた。

 依頼内容は魔の森の調査。


 ちなみにギルド最速でB級になったのは3年前。当時既に、A級間近と言われたのだが支援魔術師を良く思わないギルド長が俺の加入により昇級を取りやめた。

「君が辞めればすぐに昇級なのですがねぇ」と挨拶・・をされるのにももう慣れたものだ。


 依頼内容に戻ろう。

『最近魔の森周辺が騒がしい。

普段は森から出てこない様な、強力なモンスターが森の外まで出てくる。至急原因を究明せよ。と言う依頼を受け魔の森にいる』


 騒がしいと言う割には森が静かだ。この森はごく稀にA級のモンスターが出るとも言われる森で、奥になればなるほど、危険度が増すと言われている。

 今の所雑魚以外とんと見かけないのが妙だ。


「拍子抜けじゃな。上等な素材が入るかと期待したのじゃが」


「何もないのが1番ですよ。私たちの目的は討伐では無く調査ですし」


(強いモンスターほど、危機管理能力は高くなる。そう言うことなのか?)


 ダンダル達が雑談している横で、達也がある仮説にたどり着いている頃、索敵に出ていたスミスが帰ってくる。

 糸目の軽薄そうな男は顔を崩さずに話し出した。


「森の異変の原因はわかったから引き返そうか?死んじゃうから♫」

「何が出た?」 

「多分グリーンドラゴン」

「「⁉︎」」」

「なるほど……グリーンか」


皆が息を呑み頷く中、達也はグリーンドラゴンである事にほっと一息吐いて、提案をした


「皆、ドラゴンスレイヤーの称号欲しくない?あと金も。ついでに名誉も」

「「‼︎‼︎」」


「ダンダルも上等な素材が欲しかったんでし

ょ?竜の素材、欲しくない?」


「むぅ、しかし……」


「このまま帰って調査報告したら、ギルドが他のA級やS級に討伐依頼を回して、俺たちはまた最強のBランクなんて不名誉な二つ名のままだ」


「パーティー単位でもA級上位の討伐対象の竜種だよ『指揮者』様はやれると思うの?」


「スミス、その呼び方はやめろ。過去の討伐記録が間違ってなければな。それに、俺達にはとうにA級の実力などあるさ」


 このやり取りで皆が頷き、戦うことが決まる。作戦立案と現場指揮は達也の役目だ。急いでB級に上がる為に、いろいろなパーティーに頼み込み、助っ人で入れてもらい、支援術師として規格外の活躍をした達也には、C級としては異例の二つ名が付いた。

『便利屋』と呼ばれ、後期は特に作戦の立案や現場での助言、ときには指揮を任されることから『万能指揮者マルチコンダクター』とまで呼ばれる様になった。


 ドラゴンに近づきアメリアが小さな火球を当てる。

 達也の作戦通り2発の火球が翼の根本当たり炸裂弾の様に爆散する。

 見た目は初級魔法のファイヤーボールの様なものは着弾と共に爆裂する彼女のオリジナル魔法。特に炎の魔法が得意で、特異な属性を付加した彼女は『炎姫』と呼ばれた。


 ドラゴンの鱗は剥がれ飛べない位には翼もダメージを受けている様に見える。少なくないダメージを受けて竜は激昂した。


「guaaaaa‼︎‼︎」

「撤退」


 達也は撤退の声と同時に形状を変化させて6人同時に支援魔法をかける。

 本来範囲や複数には同時に使えない支援魔法を形状変化で使えるようになったのも達也の成長だ。

 皆がドラゴンの咆哮を背に一目散に撤退をする。


 ドラゴンを牽制した先にはアメリアが書いた、魔力を込めれば誰でも使える魔法陣型の魔法。罠みたいなものだ。

 そこに待機していたソフィアが魔力を込めると7メートル程のデカイ落とし穴が開く。ドラゴンは高さで5メートルほどだろうか? 少し深さが心許ないが見事落とす事に成功する。


「翼に向かって一斉攻撃。アメリアはデカイのを頼む」


 達也の号令でチクチクと攻撃がされていく。穴から出られない様に、リスクを取らない、チマチマとした攻撃が繰り返される。

 毒のブレスが吐かれると、穴の外からソフィアがエリアキュアと言う、状態異常回復呪文を唱え毒を即座に回復させる。

 そしてまたチクチクと繰り返される攻撃を、ドラゴンは鬱陶しそうに振り払う。達也は一歩下がってアメリアに言ってあった合図を待つ。


「魔法が打てる様になったら、合図をして。極大魔法は詠唱も両手も使うから……そうだなウインクでも、舌を出すでもいいから、なんか顔で合図してよ」


 リラックスできる様にと、適当な冗談みたいな合図にした。単純に達也が見たかった合図でもある。

 熱気で陽炎ができ始めた頃アメリアを見ると落とし穴を塞ぐサイズにまでなった火球が出来ていて、アメリアがウインクの出来ない人の感じで両目を瞑り諦めて、舌を出す。


(合図両方やった(笑)そしてウインク出来てない娘のやつだ可愛い生き物だなー)

可愛さに一瞬気を取られたがすぐに、達也は号令とともに支援魔法を使った。


「全員退避!パーシャルサポート《部分支援》」


「メギドフレア」


 魔法攻撃力に支援魔法が重ね掛けされた70%増しの瞬間火力の出来上がりだ。本来出来なかった重ね掛けを部分に絞る事と5秒と言う、ごく短時間に絞る事で可能にした、達也の新魔法の一つだ。


 威力はさらに上がりグリーンドラゴンへと落ちて行く。

 それを見たダンダルは渋い顔でニヤリとし一言添えた。


「勝ったな」


(それ言ったら駄目なやつ!)


 ドラゴンに巨大な火球があたる瞬間グリーンドラゴンは壊れかけの翼で飛び、ぼぎっ! っと言う鈍い音と引き換えに完全にでは無いが回避した。

 爆炎が穴の中から立ち上りそれが晴れた後、少なからず極大魔法の余波を受けて弱っている、しかし未だ戦闘意欲を見せるドラゴンが炎の向こう側から現れた。


 達也は驚きを隠せなかった。そこにはこちらに殺気を飛ばすドラゴンともう一つのものが見えたからだ。


 達也が見たものは馬鹿みたいに笑ってこっちを見てるレオ、彼はドラゴンに向け加速する。

 その速さは点から一筋の線となりドラゴンの斜め後ろから首元へと迫り跳躍した。ドラゴンはダメージからか接近に気付いていないが普通ならレオの剣はドラゴンの首に深手を負わすことはできないだろう。そう普通……なら


「馬鹿みたいに信じ切った顔しやがって!『パーシャルサポート』」


 物理攻撃力を部分強化されたレオの斬撃は、振り下ろされドラゴンの首を切断した。


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「前も言ったよな? 支援魔法の重ね掛け状態で全力出したら腕折れるって、前も折れたよな。あーもう、グシャグシャじゃねーか! それに俺が気付かなかったら、どうしてたんだよ。大体お前はリーダーなんだからもっと……」


「へへっ、悪かったよ。お前なら絶対気付くと思ったんだよ。それより見たか? タツヤ、俺の剣がドラゴンを切ったんだぜ」


「あの、もうその辺で」


 説教してる達也、脂汗をかきながら余韻に浸るレオナルド、治癒魔法を掛けながらアワアワして説教を止めようとするソフィアの順に並ぶ。


 アメリアは戦闘後休む事なく、魔力回復のエーテルを飲まされて、達也の指示でドラゴンを氷漬けにした。

 血の一滴までが金貨になると言われるドラゴンを達也は余す事なく、持ち帰る算段を立てていた。


 ダンダルとスミスはドラゴンを乗せるソリのような物を作り、説教をしながらも達也からしっかりと飛んでくる支援魔法を頼りにドラゴンを乗せる。


「なんで無いんだよ容量の大き過ぎるアイテムBOX。テンプレは守れよ。異世界人が無限容量のスキルかアイテム袋を手に入れるのは常識だろ」


 達也のぼやきが聞こえて説教と治癒が終わり、全員でソリを引っ張り、魔の森から出て街へ戻った。



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4日後

アルメリア王国


 1000年の歴史を誇るこの国の王都から二つ手前の街ベルドラ、そこを拠点とするB級パーティー赤き翼は氷漬けのドラゴンを引きずり冒険者ギルドに凱旋した。


「ご苦労だったな赤き翼の諸君、目に見える素晴らしい戦果もあるみたいだな。ん、貴様もいたのか寄生虫」


 迎え出てきたギルド長に向かってピシッと音がなった。アメリアの眉間のシワと青筋の音だ。

 さて、最強のBランクなんて不名誉な二つ名は今日で終わらせる。俺達の戦いはここからが本番。第二ラウンドの開始だ。


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お読みいただきありがとうございます。本日夕方にもう1話更新予定です。

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