閑話 俺たちは普通に強くなる

Side 新人冒険者アル(幼馴染みのエミーが好き)


 俺の名前はアル、16歳の新人冒険者だ。今は24歳で新人の冒険者とか言う人に臨時パーティーを組んでくれと頼まれている。


「おっさん、いや薬草摘みさん、その年で支援術師で、Eランクって、別の仕事探した方がいいんじゃないですか?」



「そこを何とか頼むよ。足を引っ張らないようにはするから」


「わしからも頼む。弟子のためなんじゃあ」


 どういう事だ? このおっさんの依頼で先代ギルマスが訓練をしているとは聞いていたが、二つ名持ちの元S級の冒険者が支援術師のおっさんを弟子とまで言って新人の俺に頭を下げている。

 すがる様な声を出して、俺が腰を抜かしそうな殺気を放ちながら。


「オウルさん怖いですって。それで、臨時パーティーでいいから頼めるかな?」


 殺気を放つオウルを取り無し支援魔術師が俺に頼んでた。そんなの受けるしかない。先代は化け物だった。二つ名は『殲滅者』いや今でも化け物と聞く。

 役立たずの不遇職でもウルフの討伐くらいなら大丈夫だろう。

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何だよ! どう言う事だよ? ウルフ5匹の初心者クエストのはずだった。

目の前にはゆうに20頭はいる。そしてそのほとんどが支援術師役立たずが杖で叩いて倒した死体だ。


 何故だ? ……まただ。

効果が切れた瞬間に支援魔法が飛んでくる。飛んでくる? 支援魔法が? 俺は魔法使いのエミーを守りながら中衛の位置にいる。 


 何故戦士の俺が後衛の不遇職に前衛を任せているんだ? せめて一太刀と思い。少し前に出た時、奥からひと回り大きいハイウルフが出て来た。

 恐らくこのウルフの統率された動きはボスとしてこいつがいたからだ。


 俺とエミーは顔を合わせ、死を覚悟する。


「やれやれ、ゴブリン以外初めての実戦だったけど、魔物より師匠の方が痛いし怖いな。セルフサポート(自己支援魔法)」


 数ヶ月前はオウルさんに走らされてゲロ吐いてた。

情けない顔でもう辞めるって言いながら歩いてた。名前を聞いたが覚える気もなかったおっさんが、なんの気無しに歩いてハイウルフの間合いに入り鉄杖を払うとあっさりとD級モンスターは一撃で絶命した。

 結果的に足手纏いと思ったおっさんのお陰で俺とエミーは命を拾った。


「支援術師……というか貴方様を舐めてました。俺達だけでは確実に死んでました。舐めたこと言ってすみませんでした」


 散々馬鹿にしたことは覚えてる。震えながら誠心誠意拙い言葉で謝った。

 彼は俺たちの頭をクシャクシャと撫でると、「帰ろっか」と、そんな事はなんでもない事のように振る舞った。


 ギルドに戻り代表でクエストを受けた俺がハイウルフの報告をすると、受付嬢からお詫びをされ、新人が貰える量じゃない報酬をもらった。

 俺が全部渡そうとすると、タツヤさんは事もなげに3等分して渡してきた。俺たちが貰えないと言うと、「また組んでくれるんだろ? 次に組む時にやり辛くなるから」と無理に俺にねじ込んだ。


「「かっこいい」」


 俺たちは同時にタツヤさんを称賛したが横を見たエミーの顔が少し赤らんでいる気がした。

 尊敬はするが男としては、負けられない、止まれない引けない。


 翌日俺はタツヤさんを鍛えている先代ギルド長に訓練を頼み、エール二杯の報酬で受けさせて貰った。安い。

 ギルドの訓練場で、ハイウルフを見た時以上に死を感じた。それも何度も……何度もだ。


「今日の訓練は軽いんですね?」


「初日じゃからのう。怖がらせんようにな。お主もたまに休みが必要じゃろ。柔軟体操とか準備運動みたいなもんじゃ」


かるい、何が? タツヤさんは何度も模擬戦をして倒されては意識を飛ばしてポーションや水で気付けされてたよな? これが……軽い


 翌日俺は酷い筋肉痛で立ち上がれず、3日後にふらつく足でエミーとオウルさんの所に行き挨拶をした。それから2人で正式にギルドに・・・依頼をした。


 依頼内容は普通の教官による正常な新人訓練だ。

 その時のオウルさんの寂しそうな顔に心が痛んだが見ないようにした。



「俺は、俺たちは強くなる! ……ただし普通に。人間のペースで」

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