第5話 エリクサーでは無いんだよな

(綺麗な土下座だなー。この世界でも土下座が最上級のお詫びなんだろうか? 俺の他にも転移とか転生した人とかいたのかな?そもそも俺はなんでお詫びを……)

 考えは依然まとまらないがとりあえず達也が叫んだ。


「何で‼︎?」


「え? いや、だからアメリアの怪我治してくれたろ? 俺達も本物を見た事はないけどアレってやっぱりエリクサーだよな? それに興奮してて、その次に傷が深かった俺にも気付いて鎮静と治癒効果がついた高ランクのポーション? も」

 そこで達也は思い出す。


「誰か、エクスヒールを使える奴はいないか? エクスポーションでもいい、金は必ずいくらでも払う。誰か、誰か‼」


「……あれか‼︎」


 未だ正座中の赤き翼がびくっとする。未だ達也からお願いに対する返事はないので、事情を説明し終わったレオナルドもまた頭を下げている。


(俺が気絶してる間に黙って逃げてれば済むのに。最悪俺を殺してしまえば良かった。やっぱりこいつらいいやつなんだよな。俺的にも知識の無い時の金よりじっくり分割の方がいいし)


 達也が思考の海に旅立って返事をしない頃、5人はヒソヒソと話を始めていた。


「やっぱり私の問題だし、私が奴隷になるよ。奴隷商館に行って値付けもしてもらう。エルフは高値で売れるし。それでもエリクサーの金額にはとても足りないと思うけど私が何とかするから」


「それはやめようって話になったじゃないですか! 私達はS級のパーティになるんです。そうしたらエリクサーくらい」


 などなど、悲壮感に溢れるひそひそ話が、始まり徐々にボリュームが上がり達也に聞こえ始めた頃。達也はあることに気付いた。


(俺悪者やん! 助けた女の子奴隷落ちさせて金払わせるとか、極悪人やん!)

 ため息を吐き、居心地が悪そうにしながら達也は言葉を発した。


「まずは俺の話をしようか。みんな、とりあえず立ち上がってくれないか? 下に座って頭を下げている相手は話し辛くて敵わない」


 少し戸惑いながら立ち上がり、今度はどこにも座らないで軍隊の様な直立をしだしたので達也が促して、みんな椅子やベッドなど銘銘に座った。


「俺はきっと異世界から来たんだと思う。思うって言うのは本当に歩いていて、気付いたらあの草原に居たんだ。だからわからないけど多分そんな感じだろう」


「お前『流れ人』だったのか? だからジョブがない?」


「『流れ人』が何を指すのか分からないが、多分そうなんだろう?なのでエリクサーなんて物は持ってなかったし、いくらするかも知らん。だから……」


「平民なら3代遊んで暮らせるくらいよ。王に献上すれば高位の爵位ももらえると思うわ」


 質問もしてないのに、アメリアが馬鹿正直に答える。


(言うなよ〜。有耶無耶に出来る最後のチャンスじゃん。何でこいつらは……まぁ正直誰かが言うと思ってたんだけどね)


「あぁ、だから俺から提案と質問がある」


1.自分にもジョブが得られるのか? 得られるならその方法を教えてほしい。

2.もしジョブがあっても無くても自立できるまでの手助けをする。

3.もし冒険者になるなら独り立ちするまで、パーティに入れてほしい。

4.流れ人だと言うことは基本内緒。


「以上が俺からの、今回の治療行為に対する対価だ。受け入れてくれるなら、エリクサーと同等の金は要らない。パーティに入れてくれと言っても、お前らの冒険を邪魔する気は無い。俺が弱いうちは護衛とか、最初の装備の面倒を見てくれ。他の日は普通に自分達のランクの仕事をしてくれて構わない。寄生は嫌いだからな。早めに強くなれるように頑張るよ」


「それは、俺達が得をしすぎて無いか?勿論ありがたいが、それにパーティの事だって鷹の目もそうだが、視野が増えるスキルなんて聞いたこともない超レアスキルだぞ!」


「まぁ俺が騙されやすい奴ってだけかもしれないが、なんかお前らすごくいい奴だと思うんだよね。最速でC級って聞いた打算もあるんだけど、冒険者やるならお前らとやりたい。それにSランクパーティになるんだろ。もし俺がこの先強くなれなくてもサポートメンバーにでも置いてくれれば、俺はエリクサー以上の物を得られるんじゃないのか?」


 Sランクパーティになる難しさなんて知らない俺がそう言い切り、半ば挑発する様にレオナルドを見る。


「なるんだろう? Sランクに」


「任せろ! エリクサーを安物って言えるくらいの伝説のパーティに加えてやる」



にかっと達也が笑い、レオが答えるように笑う。傍で他のやつからはいい奴って言われて照れてたり、奴隷にならなくていいことや冒険者を辞めなくていいことに安堵して涙するアメリア……では無くダンダル(お前じゃ無い!)とかがいた。その姿を見て、達也は思った。


(言えない。ヘビーユーザーである俺は同じ栄養ドリンクをもう一本と、同じメーカーのお得な錠剤タイプ3箱を持っていることなど)

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 翌日達也は教会にいた。『赤き翼』との交渉がうまくまとまりジョブを授かりに行くためだ。教会にある水晶の魔道具が、職業を教えてくれると言う。


 水晶は達也のジョブを指し示した『支援術士』その言葉を聞いた時、さっきまで柔らかい笑みを浮かべた司祭様の顔が少し歪み、後ろにいる未来のパーティメンバー(仮)も残念な物を見る物になった。

 詳しく話を聞くと、以下のことがわかった。


 曰く

・魔法使いと同じく、詠唱中は動けない。魔法使いは上位職になると詠唱短縮や破棄を覚えるが、支援術士で、そこまでになったものはいない。


・一般的な支援術師で30〜50%程の支援効果が付くが、効果時間はあまり長く無く、支援が切れた時に急にくるステータスの低下から連携や体の感覚が狂う。重ね掛けはできない。


・射程が短く、さらに目に見えている範囲しか支援魔法を掛けられないので、戦闘中の立ち回りが不便。


・ステータスが後衛職や魔法使いよりなので身体能力が上がりにくく、なにより自分には支援魔法を掛けることが出来ない。


「不遇職じゃないの。あなたには冒険者は無理よ。やっぱり私達がエリクサー分のお金返すから待ってなさいよ。商人とかもいいんじゃない? あんた頭良さそうだし」


 数年後には、アメリア生粋の天邪鬼で、これが達也を心配してのツンデレだと気付くのだが、今の関係性ではそれに気付くこともなく達也は煽りと受け取った。

 ちなみに、アメリア以外からの忠告だったら聞いていたかもしれない。自分のドストライクの女に貶されては奮起して、見返さなければならない。と思ってしまう。

 男とはそう言う生き物なのだ(笑)


「やってやるよ! レオ、みんな、1年くれ。俺は戦いの経験がない。一年修行するよ。一年後に俺は赤き翼の主力メンバーになってやる‼︎ 不遇職なんて覆してやるよ」


達也は高らかに宣言した。(とりあえず冒険者ギルドに行こう。予定通り登録をして、そこで研修の依頼をしよう。強くなるために!……俺なんでこんなに燃えてるんだろう?)



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