第4話 知らない〇〇だ
「ひぅっ!」
「あらっ、まだ冷たかったかしら? 良かった。目が覚めたのね。どこか痛いところは無い?」
生温いタオルが胸部のぽっちをかすり、俺は目を覚ました。脱がされている。
「……知らない痴女だ」
俺だって言いたかったよ。知らない天井だ……って。一応ラノベとか読むし、でもきっと言っていいのは最初の朝だけだ。それなのに知らない痴女だ……って。
「誰が痴女よ! 3日も起きないから、心配したのよ。体拭いてあげようと思ったのに、痴女じゃ無いわよ! まだ純潔の乙女なんだから」
「おっ……おぅ、なんかすまん。あの……ありがとな」
盛大に怒られ、痴女ではなく処女だとカミングアウトされた俺はなんとも言えない気分になる。
一拍置いて自分のカミングアウトに気付いた女性は耳まで真っ赤で、もうなんとも言えない空気が流れた。
少しのあいだの無言の時間が永遠にも感じる。その空気に耐えかねていると、沈黙をやぶる様にドタバタと走ってくる音が聞こえて、数人の男女が入ってくる。
「どうしたっ⁉︎」
入って来たのはレオナルド達で俺はその言葉が口から出るのを止めることができなかった。
「ナイスタイミング」
「はぁ!?」
調子の悪い所はないかと尋ねられ、確認すると気絶する前に飲んだハーブティーが良かったのか、少し飲んだ皇帝様が良かったのか、どこもおかしなところは無い。むしろよく眠れた。こんなに眠れたのは久しぶりな気がする。俺が大丈夫だと答えると、彼らはホッとする。
医者にも見せてくれた結果、寝不足と過労の診断だったので安心して寝かせていたと聞かされた。グゥッと腹の虫がなる。無理もない。3日も寝ていたんだ。
腹の虫を聞いたレオナルドはその姿は目立つからとこの世界の服を渡してくれた。
彼等が用意してくれた服に着替える。準備ができると食堂に連れて行ってくれた。
酒場兼食堂のような場所に着くと、爽やか系正統派イケメンのレオナルドが自己紹介をしてきた。
「改めて、巻き込んですまなかった。そして、助けてくれてありがとう。俺はレオナルド、C級パーティ『赤き翼』のリーダーをやっている。ちなみにヒュームでジョブは剣士だ」
ずんぐりとした髭もじゃの男を見ると面倒そうに喋りだす。
「ダンダルじゃ。鍛治師兼タンクをやっておる。珍しそうに見ておるがドワーフを見るのは初めてかな?」
ドワーフ? やっぱりここは地球では無いんだな。こんな盛大なドッキリを俺に仕掛ける奴もいないし。
「ヒュームでソフィアです。神に仕えて、僧侶を授かっています。先日はありがとうございました」
庇護欲を掻き立てる小柄で巨乳のショートカットの女の子が立ち上がりぺこりと頭を下げる。レオの隣にいて、距離が近い。そう言うことなんだろうか? 爆発すればいいのに。
「ヒュームで斥候のスミスだ。職業は盗賊。よろしくな」
切れ長の吊り目イケメンて感じだ。出来る男って感じがするがなんかチャラ…軽そうだ。
「エルフで魔法使いのアメリアよ。……あの、さっきはごめんなさい。助けてくれて本当にありがとう」
「んっ‼︎」
銀色のシルクのような長髪、程よい胸の大きさに圧倒的なスタイルの良さ。綺麗系の頂点みたいに整った顔が先ほどの羞恥からか、ころころと変わり、最後にはとびきりの笑顔。
可愛すぎる。ん?他と比べて描写が細かい? 気のせいだ。声を漏らした?…気のせいだ。
「俺は二ノ宮達也(にのみやたつや)タツヤと呼んでくれ。あんたらの言うヒューム? ってやつだと思う。ジョブ? とか言うのは多分ない」
「ジョブがない? そんな奴がいるわけないだろ⁉︎第一スキルが使えたのに!」
「その辺は宿に帰ってからにしようぜ。まずは命の恩人が腹を空かせてるんだ。飯にしよう」
驚くレオナルドをスミスがスマートに制してウインクをして見せる。チャラい。他の奴らも驚いていたがその一言で動揺を隠して見せた。(うーん、空気の読めるデキる男だ)
確かににスミスの言う通りテーブルの上には所狭しとご馳走が並んでいて、見たことのない料理もある。
まぁ俺も整理はついてないが、それでも腹は減る。まずは食べよう。
「うまい! 久しぶりにまともなもん食べたよ。コンビニ弁当ばっかりだったもんな」
「コンビニベントウ?」
「あー、こっちの話」
異世界の見たこともない料理に舌鼓をうち、かなり食べて、さぁそろそろと酒に手を伸ばすと、世話焼きエルフに「病み上がりだし、お酒はまだダメよ」と止められる。悲しい。
異世界のお酒、興味あったのに。それから会話の流れでこの世界が剣と魔法の世界である事を知り、彼等が冒険者ギルド期待のパーティである事を知った。
そろそろ宿に戻ろうかと言う空気になった時にあることに気付く。
俺は今、この世界では一文無しだということに。
(食事は最初から奢ってくれる雰囲気出てたよな。でも3日分の宿代に服、医者を呼んでくれての処置、流石に払わなきゃまずいんだろうな)
「あの、支払いのことなんだが……」
恐る恐る俺が聞こうとすると何故かパーティメンバーの方が顔色を悪くして、ビクッと肩を震わせた。
「そ、それも宿に帰ってからにしよう。とりゅ……とりあえずここは俺達が払うから好きに食ってくれ」
おいスミス、さっきのスマートさはどこ行った? 男のそんな噛み方はいくらイケメンでも需要ないぞ。何故だかわからないが、さっき迄この街のギルドの中で最速でCランクに上がったとか聞いてないことまで話してた『赤き翼』も気まずそうだ。
(あぁわかる。借金って催促する方が言いづらいよな。借りる時には神のように崇めるのに返してっていうと、鬼を見るようなあの理不尽。やめよう昔のことを思い出すのは。
今回は俺の意識も無かったし。彼らの完全な善意だ。まぁ分割が効けばいいな。出来る仕事あるかなー?)
赤き翼の心情などつゆ知らず、達也がそんな事を思っていると宿に着いた。
そこで俺が見たものは…
「「「「「すいません。必ずお金は返しますから、分割にして下さいお願いします」」」」」
俺が言うはずだったセリフを言い、横一列に綺麗な土下座で並ぶ新進気鋭のCランクパーティ、『赤き翼』の姿であった。
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