第1話 異世界は突然に



男は歩いていた。背筋を曲げ一歩一歩の足取りは重い。時折止まっては背筋を伸ばす。

男は太っていると言うわけではないが、自重と言う重力さえ支え切れず歩いていた。


「サービス業の闇とはよく行ったもんだぜ」


二ノ宮達也 (にのみやたつや)は疲労困憊で、ため息を吐きながら家路に向かう。


夢だった職業に就けて、やりがいも感じる。入ってみたらブラックだった…じゃ無くて、ブラックが多い職種、業界だとわかっていて自ら就いたのだし、そこは後悔していない。

ただ、「時間が足りないな」


二ノ宮達也はコンシェルジュである。幼い頃に両親と行ったホテルで、何でも知っている受付の近くにいるお兄さんを見て、こんな風になりたい、人に感謝をされるような男になりたいと抱いた夢を追い続け、そして夢を叶えるスタートラインに立った。


このホテルで経験を積み星付きのホテルにステップアップする。そんな野望もあるが必要な知識を溜め込む時間が足りない。

限りある時間の中で帰宅の時間を使って勉強しても、夜も遅く明日も早い。良くないとは思いつつも歩きスマホをしてWeb本で知識と教養をため込みながらそれでも負けじと一流のコンシェルジュを目指して、達也は今日も背中が曲がりそうな疲労を抱え、ホテルマンとしての矜持で何とか背筋を伸ばし歩き続ける。


この物語はお客様の心に寄り添うコンシェルジュを目指す二ノ宮達也の物語の……はずだった。

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