第2話 テンプレって大事だよね


それは例えるなら、ど○○もドアのよう。光に包まれることもなく、ツッコミの激しい老神や女神に会うこともない。

ブラックの過労死でもなければ、暴漢に襲われることもない。ごく自然に彼の目には広大な草原が映っていた。

違っていたのはドアすら開けていないことだろう。


「ここは……どこだ?」


落ち着け、オレはそうめいな男あれ?そうめいってどんな漢字だっけ?れいせいになって、確かに歩きスマホは良くない。でも歩きスマホによる事故ってこれじゃないよな?



とりあえず自分がテンパっていることはわかった。漢字も使えないしな。

それだけでも良しとしよう。

ところであの遠くに見える緑の子男と、近くに漂う丸い流動体はなんだろう?映画の撮影か何かか?


ジュッと音がした。ポヨポヨとした液体から飛んできた何かが、スーツの横にあたり穴を開けたのだ。えっ、なに? 溶けた?

穴を触ると不意に「熱っ!」と、声が出た。少し残っていた液体に指が触れると、軽い火傷をした感じになった。


この痛み、夢じゃ無いとしたら……達也が思案していると


「そこのあんた、早く逃げろ‼︎ ……イヤ、掴まれー‼︎」


鎧姿の男とその仲間と思われる5人組が馬で駆けてきた。後ろには緑の小男が大軍をなしている。


300? もっといるか? 映画の撮影かなんかか? 異常な状況に呆けた達也になおも男は続ける。


「早く手ェ出せ! 死にたいのか‼︎」


怒号を飛ばしてきた男に反応して、達也は思わず手を伸ばした。その刹那、達也の体は馬上から出された手によってありえない力で宙返りの様に空を浮き、気付けば男の後ろで馬に乗っていた。

引っ張られた肩が痛い。


「悪い、巻き込んだ。解ってると思うがゴブリンのモンスタートレインだ。あんたの事はなるべく助ける様にするからよ。突然で悪いがなんか使えるスキルでも持ってれば助かるんだが」


「スキルってなんだよ! モンスタートレインって何だよ?なんだコレなんだここ? ゴブリン? じゃあさっきのはスライムかよ? ここは剣と魔法の世界ですってか⁉︎ 訳わかんねーよ!」


男はさっきまで呆けていた達也の剣幕に驚きつつ反応した。


「寝ぼけてんじゃねえ‼︎ 混乱してるなら、早くステータスだけでも教えろ!」


「はぁ? ステータスオープンとでも言えば、良いのかよ? 馬鹿じゃねえの? そんな歳じゃねえんだよ!」


怒鳴り返した達也の耳にヴィンと音が鳴り、目の前にウィンドウが開く。


「マジかよ……」


呟く達也の声もかき消され、「スキルは?」と促されるままにそのステータスを見ていく。


スキル

並列視野Lv1.鷹の目 Lv1

配給者Lv6. 交渉etc……


「並列視野? 鷹の目? あとは ……」


読み上げた瞬間に目が1つ増えた様な視野、そして自分を俯瞰で空から見下ろす様な視界に変わる。

「何だコレ気持ち悪い」そしてその目に見えたのは進行方向の端の茂みに隠れる恐らくゴブリン。


「そこの先の左の茂みに、ゴブリン? が三体いる!」


思わず発した言葉に前の男は反応して、右に避ける。ガサガサっと茂みが揺れ、ギリギリ射程範囲外にゴブリンが出てくる。


「助かった! よく見えたな。奴等待ち伏せまでしてやがった。普通の奴より知能が高いな。巣がだいぶ育ってやがる」


今度はすぐ後ろに今にも弓を放ちそうなゴブリンが狼に乗った姿が見えた。


「後ろ、馬を狙ってる奴がいる」


男の表情から避ける余裕がないことを悟り、達也は男の腰に刺してあるナイフを抜き片手で男の腰を強く掴み、落ちないようにナイフを投げた。

狙ったナイフは奇跡的に狼の眉間を捉えて、ゴブリンは落狼しもう一体も巻き込まれた。ツイてる。


いや、こんな状況自体ツイてないんだが、最低の中の最高を引いた気分だ。


「ハッハー! やるじゃないか。これで引き離せる」


男はニカっと笑う。倒した二体は特に早かった個体のようで、他の狼ゴブリンの群とは、差が開いていった。


10分ほど走りかなり離れたが、3頭の馬は決してスピードを緩めない。それどころか皆、鬼気迫る表情で走っている。


ほんの少し達也は落ち着くことが出来て他の馬を見渡すと、ズングリとした背の低い男が居る。背中には長耳のいかにも魔法使いといった格好の女性が縄で固定されている。酷く出血し意識がないようだ。


なるほど、早く手当てをしたいのかと分析をしていると、前の男の舌打ちが聞こえた。


「行き止まりだ。迂回してる時間なんて無いのに。早くギルドか教会に行かないと」


目の前にはまるでマングローブのように隙間なく木々が高く生い茂り、根を張り道を塞いでいる。

憔悴しながらもメンバーは左に曲がり迂回して木々の終わりを目指し目的地に向かうようだ。


ふと達也は見えている範囲が、さらに高くそして視野はさらに広くなっていることに気づく。そして右手に見えている木々の一部に上から見るとポッカリと道ができているところを見つけた。

「ストーップ‼︎」達也は反射的に叫ぶがもちろん誰も止まらない。

ゴブリンも真っ直ぐに追ってきているのだ。迂回している間に追いつかれるかもしれない。


「いいから止まれよ‼︎ そんで、戻れよ。その人助けたいんだろ‼︎ スキル? で道が、上から、(ハァハァ)見えたんだよ」


息切れしながら達也が怒鳴りつける。先程から達也のスキルを体感している鎧の男は迷いながらも止まり、他の皆に付いて来いという、合図を出して戻った。


達也が指示した場所は行き止まりだった。しかし達也はその場所で笑い、馬からおりて、ズングリとした男の槌をひったくる。


「おい! 行き止まりだってわかったろ? 今ならあんたは助かるんだ、早く乗れよ」


極限状態でも瀕死の仲間より巻き込んだと思っている俺を案じるのはありがたい。こいつはいい奴だなんて呑気なことを考えてしまう。


でも……槌を手に達也が振りかぶって叩きつけた木々はバキっと音がして簡単に折れた。そしてそこには密集した木々は無く、作られた道が出来ていた。人が2人通れるかわからない幅の狭い、でも確かに道だった。呆けている奴等に「おい、早く」と声をかけて馬の後ろにまた引き上げてもらい30メートルほどの道を抜けた。


抜けた先には小さな街が見えた。

ようやく、一息つけそうだ。あとは俺にできることは無いだろうと思い。息を吐き街についた。



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