第161話 龍太郎包囲網6
◇◇◇◇◇
ゴルドダンジョンの入り口付近。
ブルーキャッスルの
龍太郎は、すでに満身創痍で戦線離脱。
カレンとソフィアも対抗できる術はない。
ただ、この状況でカレンは試したいことがあると。そして、それを実行した。
聖魔術Ⅱ!聖域拡張!
セビル:『ほぅ。自覚はないがやはり天人。
なるほど聖魔術を使えるらしい。
これは掘り出し物を見つけたな。』
カレンの掛けた聖魔術は、自身の周りに聖域を展開するというものであった。
いわゆる聖道士結界のようなものである。
その結界が、龍太郎、ソフィアをドーム状に囲んでいる。
セビルは、珍しいものを見るように、聖域が展開された結界の方に近づいていった。
セビル:『ほぅほぅ。さらに素晴らしいではないか!
結界の内側が見えないほどのかなりの厚さで結界が張られているな!』
セビルは、試しにその結界を触ってみると、一瞬で手のひらが焦げる匂いがした。
魔人に最大の効果を発揮する聖魔術だけに、セビルも迂闊に突破できない。
セビル:『まあいい。所詮は結界を張っただけのこと。防御しかできん。
では、ここで待つことにしようか?
いつまで持つか楽しみだな。
この結界が終わった時点で同じ結末だ。』
確かに結界を張ったところで、魔人に勝てるわけではないが、カレンはこれで良かった。
一方、聖魔術結界の内側では……。
ソフィア:「カレン!これ何?」
カレン:「聖魔術の聖域拡張です。
たぶん、魔人には有効だと思って。」
カレンの読みは当たっていた。
魔人にとっては聖魔術は弱点である。
ただし、今回はかなりの強度で聖域拡張を展開している。それ故にこの結界があまり時間は持たないこともカレンは分かっていた。
カレンは、治癒浄化空間で回復中の龍太郎に声を掛けた。少しだが顔色は良くなっている。
カレン:「龍太郎!今のうちにソフィアと同伴転移でゲートまで戻れない?
この結界はあまり時間がもたないの。」
龍太郎:「ああ、カレン。そういうことか。
それならなんとかなりそうだ。
ソフィア。俺の言う通りにしてくれ。」
ソフィア:「ええ、わかったわ。」
龍太郎は、すぐさまソフィアの装備を収納箱に格納した。そして、ソフィアは龍太郎の指示に沿って龍太郎に覆い被さり、そのままムギュっと抱きついた。
同伴転移!
カレンの張っている結界の中から龍太郎とソフィアが一瞬で消えていった。
カレン:「良かった……。」
そして、まもなく力尽きたカレンの結界が一瞬のうちに解除された……。
セビル:『ははは、早かったな……。
ん?何?どこに行った!?』
カレンが張った結界が消滅すると、そこには3人の姿は跡形もなかった。
セビル:『うーん。せっかく面白いものを見つけたのにな……。
まあいいか。無かったことにするか。』
セビルはあっさりと諦めてその場を立ち去って行った。この魔人は放浪癖がある。
◇◇◇◇◇
一方、紗英と協力に応じた日本のメディアクルーを数名乗せた日本政府専用機は、ロサンゼルス国際空港に到着していた。
宗方総理は、約束通り3日間でアメリカ帝国との交渉を終えて、専用機は即刻、羽田空港を出発。
その日のうちにロサンゼルスの龍太郎たちを迎える準備が整った。
今回は、かなり強硬な交渉であったが、ソフィアからの情報を元に、日本のメディアから状況を暴露し、全世界の世論を味方にした上で交渉を行った。
この暴露情報から、アメリカに非があることが明白になり、中華帝国の助けもあって、交渉を受けざるを得ない状況と判断したようだ。
ただ、今回の件で日本政府はアメリカ政府を完全に敵に回した形となった。
今後、同盟関係に顕著に影響することは容易に想像できたが、宗方は意を介さず、平然とそれを受け入れた。
この男も肝が据わっている。
そして、現地では紗英が、メディアクルーに世界配信の準備のため空港で待機するように伝え、自らはハイヤーにてロサンゼルスゲートのある世界冒険者協会本部まで来ていた。
ただし、当の龍太郎たちは、ロサンゼルスダンジョンゲート内に入っているため、彼らが出てくるのを待っていた。
野神:「天堂くんたち大丈夫かしら?
予定の時刻をだいぶ過ぎてるけど……。」
ソフィアは3日前に紗英から予定時刻を聞いていたが、ある程度のリスクを想定して時刻をずらしていたのだ。
そして、ダンジョンゲートから3人が帰還するのを紗英が確認した。
野神:「え?天堂くん!どうしたの?」
ボロボロに傷ついた龍太郎が、カレンの背中に背負われていた。見るからに重症。
今も治癒浄化空間にて自己治療中。
カレン:「あ!紗英さん!?
私たち、魔人に遭遇しちゃって。」
ソフィア:「サエ。ソーリー。」
龍太郎:「紗英さん。俺なら大丈夫だ。
迎えに来てくれたんだろ?
早く日本に帰りたい。アメリカ嫌い。」
野神:「そうね。すぐに帰るわよ!
じゃあ、みんな!車に乗って!」
ハイヤーは3人を乗せて、まっすぐ空港に向かった。
協会敷地を出発すると、ここでも多数の一般人とメディアが沿道に詰めかけていた。
そして、その様子がアメリカ政府の思惑とは異なり、世界に向けて配信されている。
もうお祭りのようなフィーバーぶりだ。
ただし、あまり歓迎はされていないのだが。
そして、予想に反して何事もなく、車はロサンゼルス空港まで無事到着するのであった。
実はこれ以上の大義名分を与えないように、龍太郎とカレンには手を出さないようにアメリカ政府から通達が出ていたのだった。
野神:「さあ、空港に着いたわよ。
日本政府専用機で来たからね。」
空港でもカメラが並ぶ中、紗英を先頭にカレンとソフィアが後に続き、龍太郎はカレンに背負われたまま、専用機の方に向かっていく。
メディアの派遣員からは、紗英やカレンに対してコメントを求められるが、一切無言で突き進んでいく。
ここでまたもや厄介な事件が発生!
どこから侵入したのか?やはりブルーブラッズのメンバーが待ち伏せしていた。
総勢30名以上はいると思われ。
見るからに全員がアウトロー集団。
その内の一人、ブルーブラッズのナンバー2であるサフィスがカレンに声を掛けた。
サフィス:「ヨー!そこの女!
その死にかけの男をこっちに渡せや!」
この様子も全世界生配信中!
これをモニター越しに会長室で見ていたハワードも、流石に部下にやめさせろと叫んでいたが、止まるわけもない。後の祭り状態。
ソフィア:「お前たち!これがどういうことか分かってんだろうね!?」
これには、カレンより先にソフィアが猛烈に怒りを覚えた。
サフィス:「こればっかりは、アネさんの言うことでも聞けねぇんだよ!
ボスがやられてるんだからよー!」
周りにいた血の気の多いメンバーたちも騒ぎ出した。
会長室では、さらに怒鳴り声が……。残念。
この時、龍太郎は伝心スキルでソフィアに声を掛けた。
龍太郎:『……。』
ソフィア:『……。』
そのあと、ブルーブラッズのメンバーは、サフィスを含めた幹部3人を残して、不自然にバタバタと気絶していった。
残った幹部3人も立ったまま気絶している。
そして、ソフィアが順番に、その3人の目の前まで近づいて行き、往復ビンタをかましてノックアウト!これで一件落着!?
ソフィア:「サエ。終わったわよ。
急いで飛行機に乗りましょう。」
野神:「え、ええ。そうね。」
龍太郎たちは、無事に専用機に搭乗し、すぐさま日本に向けて飛び立った。
これにて、龍太郎包囲網は収束した。
飛行機の中では、龍太郎が横になって治癒浄化空間にて治療を続けている。
着く頃には自ら起き上がることができるくらいには回復しているだろう。
野神:「それで、何故ソフィアまで乗ってるのよ?」
ソフィア:「何故じゃないでしょ!
あの状況でアメリカに残れるわけないでしょう!それに、私、ネオ・ダイアモンズに入ることにしたから。ね?リュウタロ。」
カレン:「えーーー!?龍太郎!」
龍太郎:「それは……。
でも、俺だけで決められないって言っただろ!」
ソフィア:「という訳で、サエ。私、ジャパンに帰化するから手続きよろしくね!
上級エクスプローラは、その辺優遇されるでしょ?問題ないわよね?
ついでに、協会の仕事も引き受けてあげるから。」
野神:「はぁ……。そういうことね……。
まあ、今回はソフィアに世話になったからね。それは帰国してから話しましょう。」
カレンは、それには食い下がったが、帰国後、再度話し合うということで一応納得した。
野神:「ところで、ソフィア。
最後のあれ、何だったの?
ブルーブラッズのメンバーが突然気絶して、倒れてしまったけど。」
ソフィア:「ああ、あれね。
リュウタロの超覇気よ。幹部以外の雑魚メンバーはそれで気絶したのよ。
残りの幹部は、私の監獄スキルね。
人間相手に愛のない使い方をするのは初めてだったけど、あいつらには仕方ないわよね?」
カレン:「アレをやったんですか!?」
ソフィア:「そ。アレよ。」
怖っ!カレンは、ソフィアの逆鱗に触れないように注意しようと思った。
かなりヤバい。トラウマ確定案件!
そして、龍太郎たちを乗せた日本政府専用機は、無事日本に到着した。
その後まもなく、日本政府は中華帝国との国家間同盟を締結した旨を公表。
併せて、日本冒険者協会も中華帝国冒険者協会との協力体制を取ることも同時に発表した。
これによって、日本、中華帝国連合とアメリカ帝国の対立構造が浮き彫りになった。
さらに、中華帝国、インダス帝国、日本国の3カ国は、アメリカ帝国主導の現在の状況に懸念を呈し、世界冒険者協会からの脱退を表明した……。
◇◇◇◇◇
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