第160話 龍太郎包囲網5

 ◇◇◇◇◇


 ゴルドダンジョンでのレベルアップ特訓も3日目に突入。

 3人の連携も円滑になっていった。

 上級ダンジョンとは思えないほど、順調にポリスマンの狩りを続け、帰還の時間がやって来た。この3日間でだいぶと距離が縮まったようだ。


ソフィア:「もう、そろそろ良い時間ね。

 楽しい時は時間が経つのは早いわね。

 名残惜しいわ。」


カレン:「あっという間でしたね!

 じゃあ、そろそろダンジョンを出ますか?」


龍太郎:「もう時間か?意外に短かったな!」


ソフィア:「あんなに上がらなかったレベルも上がっちゃったしね!

 すごく充実した3日間だったわ。

 これはあれね!ふふふ。」


龍太郎:「あれってなんだよ(笑)

 なぁ。戻りはここからだと近いし、わざわざ転移しなくてもいいか?」


ソフィア:「え?転移ってスキル?」


龍太郎:「ああ、スキルだよ。

 同伴1名様まで転移可能だ。」


ソフィア:「ちょっと。どんどん出てくるわね?もう驚かないけど。」


龍太郎:「ダンジョンを出たら実際に使うから、その時にわかると思うぞ。

 ゲートまでは一瞬で戻れるからな。

 すごく便利だぞ。」


 ドヤ顔の龍太郎!


ソフィア:「それは楽しみね。ふふふ。」


 龍太郎、カレン、ソフィアの3人は、ダンジョンの入り口まで戻り、久々にダンジョンの外に出た。3日ぶりのシャバの空気。


ソフィア:「ゲートに戻る前に食事してから戻りましょうよ。

 ゲートを出たらいろいろ大変だと思うから、あまり余裕がないと思うのよ。」


龍太郎:「そうだな。」


カレン:「賛成!」


 ゴルドダンジョン入り口付近でお食事中。

 美味しい食用肉と美味しい水。

 かなり偏った食事になるが、まったく飽きることはない。

 

 そして、いつもの様に3人で話しながら、食事をしていると……。


 想定外の最悪の事態が発生した。

 突如、目の前に魔人が現れたのだ。


龍太郎:「カレン!ソフィア!」


 龍太郎は、2人に声を掛けて目で魔人が来たことを合図。その場で構えを取った。


 この魔人は、ブルーキャッスルのセビルだ。

 十魔将デカジェネの一人で序列は第3位である。少々、放浪癖がある。


セビル:『なんか、いいもの見つけたな。』


カレン:『あなたは誰なの?』


セビル:『ん?言葉が通じる奴がいたか?

 これは珍しいな。少し会話するか。』


 カレンは、何故か魔人の言葉がわかるらしいのだが、龍太郎とソフィアは何を喋っているか判別不能。


龍太郎:「おい!カレン!魔人と喋ってるよな?」

ソフィア:「どこの言葉なの?」


カレン:「え?私だけ?なんでだろ?

 あ!そうだ!龍太郎!伝心で繋いでみて!」


龍太郎:「お!なるほど!」


 龍太郎は、急いで伝心三者通話を使った。


カレン:『あなた、魔人よね?

 しかも、魔将ジェネってやつじゃない?』


 カレンも不思議だが、第六感でなんとなくそう思った。


セビル:『ほぅ。よく分かるな。

 確かに俺はジェネだ。

 お前はその姿からして天人だな?』


龍太郎:「お!伝心いけるな!」

ソフィア:「そうみたいね。」


 聞き取り専用になってしまうが、龍太郎とソフィアも会話を聞くことが出来るようになったようだ。


 そして、龍太郎もこの魔人がジェネであると聞いて納得した。

 かなりのヤバさがビンビン伝わってくる。

 圧倒的に個体レベルが高いことがわかる。


カレン:『そういえば、美紅ちゃんも同じようなこと言ってた気がするけど……私は天人ではないよ。人間だよ。』


セビル:『ほぅ。自覚なしか……。

 まあ、いい。お前を持って帰るとするか。

 アリストが喜びそうだな。

 他の人間はここで間引いておくか。』


 げ!間引くって殺されるってことじゃん!?

 ジェネということは、セブンスターか、もしくはエイトスターくらいかよ……。

 全く、ツイてないな……。

 

 ソフィアも同様にヤバいと思ったのか、こっそり監獄スキルを試してみたが、案の定、この魔人には無効だった。為す術ナッシング。


 セビルが、龍太郎を見た。


セビル:『まずはお前だな!』


 はい!龍太郎にご指名が入りました〜!


龍太郎:「カレン!ソフィア!下がってくれ!」


カレン:「でも……。」


龍太郎:「悪い。俺だけの方が都合がいい。」


 カレンとソフィアも龍太郎しか対応出来ないと判断して、大人しく指示に従った。


 セビルvs龍太郎。


 ジェネ相手にどこまで通用するのか?

 龍太郎の中で葛藤はあったが、一か八かやらなきゃいけない。そう思った。


 戦闘前のバフ、デバフはすでに掛け終えた。

 龍太郎に緊張が走る。


 対するセビルは、明らかに余裕の表情。


セビル:『ほぅ。俺を前に戦う意志を見せるか。面白い。少しは楽しめるか?』


 それもそのはず、普通のエクスプローラが魔人に遭遇した場合、恐怖と威圧でその場で動けなくなるか、いきなり霧散するかのどちらかである。戦う意志を見せるエクスプローラは相当珍しい。


 一方の龍太郎の方に余裕は無く、いきなり攻撃に入った。

 とにかく、様子を見ることなく全力で攻撃を仕掛けることにしたようだ。


 先制!行くぞ!


 火魔術Ⅳ!火焔砲!


 風魔術Ⅳ!爆嵐斬!


 土魔術Ⅳ!地剣山!


 水魔術Ⅳ!氷槍撃!


 龍太郎、怒涛の最高魔術4連発!

 かなり激しい爆音が鳴り響いている。


 ただし、セビルはこの攻撃に対して、一歩も動いていない。動けないのか、動かないのか。

 避けることもせずに全ての攻撃を受けた。


 どうだ!やったか!?


 全ての攻撃がセビルの居た場所に一点集中している。流石にこれは効いているだろうと思ったが、予想に反して攻撃の爆煙が消え去った場所にはセビルはいなかった。


 おい!どこに消えた!?


セビル:『いい攻撃だな。威力も申し分ない。

 4属性の魔術を使えるとは、なかなか素晴らしい。』


 何処から声がしているのか?

 龍太郎が振り返ると、セビルがすぐ後ろに立っている。

 龍太郎には、全く認識できないほど、一瞬で移動していたみたいだ。


龍太郎:「おい!?嘘だろ!」


 これには絶望的な個体能力差をまざまざと見せつけられたような感覚が龍太郎を襲った。


 これが魔人ジェネの戦闘力……。


 少しでもダメージを与えられればと考えていた龍太郎の思惑を見事に裏切った瞬間だった。


セビル:『それでは、少し遊んでやろう。』


 セビルは、ニヤリと表情を変えて龍太郎のボディに強烈な一撃を加えた。


 ゴキ!


龍太郎:「ウギャッーーー!ウ゛ー!」


 龍太郎には、セビルの動きが全く視認できなかった。

 そして、大量の血を吐き、その場にうずくまった。当然、肋骨と内臓に相当な損傷があることは容易に想像できた。


 そして、セビルはうずくまる龍太郎にさらに強烈な蹴りを加えて、龍太郎は勢いよく後方に吹っ飛んでいった。


 ドガーン!ザザザザーーーーーー!


 龍太郎は、すでに瀕死の状況で、意識はかろうじてあるものの、もはや動くことすら出来ない状態に陥っていた。たったの2撃で。


セビル:『ほぅ。まだ息があるか。』


 圧倒的な戦力差!

 全く遊びにすらなっていない……。


カレン:「龍太郎!!」


 カレンとソフィアは、龍太郎の元に駆け寄った。そして、カレンは心配そうに龍太郎を抱き抱えた。


龍太郎:「悪い……これは流石に無理だ。

 なんとか、二人で逃げてくれ。」


 龍太郎は、これ以上の希望的展開は諦めた。

 どうやっても、セビルに勝てるイメージが想像出来ない。


 助かる方法はあった。転移スキルだ。

 龍太郎だけ、あるいはもう一人なら同伴転移で、ここから逃げることは可能だ。

 だが、その選択肢は選べなかった。

 

 せめて、カレンたちだけは助かってほしい。


 龍太郎はそう思った。


 あわよくば、自分が残ることで、他の二人の逃げる時間が稼げないかを考えていた。

 最後の力を振り絞って、自分に治癒浄化空間のスキルで少しでも回復することに努めている。最後にセビルを足止めするために。

 

カレン:「龍太郎!もう喋らなくていいよ。

 ここからは私に任せて!」


龍太郎:「いいから、俺を置いて逃げてくれ。

 カレンでも、こいつは無理だ。頼む!」


カレン:「ううん。逃げないよ。」


ソフィア:「カレン。私も最後まで戦うよ。

 リュウタロ。私もエクスプローラよ。仲間を置いて逃げることはしたくないよ。」


カレン:「うん。ありがとう……。

 でも、ここは私に任せて。

 ちょっと試すことがあるから。」


龍太郎:「カレン。やめろ。頼む!」


 この絶体絶命の状況でカレンは何か策があると言う。一体何をしようとしているのか?


 ◇◇◇◇◇

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