第155話 世界称号4

 ◇◇◇◇◇


 世界称号授与式会場改め天下一武道会場。


 スペシャルエキジビジョンマッチと題して、グリード対龍太郎の模擬戦が開始されようとしていた。


 体術特化のグリード。

 そのスピードと戦闘力は、すでに龍太郎は経験済み。圧倒的な差が存在した。

 ただし、前回対峙した際は、龍太郎はまだツースター。それから相当に戦闘力は強化されている。

 だが、その時のグリードも全力というわけではないだろう。どこまで戦闘力が底上げされるのかは見当も付かない。


龍太郎:『様子見してる場合じゃないよな。

 こっちも全力でいくしかない。

 悪いが、超覇気を使わせてもらうぞ!』


 超覇気マックス!


グリード:「ん?お前、何かしたな?」


 グリードは超覇気に気付いたみたいだが、効いている様子はない。


龍太郎:「うるせぇ!」


 次に重力操作マックスをグリードに掛けた。

 これにはグリードは気付いていないが、効いているかどうかはわからない。


 さらに鼓舞マックス&重力操作マックスで自身の戦力強化!準備OK。


龍太郎:『あとは、純粋に体術勝負ってことか。』


 ここで金さん銀さんを取り出すことができない。

 さらに魔術系や大流星弾というもろバレのスキルは使うと厄介だ。

 ここは衝撃剛砲で体術勝負しかないと判断した。どこまで通用するかはやってみるしかない。


 

 レディーーー!ゴー!



 開始のアナウンスと共に模擬戦開始!


 いち早く動き出したのが、グリード。

 思った通り、ややフライング気味。

 ただし、龍太郎もそれを想定していたのか、咄嗟に反応している。


龍太郎:『その手は宝生に一度喰らってるからな!想定内だぜ!』


 グリードが一瞬で間を詰めて、龍太郎の懐へ入り、思い切りボディフックをぶん回した。


 フン!!


 グリード渾身のフックも間一髪で龍太郎が躱したかに見えたが、脇腹を少し掠めた。

 そして、少し掠めただけのフックで、龍太郎は勢いよく斜め後方に吹っ飛んだ。

 なんという威力!ガチパワー系。


 パキ!グハッ……!

 ドゴーーーーーーーン!!


グリード:「ほぅ!クリーンヒットしなかったか?ただ、2、3本いってるだろ!

 もう勝負は着いたか?ガオ!」


 おーっと!いきなりグリードの見えない攻撃がヒットしたか!

 リュウタロウ脇腹を押さえている!

 立ち上がれるかぁ!?


 かなりのダメージを負った龍太郎は、すかさず、脇腹の部分的に治癒浄化空間を掛けた。

 濃い緑色の光が龍太郎の脇腹に光っている。


龍太郎:『クッソ!脇腹にヒビ逝ったか。

 ここは回復を優先しよう。』


 相手が油断しているのを確認して、そのままグリードの動きを観察しながら、起き上がらず片膝をついて回復を続けている。


 スクリーンの映像ではスーパースローモーションで、先ほどの攻撃を再生している。



 おーっと!やはり、グリードの渾身のブーメランフックが、リュウタロウの脇腹にヒットしている!掠めただけでこの威力!素晴らしい!



グリード:「ガハハ!まだ動けるよな?

 まさか、これで終わりじゃねぇよなぁ?

 もう少し、相手してやるからよ。

 ほら、早く立てよ!ボクシングじゃねえんだから、カウントは取らないんだよ。

 お前が動けなくなるまで、完璧にやれって言われてんだからよ。半殺しにしてやるよ。」


龍太郎:「誰がそんなこと言ってんだよ?」


グリード:「いいから、早く立てよ。」



 グリードは、リュウタロウが立つのを待っているようだ!やはり、この差は圧倒的!

 すでに勝利を確信したかぁ?


龍太郎:『このアナウンス腹立つなぁ。

 ちょっとは黙ってろよ!本当に!

 でも、なんとか、脇腹は回復したか。

 さっきは、避けたはずが避けきれなかったということは、いつも通りではダメってことだな。スピードは見切れるはず。もっと大きく躱さないとな。

 ほんじゃ、反撃開始と行くか!倍返しじゃ!』


 龍太郎は、立ち上がるや否や、グリードに一直線に飛翔スキルを使って一気に距離を詰めた。


グリード:「フッ。やっと、来たか。」


 グリードは、余裕を持って龍太郎の動きを確認している。

 これに反応したグリードは、避けるどころか龍太郎に向かって突進。カウンターを取るつもりだった。ニヤリと笑みを浮かべる。


 だが、龍太郎はさらに後方に風魔術を使って、さらに加速した!


龍太郎:「二段ロケットじゃ〜!」


グリード:「何っ!?」


 グリードは、これで間合いを見誤った。

 龍太郎の渾身のスーパーマンパンチがグリードの顔面の顎を狙う。

 グリードは、咄嗟にかろうじて自身の顎の前に腕をクロスして防御の体制を取った。

 これが、龍太郎のフェイントと知らずに。


 脊髄反応でガードをしたグリードは、自らの視界をも遮ってしまう。

 これが龍太郎の狙い。

 格闘技は龍太郎の十八番である。

 さらにスピードに関しても、身体能力のみであれば、グリードが勝っているものの、スキルを加味したスピードは圧倒的に龍太郎が勝っていた。


 龍太郎は、グリードのガードを確認して、すぐさま両手を掌底の形に切り替えて、ガラ空きのボディに衝撃剛拳マックスをお見舞いした。

 

龍太郎:『衝撃剛拳マックス!!』


 グハッ!?


 龍太郎の衝撃剛拳が、グリードのボディ前方から後方に貫通した。

 グリードは、口から血を吹き出し流し、真後ろの方向にものすごい勢いで吹っ飛んだ。

 フリードの体は、はるか後方の帝国軍兵士にぶつかって止まった。

 その動きは、ユエ、スーラジ以外には見えていない。


ユエ:『あの子、加速した際に風魔術を使ったように見えたけど?

 でも、それだけではなさそうね?

 もしかして、複数スキルの持ち主なの?』


スーラジ:『あのスピードは、私より速い。

 ただし、最後の攻撃は、かなりの威力だったが、何をしたんだ?

 彼は何者だ?彼が真の王なのか?』


 ユエとスーラジは、龍太郎の潜在能力を確認して、面白い存在だと認識したようだ。


 元々、ユエとスーラジは、グリードのように自己顕示欲があまりない性格だった。

 たまたま、特殊なスキルを授かったが故に、自己研鑽を積み上げ、トップエクスプローラに上り詰めた人物。世界の危機に対抗すべく、レベルアップに努めている。

 ただし、受け取り方は個々に違っていた。

 ユエは、龍太郎を世界の危機に協力しなければいけない存在であると認識した。

 一方、スーラジは、所詮は他人。我が道を行くというタイプだった。

 ただし、2人とも共通してフリードのことは性格的に嫌っている。



 おーっと!一体何が起こったんでしょう!

 リュウタロウが反撃をした模様ですが、肉眼では確認出来ませんでした。

 グリードは、後方の帝国軍兵士にぶつかったみたいですが、大丈夫でしょうか?

 今、映像が先ほどの攻撃のスーパースローモーションに変わります。確認してみましょう!


 リュウタロウが起き上がるとすぐにグリードに一直線に向かっていきます。

 スーパースローモーションでこのスピード!

 これはすごい跳躍力です。

 そして、リュウタロウのスーパーマンパンチが、グリードの顎を狙っている!

 それに反応したグリードが笑みを浮かべて、リュウタロウの方に向かった!

 カウンターを取る体制ですね?

 この状態だとグリード優勢に見えます。

 おーっと!リュウタロウが途中でさらに加速したように見えますね?

 地面を蹴ったようには見えませんが、どうしたんでしょう?

 これはマズいと感じたのでしょう!咄嗟にグリードが腕をクロスしてガードに入ります!

 おーっと!このガードを確認したリュウタロウが、攻撃を切り替えて、カメ○メ波のような形の両手掌底に変化している!

 このスピードでフェイントか!?

 これが見えていないグリードのボディに一撃が炸裂!

 当たった瞬間にグリードが振動しているように歪んで見えます!

 これはすごい破壊力だー!

 そのまま、後方に吹っ飛んだグリードが帝国軍兵士にぶつかって止まったようです。

 一瞬の攻防にこれほどの駆け引きがあったとは思いませんでした。


 さて、グリードの様子はどうでしょうか?

 あーー!グリードは大量の血を口から流し、白目を向いて失神しているようです。

 確認した帝国軍兵士が手でダメだと合図しています!

 これで決着が付きました!


 スペシャルエキジビジョンマッチの勝者は、ジャパンのリュウタロウです!

 意外な結果と言っても良いのでしょうか?



龍太郎:『ふぅ。終わったかよ。

 このあともいろいろ考えてたんだけど、一発で決まって良かったよ。』



 待機室にいたカレンもホッとしていた。


カレン:『良かったー!

 龍太郎の怪我は大丈夫かなぁ?』



 今、グリードが兵士たちの担架で医務室に運ばれたようです。

 かなりの重症ですが、息はあるようです。

 グリードの症状に関しては詳しいことが分かり次第、お伝えします。



 ◇◇◇◇◇



 世界探検者協会本部の会長室で模擬戦を観戦していたハワードが、かなり激怒している。


ハワード:「あいつ!あれほど自信満々に言ってたのに、やられてるじゃないか!?

 ふざけるな!計画が台無しじゃないか!

 こうなったら、プランBに変更だ!

 おい!今すぐ現場の将校に伝えろ!」

 

幹部:「はい。承知!」


 協会幹部は急いで、現場に待機している帝国軍将校に連絡を取った。



 ◇◇◇◇◇

 


 イベント会場では、龍太郎がこのあとどうすればいいのかわからず、ポツンと立っていた。


龍太郎:『で、この後どうすんだよ?

 前もって教えといてくれよな!

 もう、帰っていいのか?』



 それでは、エキジビジョンマッチに勝利したリュウタロウの勝利者インタビューに移りましょう!

 

 そのアナウンスとともに、飛んできたドローンが龍太郎の前にマイクを置いた。


龍太郎:『えー!?インタビュー!?

 何も話すことないぞ!

 あ!そっか。ここは文句言ってやるぞ。』


 龍太郎は、置かれたマイクを手に取って、文句を言ってやろうとした時、アナウンスがさらに割って入ってきた。



 え?あ!はい!承知しました!

 えー、インタビューの途中ではありますが、ここで全世界配信を終了させていただきます!

 皆さま、ご視聴ありがとうございました!

 それでは、またお会いしましょう!


 プチュン!


 一方的に全世界生配信が切られた。



 この中途半端な幕切れに、全世界で視聴していた国民たちは、何が起こったのかわからず、一斉に騒ぎ出した。


 おい!なんでやめるんだよ!

 続き見せろよ!ふざけんな!

 これで終わりってどうなってんだ!?


 そして、中継が終わったイベント会場では、ハワードの指示によるプランBが今まさに開始されようとしていた。

 

 ◇◇◇◇◇

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