第123話 ゲート解放
◇◇◇◇◇
世界緊急会議の翌日。
日本では渋谷ゲートと梅田ゲートが開放されるにあたり、通知文書が現存エクスプローラに送付された。
そこには、巷ですでに展開されている世界緊急会議での情報の補足と注意事項が書かれていた。
その中で、今後の方針としてイエローキャッスルの調査については保留し、各自の個体強度レベルの強化に努めてほしい旨の依頼があった。
また、日本独自の主な特記事項として。
喜多川北斗、南斗の両名が帰国し、国士無双に再登録された事。代表は喜多川北斗。
世界的に現存エクスプローラに対して例外を除いて恩赦が適用されたことにより、宝生舞夢が国士無双に再登録された事。
他にも今回、残存エクスプローラによって、クランの一部再編があったらしく、その結果は添付リストに載っていた。
また、現在、協会職員として登録されている引退者についても、エクスプローラの再登録を行い、活動を再開する事。
要するに現存スキルホルダーは、例外なくエクスプローラ登録が必須となった模様だった。
ネオのクランハウスでも、その通知文書を見ながら、会話が始まっていた。
カレン:「今日からゲート開放だって。
龍太郎、どうする?」
龍太郎:「ゲートが開放されたんなら、行くしかないっしょ?
早速、明日から再開するか?
みんなはどうだ?」
華那:「私たちはいつからでもいいよ。」
龍太郎:「ほんじゃ、どこに行くかだな?」
カレン:「ミズシマダンジョンじゃないの?」
龍太郎:「それでもいいけど、階層を変えるけどいいか?
同じところはあんまりメリットが無いんだよな。」
カレン:「あ!そういうことね。
じゃあ、龍太郎が一緒ならいいよ。」
このあと、みんなの意見を聞いたが、とりあえずミズシマダンジョンの第三階層以下に潜る事に決定した。あっさりと。
カレン:「む。喜多川兄弟が帰国だって。
それに舞夢も復帰したみたいだよ!」
龍太郎:「え?なんで!?
まだそんなに経ってないと思うけど……。」
カレン:「今回の件で全世界でエクスプローラに恩赦が出たんだって。」
龍太郎:「恩赦?嘘だろ?
短いじゃん!だって、短いじゃん!
俺、死にかけたんだけど!」
カレン:「そうだよね!なんかふざけてるよ。
抗議しよう!絶対反対!」
龍太郎:「……いや。もういい。
あいつにはあんまり関わりたくない。」
カレン:「そうなの?じゃあ、わかった。
もう、この話は無しにするね。
それにしてもさ、我がクランは今や2番目に大きいクランになっちゃったね?」
美紅:「そうですね。まさかです。
ダメ代表のチェリ男なのに。
これもカレンさんのおかげですかね?」
龍太郎:「誰がダメ代表やねん!
いい加減、チェリ男ってやめろ!
それに人数だけで言うとだろ?
国士無双は別格だし、カーバンクルとかスカイピアは絶対俺たちより上。
地道にレベルアップしないとな。」
華那:「私たち、ギリギリだもんね。
レベル10になるのが、少しでも遅かったら、スキル無くなってたんだよね?」
玲奈:「そう!危なかったよね!」
詩音:「ラッキーだったってことでしょ?
先生に助けられてから、なんかすごく変わったよね。」
龍太郎:「そうだぞ!もっと感謝しろよ。
まあ、俺もだけど。」
ピンポーン。ピンポーン。
龍太郎:「ん?誰か来たな。俺が出るよ。」
突然の来客があったようだ。
この時期に誰?
また、野神さんかな?
ガチャ!
扉を開くとそこには、アメリカから帰国していた喜多川北斗が立っていた。
龍太郎「え?北斗さん?」
北斗:「天堂。少し聞きたいことがある。」
珍しい来客だったが、龍太郎は北斗をクランハウスの部屋に案内した。
とりあえず、詩音が北斗にコーヒーを出して、すごく重苦しい空気の中、話が始まった。
北斗:「まず、天堂には謝っておくことがある。
宝生が出所したことは聞いているな?」
龍太郎:「ああ、さっき知ったよ。」
北斗:「ここに来るにあたって、宝生も連れて来る予定だったが、あいつはお前に会うには、まだ時間がかかるらしい。
無理に引っ張ってきても、どうかと思ってな。それで、俺だけが来た。
すまないが、少し時間をくれ。」
龍太郎:「ああ、それはいいよ。
むしろ、宝生とは俺が会いたくない。
あいつが俺たちに近づかないようにして欲しい。」
北斗:「そうか……わかった。
それは俺が責任を持つ。すまんな。」
龍太郎:「それで、用件はなんだ?」
北斗:「ああ。日本で魔人の存在を確認したと聞いてアメリカから帰国した。
そのあとすぐに協会に行ったよ。
ただ、それ以上の情報は得られなかった。
情報の入手経路もだ。
それでここに来たと言う訳だ。お前だろ?」
龍太郎:「え?なんで?」
北斗:「俺の感だな。お前しか見当たらない。
そうだよな?」
龍太郎もどうしていいかわからない。
少しの間、沈黙が続いた。
その様子を見て、北斗の感は確信に変わったようだった。
北斗:「天堂。頼む!この通りだ!
俺にとって、これ以上に欲しい情報はないんだ!頼む!」
北斗は深々と頭を下げている。
龍太郎もこれには驚いた。
普段の北斗からは想像できないくらいの悲壮感で、若輩の龍太郎に深々と首を垂れている。
龍太郎:「北斗さん。頭を上げて。
わかったよ。俺の知っている魔人のことを話すよ。」
それを聞いて安心したのか、北斗は頭を上げて安堵を浮かべた。
北斗:「頼む。」
龍太郎:「日本にある巨大迷宮がイエローキャッスルと呼ばれているのは知ってるよな?
そのイエローキャッスルの管理者が貴族魔人で、その配下に平民魔人が18名いるんだよ。
俺はその平民魔人に一度会ったんだよ。
魔人の特徴は白目がないんだ。
そいつはスグシムってやつで、そいつが川崎ブレイクの犯人。
簡易ゲートを開いて、魔生石から大量のゴブリンズを発生させていたんだよ。
もうそいつは死んでいないけどな。
まあ、そんな感じかなぁ。」
北斗:「天堂。そのイエローキャッスルの管理者の情報はないのか?」
龍太郎:「ん?ああ!
そういえば、そのスグシムから聞いた情報だと、確か、イエローキャッスルの管理者は……そう!カニバル・フォン・エリック子爵って名前だったような。
なんか、こっちに来て爵位が上がったって言ってたな。」
北斗:「マジか!?」
龍太郎:「ああ。たぶん、合ってると思うぞ。」
繋がった!
まだ、カニバルはこちらの異世界にいる!
星羅もいる可能性が!
北斗は最も欲しい情報が手に入った。
北斗:「天堂!感謝するぞ!
カニバルはまだイエローキャッスルにいるんだな。」
龍太郎:「カニバルを知ってるのか?」
北斗:「ああ。因縁の敵だ。」
龍太郎:「へぇ。ブルーノと同じなんだな。」
北斗:「なんだ!?そのブルーノってのは?」
龍太郎:「いや!違う!今のは無し!
なんでもない!忘れて!」
焦って否定するが、誤魔化せる訳もなく。
仕方なく、断りきれずにブルーノに関しての説明をした。
突拍子もない話だが、北斗はそれが真実だと疑いはしなかった。
北斗:「なるほど。そのブルーノって魔人は天堂の味方なんだな?」
龍太郎:「そうだな。今は行ったっきりで戻って来てないけどな。」
北斗:「そうか。なら、共通の敵がいる俺も同志ということだな。
天堂。本当に感謝するぞ。」
龍太郎:「ああ、いいよ。
でも、絶対に誰にも言ったらダメだからな!
それだけは頼むぞ。」
北斗:「ああ。それは約束する。
ただ、ジュニアにだけは、カニバルがイエローキャッスルにいることは伝えたい。
あいつにも秘密は必ず守らせる。」
龍太郎:「うーん。まあ、信用するよ。」
北斗:「助かる。で、お前たちはキャッスルを目指すのか?」
龍太郎:「最終的にはそうだけど、今は無理。
レベルアップに集中する予定だよ。」
北斗:「そうか。わかった。
天堂。何かあれば、教えてくれ!
いつでもお前への協力は惜しまない。」
龍太郎:「秘密厳守な!」
北斗:「ああ。じゃあな。」
北斗は何かの決意を持った顔で、ネオのクランハウスを出て行った。
なんか、いろいろ喋っちゃったなぁ。
北斗さんって結構喋り易かったりする?
しかし、魔人が因縁の敵ってどういう意味?
今頃になって疑問の龍太郎だった。
そして、それぞれのクランがそれぞれの思惑で異世界探検を再開していく……。
◇◇◇◇◇
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