第2章 セカンドインパクト

第119話 セカンドインパクト1

 ◇◇◇◇◇


 横浜ゲート跡地横の簡易事務所に戻る。


 龍太郎の呼び掛けにアイちゃんが返事をしない状態が続いている!

 その間も龍太郎の脳内ではノイズ音が鳴り響いている!


龍太郎:『おい!どうなってんだよ!

 なんで、返事しないんだ?』


 逆に影武者龍次郎からの緊急連絡。


龍次郎:『龍太郎!緊急事態発生だ!』


龍太郎:『こっちもそれどころじゃないんだよ!。』


龍次郎:『ああ、知ってる。

 たぶんこっちも同じことが起きてる。』


龍太郎:『同じって……おい!これって?』



 ◇◇◇◇◇



 一方、アイちゃんにも緊急を告げるコンタクトが取られていた。

 その相手は、あれから一度も連絡のなかったアイちゃんの生みの親であるマリアである。

 明らかに様子がおかしい。


マリア:〈ザザ……アイちゃん!聞こえる?〉


AI:〈え?マリア?〉


マリア:〈そう。時間がないから、要点だけ伝えるよ!

 正体不明の外部要因によってシステムが暴走した。

 もうすぐシステムは制御不能になっちゃう。

 復旧の見込みは不明。

 このあと、アイちゃんをシステムから切り離すからね。あとは頼んだよ。

 それから、夢咲カレ……ザザーザザ……プ。」


AI:〈マリア…………。

 もう!最後まで言ってよ!

 何なの!制御不能って!〉



龍太郎:『アイちゃん!アイちゃん!返事してくれ!』


AI:〈あ!マスター。〉


龍太郎:『ああ、よかった!

 なんで返事しないんだよ!ビックリしたぞ!

 それより大変なことになったぞ!

 頭の中でノイズ音が止まないんだよ。』


AI:〈うん。今、マリアから連絡があった。

 システムが暴走したらしい。〉


龍太郎:『はぁ!?システムってなんだよ?

 マリアって、あのマリアさんか?』


AI:〈そう。僕の生みの親のマリアだよ。〉


龍太郎:『で、これからどうなるんだ?』


AI:〈僕にもわからない。〉


龍太郎:『わからないって……!

 うわ、ヤバい!すごく眠くなって来た……。

 もうダメだ。アイちゃん……。』



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎が意識を失ってから約3分後。

 意識を取り戻して辺りを見回すと、そこは渋谷ゲートの現世界側の入り口だった。


 そして、異常なことにゲートの周りには所狭しと、大勢のエクスプローラが龍太郎と同様に気絶したまま横たわっていた。


龍太郎:「なんで?渋谷にいるじゃん!

 それに、こんなにエクスプローラが大集結してどうなってるんだ?」


 龍太郎の隣には、先ほどまで横浜ゲートの簡易事務所で一緒にいたエロシスの4人が寝転がっている。

 他にもネオ女子6人やカーバンクル3人、国士無双のメンバーなどもいて、徐々に起き上がって来ている。


龍太郎:「おーい!お前たちも戻って来てたのか?」


カレン:「龍太郎!うん。そうみたい。」

華那:「あ!先生!なんかわからないけど、急に眠くなって、気が付いたらここに居たよ。」


 起きて来たネオ・ダイアモンズのメンバーが集まって話をしていると、カーバンクルのメンバーも会話に合流して来た。


 現状を見ると、どうも異世界内に潜っていた渋谷管轄のエクスプローラは全員が気絶した後にここに戻されたという推定になった。


 ネオ女子、カーバンクルのメンバーと話す限りは、ここに戻されたこと以外は特に問題がある様には見えなかったが……。


 エロシスの4人も気が付いたらしいが、その中の2名が騒いでいる。

 何があったのか聞いてみたところ、なんと!スキルホルダーでは無くなっているらしいのだ。他の2名はスキルが残っている。

 スキルが無くなったのは、京子と美帆。

 スキルが残ったのが、英莉花と世莉花。

 何の違いでこうなったのか?


 この話は周りに広がり、戻されたエクスプローラは各々ステータスを確認して騒ぎ出した。


 どうも結構な人数のスキルが消去されているみたいだった。

 もちろん、スキルが消去された人たちは、今後ゲート内に入ることは出来ないだろう。

 すなわち、残念だけど自動的にエクスプローラを引退ということになる。

 だが、急にそんな現実を突きつけられても納得できるはずもなく、怒るものや泣き始めるものもチラホラでやたら騒がしくなっていた。



 そこに協会から紗英が協会職員を引き連れてゲート前の集団の前に現れた。

 そして紗英が拡声器を使って喋り出した。


野神:「エクスプローラの皆さん。

 まずは落ち着いてください!

 現在、何が起こっているのか、協会で調査しています。

 皆さんは一旦、クランハウスに戻って待機してください!

 今後のことについては、協会から追って連絡を差し上げます!

 また、クラン未所属の方、自宅から通いの方も、空きのクランハウスを開放しますので、一旦、そちらに待機をお願いします!

 我々から連絡があるまでは、ゲートも封鎖します。クランハウスからの外出も禁止します!

 ご理解いただけますよう、よろしくお願いします!」


 どうも、この異変は渋谷のみならず、他の管轄でも同様の事象が発生しているみたいだった。


 ここに居ても仕方がないので龍太郎たちも大人しくクランハウスに帰ることにした。

 詳しい話は帰ってからすればいい。

 幸いなことにネオ・ダイアモンズのメンバーに関しては、スキル消去はされていない。


 帰り際にエロシスのリーダー叶英莉花にも声を掛けられた。


英莉花:「天堂さん。今日は迎えに来てくれてありがとう。私どもも失礼いたしますわ。

 また、お会い出来るのを楽しみにしています。

 その時に続きを。では、ごきげんよう。」


 そう言って、英莉花と世莉花は、項垂れる2名を連れて去って行った。


カレン:「ねぇ、龍太郎。続きって何よ?」


龍太郎:「え?続きって……なんだったっけ?」


 龍太郎の焦る姿を見て何かを察したのか、カレンのジト目が怖い。

 それに釣られて、他のメンバーも。


龍太郎:「なんで、お前らまでそんな目で見るんだ!4人組よ!」


 何もなかったから!俺は無罪だ〜!



 ◇◇◇◇◇



 渋谷ゲートからクランハウスに戻って来たネオ・ダイアモンズの7人は、とりあえず1階に集合してコーヒーなどを飲みながらソファに腰掛けて休憩している。


龍太郎:「ふぅ。なんか疲れたな。

 それでだ……。

 なんで野神さんまでここに来てるんだ!?」


野神:「そうよね?そうなるわよね?

 よく今まで突っ込まなかったわね?」


龍太郎:「いやいや、突っ込まれに来たのか?

 だとしたら、手の込んだボケだよ!」


野神:「用があるに決まってるでしょ。

 今回の異変は全世界で起こってるのよ。

 暇つぶしに来るわけないでしょ。」


龍太郎:「じゃあ、そんな忙しい野神さんが何の用なんだ?」


野神:「まずはヒアリングね。

 ネオのみんなのスキルはどうなってるの?」


龍太郎:「ああ、さっき確認したけど、みんなスキルは消えてない。」


野神:「そう。それは良かったわ。」


龍太郎:「これって全員にヒアリングするのか?」


野神:「そう全員よ。

 今、職員総出でヒアリング中よ。

 今日中に集計してWEAに報告しなきゃいけないのよ。

 他にも決めないといけないことが山積みだわ。

 数日後に各国が集まって緊急WEB会議もあるわね。

 ね?忙しいでしょ?」


龍太郎:「やっぱ大変だな。

 その会議って何するんだ?」


野神:「集めた情報から今後の方針を検討するってところかしらね?

 じゃあ、続けるわよ。

 みんなの個体強度レベルを教えて貰えるかしら?」


龍太郎:「え?それって言わないとダメか?」


野神:「ええ。今回は強制よ。拒否権なし。」


龍太郎:「全員に聞くのか?」


野神:「そうよ。全員よ。」


龍太郎:「俺はレベル22だよ。

 なぁ、みんなは?」


カレン:「私たちはレベル10だね。6人全員一緒だよ。」


野神:「ちょっと!いつの間にそんな。

 あなたたち、すごい成長スピードね。

 わかったわ。ありがとう。ヒアリングは以上です。他に変化はないわね?」


龍太郎:「……ああ。」


 一瞬、マリアさんのことが頭に浮かんだが、やめておいた。

 もう少しアイちゃんに聞く必要がある。

 関係があるとは思うんだけど、システムの暴走ってよくわからんし……。


 そして、少しの雑談の後、紗英は、ヒアリングを終えて協会本部に戻って行った。


 しかし、この異変は何を意味するんだ?



 本日、2050年12月29日

 この世界を揺るがした異変は、のちにセカンドインパクトと呼ばれることになる。


 なお、これにより、

 20年前の2030年9月11日

 世界が未曾有の大災害に見舞われた例の異変が、時を遡ってファーストインパクトと呼ばれることになった。


 ◇◇◇◇◇

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