第115話 イエローキャッスル
◇◇◇◇◇
龍太郎は、横浜ゲート探索の初日の活動を終えて一旦クランハウスに戻って来ていた。
初日の成果としては、中目黒付近?
一日中飛翔してもこの程度であった。
これにより異世界内はかなり広大であることを改めて痛感した。今更だけど。
順調にいけば、たぶん10日くらいで目的の横浜ゲート付近に辿り着く計算になるのだが、ホログラムマップ上には途中、山あり谷あり幾つかの難所が控えている。
これって普通だったら、絶対に辿り着かないだろうな。と龍太郎は思った。
そして、カレンたちとの会話。
まず、龍太郎から事の詳細をもう一度カレンたちに話した。
カレン:「なんか、大変なことになってるね。
残っちゃった人たちは不安だろうね。
頑張って早く行ってあげないとだね。」
龍太郎:「ああ。ただ、バカ広くってさ。
渋谷を出発して、未だに中目黒だぞ。
東横線で2駅しか進んでないってどんだけ!
まあ、少し寝たら再開する予定だよ。」
華那:「先生でも一日で2駅かぁ。
横浜までだとどれくらいかかるんだろうね?」
龍太郎:「予測だと10日から2週間くらいかなぁ。
一応、横浜の簡易事務所に1ヶ月分の食糧が置いてあるらしいから、それまでには着くと思うけどな。
まあ、急いだ方がいいよな。」
カレン:「そうだね。
じゃあ、それまでは龍太郎はそっちにかかりっきりだね?
大変だけど、頑張ってね!
でね。私たちなんだけど、もう少ししたらゲートに潜るのを再開しようと思ってるんだ。
今日、みんなで話し合ってね。
少しでもレベル上げした方がいいよね?
龍太郎がいなくて不安もあるけど、いつも龍太郎と一緒にって言うのもどうかな?って。」
龍太郎:「それはすごくいいと思うけど、俺がいなくて大丈夫か?」
カレン:「うん。ゴブリンズならもう無傷でいけるから。龍太郎がいないと時間はかかるけどね。
でね。行く時には、ミズシマダンジョンまで同伴転移で連れていって欲しいの。
今回は食糧を多めに持っていくから少し長期にしようかって思ってるんだ。
もう骨男社長にも言って来たから。」
龍太郎:「うん。そっか。わかったよ。
ミズシマダンジョンの第一階層で狩りだな。
それなら、何とかなるか。
じゃあ、行く時に教えてくれ。」
玲奈:「私たちも早くレベル10になりたいんだよね。そしたら覚醒するかも?ってね。」
亜実花:「そう!覚醒するぞ!」
龍太郎:「お!いいね。覚醒かぁ。
どうなるんだろうな。俺も楽しみだよ。」
やっぱ、目標があると頑張れるよな。
俺の目標は黄色いやつ。
でも、キャッスルには魔人がいるんだよな。
魔人と対峙するには、ちょっと今のレベルだと無理だよなぁ。
ブルーノは大丈夫かなぁ?
今頃、どうしてるんだろ?
◇◇◇◇◇
イエローキャッスル最深部。
ギュベル:「カニバル様。キャッスル内に侵入者があったようです。
しかも、その侵入者は見知らぬ魔人であるとの報告が。」
カニバル:「それは誠か?
魔界から何も聞いていないが……。」
ギュベル:「そうですね。
魔界との連絡は絶っていますので、勝手にこちらに来た可能性はありますが。」
カニバル:「仕方ない。我が行くとするか。
ジャビルはここで待機。
ギュベルは一緒に来なさい。」
◇◇◇◇◇
ようやくイエローキャッスルに辿り着いたブルーノ。
ここにカニバルがいると思うと、逸る気持ちを抑えられないでいた。
ブルーノは、着いて間もないというのに、即座にキャッスル内部に侵入して行く。
イエローキャッスル内部に入ると濃度の濃い魔素が充満している。
通常のダンジョンよりも明らかに濃度が濃い。人間にはかなりきついレベルだが、魔人にとってはすこぶる心地良い環境だ。
ブルーノは、やっと本来の戦闘力を発揮できる環境になったと自覚した。
さらに、ここに存在する魔物に関しては、特級に分類される魔物のみが存在した。
人間界で分類されていたモンスターは初級、中級、上級の3種類に分けられていたが、のちにWEAが特級モンスターを分類として追加している。
ゴッドゲート内に存在するモンスターの異常なまでの戦闘力に、それまでの上級モンスターとは区別する必要があると判断したためだ。
それほど、上級モンスターと特級モンスターには圧倒的な差があった。
現に上級モンスターは、上位ランクのエクスプローラであれば、単独でもギリギリ討伐可能なレベルだが、特級モンスターに関しては集団ですら討伐不可能なレベルだった。
なお、ブルーノであれば、キャッスル内の魔物も単独で討伐可能であったが、体力の消耗を回避するため、あえて魔物を避けて探索を行っていった……。
◇◇◇◇◇
そして数日後、イエローキャッスルの内部探索を進めるブルーノは、異常に大きく邪悪な気配がものすごいスピードで接近して来るのを察知した。
そして、ブルーノの目の前に2人の魔人が現れる。
ブルーノ:「カニバル!?」
カニバル:「ほぅ。これは驚きましたね。
まさか、こんなところでブルーノ様にお会い出来るとはねぇ。
どうやってあの魔回廊を脱出したのかは知りませんが、ご無事で何よりです。」
ブルーノ:「貴様!ふざけるな!
よくも白々しくそんなことが言えるな!」
カニバル:「まあまあ。怒りを鎮めて。
久しぶりに会ったのですから、少し話をしましょうか?
ブルーノ様が処刑された後、我も子爵に陞爵することが出来ましてね。
これも全てブルーノ様のお陰ですよ。
あなたには感謝してますよ。
いや、ちょっと待ってください。
今は、我は子爵で、あなたは平民。
なのにブルーノ様はおかしいですよねぇ?
それで、ブルーノ。
お前は一体ここに何をしに来たんだ?」
ブルーノ:「貴様。相変わらず、よく喋るな。
お前がここにいると知って来たのだよ。
理由は貴様がよく分かってるはずだ!」
カニバル:「ほぅ。なるほど。
逆恨みというやつですかね?
まあ、いいでしょう。
理由はともかく、魔回廊を抜けたということは、お前もすでに罪人では無いですからねぇ。
晴れて釈放されたということ。
魔界に戻ることが出来るよねぇ?」
ブルーノ:「ああ、そうだ。
我は罪人ではない。元々な!
ただ、もう魔界に我の戻る場所はない。
全てを失った。貴様のせいでな!」
カニバル:「そう。戻っても何も無いな。
ただ、お前に魔界に戻られては困るからな。
今度は、我が確実に死を与えましょう。
もう二度と戻って来られないようにな!」
その言葉を合図に魔人たちは、臨戦体制に入った。一気に周りの空気が重くなった!
ブルーノは、2対1の戦闘になるのを嫌って、まずはカニバルの側近に近づき、顔面にフルパワーの剛拳を放つ。
殴られたギュベルは、そのまま後方に吹っ飛び壁にぶつかったあと、気絶して動かなくなった。
ブルーノは、カニバルとタイマン勝負に持ち込むことに成功した。
カニバル:「ほぅ。腐っても元子爵。
ギュベルでは全く歯が立たないか。」
ブルーノ:「これで貴様と我の一騎打ちだな。
思う存分、貴様を殺ることが出来る。」
カニバル:「いやいや。元々、一騎打ちのつもりでしたよ。
我も相当レベルを上げましたからね!
昔は一度も勝てませんでしたが、今はどうでしょうかねぇ?」
ブルーノはすでにレベル限界の99に到達している。
カニバルがあれからレベルを上げたとしても、負けることはないとそう思っていたのだが、カニバルもかなり余裕がある表情に見えた。
そして、ブルーノが先に仕掛ける。
ブルーノは一瞬でカニバルに接近、顔面に剛拳を放つもカニバルに難なく躱される。
逆にフルパワーの剛拳を顔面に受けて、後方に吹っ飛び壁にぶち当たった。
ブルーノは一撃でかなり大きなダメージを喰らった。
ブルーノは、すぐさま立ち上がるも、そこに一瞬で接近したカニバルのボディ攻撃を喰らい、うずくまったところにフルパワーの回し蹴りを喰らう。
ブルーノは、またもや反対側の壁に激突。
予想に反して、ブルーノとカニバルには、大きな戦力差があるように見える。
ブルーノは、ゆっくり立ち上がるもすでに満身創痍の状態であった。
もうすでに、勝負の決着はついていた。
カニバル:「おや?驚いているようですねぇ。
なぜ、これまでの戦力差があるんだ?
って感じでしょうかねぇ。ふふふ。」
悔しいが、カニバルの言う通りである。
カニバル:「じゃあ、死ぬ前に教えて上げましょう。我はね…限界突破したんですよ。」
ブルーノが驚愕の表情に!
限界突破の方法を手に入れたのか?
我もいろいろ調べたが、ついに知ることが出来なかった方法を?
カニバル:「その表情、いいですよ。
限界突破の方法を知るためにはねぇ。それはそれは莫大なお金が掛かりましたよ。
お前のように普通のやり方では一生知ることは出来ないんですよ。
そして、子爵止まりになるんです。
我はここの人間界を侵食してしまえば、晴れて伯爵、上級貴族ですよ。
魔界もね。強いだけではダメだってこと。
分かるか?分からないだろうなぁ。
お前、元々が魔人に向いてないんだよ。
だから、騙されるんだよ。受けるねぇ。
まあ、もう死ぬんだから関係ないか?」
そうか。我は魔人に向いてなかったか……。
魔界で騙され、魔物界で復活し、やっと復讐が出来ると思ったのも束の間、こんな悲しい結末になってしまうとは……。
◇◇◇◇◇
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