第114話 喜多川兄弟3

 ◇◇◇◇◇


 それからさらに月日が経ち、北斗、南斗も18歳の誕生日に天啓を授る。

 2人のスキルは〈竜人〉〈虎人〉。


 それを機に、星羅もエクスプローラ登録を行い、3人でクランを結成。


 クラブ・バタフライはオーナーとして店は経営しつつ、だが、3人はそちらに興味が移り、異世界探索に軸を移すことになる。


 この3人で始まったクランの名が〈国士無双〉である。

 この名の由来も星羅が強そうだからというだけで、呟いたものであったが、北斗、南斗も特に反対なくすぐに決まった。

 この時も、星羅はナイスネーミングセンスと自画自賛していたが、そこはハテナ?だ。

 ちなみに、最初の候補はまたもやバタフライであったが、安易すぎるという理由で即却下されていた。


 それからは、3人共がレアスキルである種族系スキルであったため、エクスプローラ開始当初からそれほど苦も無く、順調に討伐を繰り返していた。


 種族系スキルの特徴として、スキルを使用するとデフォルトの身体能力が高まるだけでなく、個体強度レベルの上がり方も普通より早熟傾向にあった。


 3人は、瞬く間に有名エクスプローラになっていった。特に星羅の成長スピードは、他の2人と比較しても圧倒的に早かった。

 種族系スキルの中でも、〈鬼人〉というスキルは特に激レアである可能性が高い。


 ただ、このクランの真の姿はあまり知られてなかったため、また、星羅は1年遅れでエクスプローラになったこともあり、当時のCランク昇格の最年少記録を持ち、さらにリーダーである北斗に注目は集まっていた。

 だが、このクランの真のエースは間違いなく星羅だった。

 現にCランクに昇格したのは、3人の中では星羅が一番早かった。



 ◇◇◇◇◇



 ある日、国士無双3人組は、いつものように渋谷ゲートをくぐり、魔物討伐をしていた。


 順調に魔物を山ほど狩って、睡眠を取るためにテントを張って順番に就寝していた。

 今は南斗が眠りについていた。


 今回の討伐はすでに1週間が経っている。

 未踏の地に足を踏み入れたこともあり、かなり遠くへ来ていると思われる。


北斗:「この辺りも大丈夫だったな。」


星羅:「そうだね。私たちもだいぶんと強くなったよね?

 でも、食糧のこともあるし、そろそろ戻った方がいいかもね?」


北斗:「そうだな。今回はこれくらいにしてそろそろ戻るか。

 ん?星羅!何か来るぞ!」


 北斗は異様で大きな気配を感じる。

 すぐさま、南斗を起こすために声を掛けた。


北斗:「おい!ジュニア!起きろ!」


 南斗もその声にすぐに反応してテントから出て来た。


南斗:「どうしたよ。北斗?」


北斗:「向こうから異様な気配が近づいてくるぞ。今までにない圧倒的にヤバい気配だ。」


星羅:「確かにこれはヤバいね。

 2人とも今すぐスキル使って。」


 北斗は竜人に。南斗は虎人に。

 そして、言った星羅も鬼人になり、臨戦態勢を取った。3人に緊張が走る。


 そして、少し経つといつ来たのか分からない程に一瞬で目の前に3人の人間が現れた。

 ただし、普通の人間とは眼の色が違う。


ギュベル:「カニバル様。こいつですよ。」


カニバル:「ほぅ。確かに。素晴らしい。」


ジャビル:「絶滅したはずなんですけどねぇ。

 これは貴重ですよ。カニバル様。」


 現れたのは、この地域一帯を管理している魔人のカニバル子爵とその側近2名であった。

 来て早々3人は、星羅を物色していた。


北斗:「おい!お前たちは誰だ?」


カニバル:「ほぅ。面白いな。

 我らと言葉が通じるか。竜人よ。」


 種族系スキルを使用したことにより、魔人との言葉が通じる様になっているようだ。


北斗:「何を言ってる?」


ギュベル:「黙れ!雑魚!お前に用はない。」


南斗:「なら、何の用だ!」


ジャビル:「黙れと言ったはずだ。」


 ギュベルとジャビルは、一瞬で北斗と南斗の死角から一撃を喰らわしていた。

 圧倒的な実力差に北斗と南斗は為す術もなく、その場にうずくまった。

 2人は苦しくて血を吐きながら声を出すことも出来ないほど、もがき苦しんでいる。

 内臓と肋骨は間違いなくやられている。

 今までこれほどまでに差がある人間にあったことがない2人は、すでに殺されることを認識せざるを得ない状況に陥った。


星羅:「北斗!南斗!」


 星羅は、2人に近づこうとしたが、カニバルに遮られて、簡単に捕まってしまう。


カニバル:「ほぅ。美しい。

 絶滅したとされる鬼人がいたことも素晴らしいが、さらに美しい。

 これは、発見したスグシムには褒美をやらないとな。」


星羅:「あなたたち何を言ってるのよ!

 私たちを殺すつもりなの?

 一体、あなたたちは何?

 どこの国のエクスプローラなのよ?」


カニバル:「何だ?それは?

 そのエクスプローラというのは、お前たち人種のことをそう言うのか?」

 

星羅:「もう!話が通じないわね?

 あなたたちが強いのはわかったわ。

 私たちの持ってるモンスターコアを全部渡すから見逃してちょうだい!」


カニバル:「なるほど。お前たちはモンスターコアを集めているのか。

 人間たちが魔物を狩っているのはそういうことなんだな?

 人間ってのは暢気なものだな。

 真の目的も知らずにな。」


星羅:「さっきからなんなの?

 あなたたち人間じゃないの?」


カニバル:「黙れ!そんな下等な生き物と一緒にするんじゃない!」


 星羅は、カニバルの発する圧にそれ以上喋れなくなった。


カニバル:「ふっ。まあ、良い。

 少しだけ教えてあげましょうか。

 我は貴族魔人。カニバル子爵だよ。

 この魔物界で一番偉い人。責任者だな。」


 星羅は、魔人という存在を知らない。

 しかも、一番偉い?

 何が何だかわからない。


カニバル:「喋れなくなったか?

 お前を奪いに来たということだ。

 我の嫁にしてやろうと思ってな。」


 その言葉を聞いて、星羅は横に首を振った。


カニバル:「名誉なことだぞ。

 我はここで任務を終えれば、伯爵位に陞爵するだろう。そうなれば、我も上級貴族の仲間入りだ。お前もその嫁として優雅な暮らしが待っているぞ。嬉しいだろう。」


 星羅は、カニバルの圧に逆らい言葉を発した。


星羅:「嫌よ。お断りだわ。」


カニバル:「ほぅ。さすが鬼人だけはある。

 強気なところも良いな。

 ただな。お前がどう思おうと結果は変わらんぞ。逆らえば、死ぬだけだ。

 さあ、我らはキャッスルに戻るとするか。

 ギュベル!ジャビル!

 そこの竜人と虎人は始末しろ!」


 慌てて星羅は割って入る。


星羅:「待って!弟たちは殺さないで!」


カニバル:「ん?弟?そうか。なるほどな。

 では、お前はどうするんだ?」


 星羅は、北斗と南斗を見た。

 2人とも喋ることは出来ないが、眼は死んでいない。そして、眼で星羅に訴えている。


 俺たちのことは気にするな!


星羅:「わかったわよ!

 あなたの嫁になってあげるわよ!

 それでいいんでしょ?」


カニバル:「まあ、いいだろう。

 お前に死なれては困るからな。

 そこの弟たちは殺さないでおきましょう。

 では、戻ってお前を味わうとするか。

 はっはっは。」


 カニバルは、星羅を抱いたまま一瞬で消えていった。その側近も同じようにいつの間にか、何処かにいなくなっていた。


 これが北斗と南斗が、星羅を最後に見た風景であった。


 その後に北斗と南斗は、驚異の回復力を見せ、命からがら渋谷ゲートまで自力で到達していた。


 このままでは死ねない……。


 カニバル子爵。ギュベル。ジャビル。

 それにキャッスル。


 この情報だけが、この2人の知る、初めて会った魔人の手掛かりであった。


 それから2人は、国士無双クランを大きくし、未踏の地を探索するも、未だに魔人に関する新しい情報を掴むことは出来ないでいた。


 ◇◇◇◇◇

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