第112話 喜多川兄弟1

 ◇◇◇◇◇


 喜多川兄弟は、ロサンゼルスに拠点を置くブルーブラッズの臨時メンバーとして、ロサンゼルスゲートから異世界内に入り、ようやく青神門ブルーゴッドゲート青木迷宮城ブルーキャッスル)の前に来ていた。


北斗:「ジュニアよ。やっとここまで来たな。」


南斗:「ああ、そうだな。やっとだな。」


北斗:「ここで必ず手掛かりを見つけるぞ。」


南斗:「ああ、分かってるぜ、北斗。

 そのためにここまでいろいろやってきたんだからな。」


 国士無双を一時脱退してまでもアメリカに来た喜多川兄弟の目的とは一体何?



 ◇◇◇◇◇



 ……時は遡り、喜多川兄弟の生い立ちを少し振り返ってみることにする。



 彼らは、幼い頃に両親を事故で亡くし、親族の引き取り手もいなかったため、孤児院に入り、幼少期から孤児院で育った。

 そして、その頃は周りに舐められないようにひたすら強さだけを追い求めた。

 その結果、その地域では喧嘩では負け知らずの有名な不良になっていった。

 警察に厄介になることもしばしば、少年院にも厄介になるほど、喧嘩に明け暮れた学生時代を過ごしていた。



 その喜多川兄弟は、実は3人姉弟で彼らより年齢が一つ上の姉がいた。

 名前は喜多川星羅きたがわせいら

 その地域でも有名な美人であった。

 性格も良く、孤児院でもよく働き、みんなにも人気がある自慢の姉であった。

 喜多川兄弟は、何かにつけて誰にでも反抗していたのだが、唯一の身内である姉だけは絶対的に信頼していた。


 そして、星羅が中学を卒業する時に、3人で孤児院を出ていくことになる。

 孤児院は、中学を卒業と同時に出ていかなければならない決まりだった。


 星羅は、近くにアパートを借りて一人暮らしを始める際に、喜多川北斗、南斗の弟たちも一緒に連れていくことになる。

 これは、星羅が決めたことではなく、孤児院側からの要請によるものであった。

 もちろん、喜多川兄弟本人には言っていないが、星羅がいたから今まで追い出されずに済んでいただけであった。

 よって、星羅が出ていくタイミングで追い出したかったのだ。

 星羅は、もちろんその要請を受け入れ、弟たちを引き取った。

 ここから3人での生活が始まる。


 星羅は、中学卒業したばかりでも、成人女性に見られるほど大人びた見た目をしていたこともあり、15歳で水商売の世界に入った。

 いわゆるホステスである。

 違法であるが故に給料は通常よりも足元を見られて安かったのだが、普通に働くよりは収入は多かった。


 実は卒業した後すぐには、飲食店のアルバイトをしていたのだが、ある程度で見切りをつけて職を変えていた。

 身寄りも学歴もない星羅が3人の生活を守るためには、仕方のない選択であった。


 喜多川兄弟は、そんな頑張っている星羅を見ていたが、彼らにはどうすることもできなかった。ただ、生活は孤児院時代よりも貧しくなっていたが、3人だけで一緒に暮らすことが出来ることが嬉しかった。


 そんな親代わりの星羅の口癖が「中学だけはきちんと卒業しろ。」だったので、苦痛ではあったが、2人とも中学は何とか卒業した。


 そして、喜多川兄弟は、中学卒業と同時に、星羅の働く店が結構大きな店舗であったため、2人ともに黒服(従業員)として採用されて、そこで働き始める。


 喜多川星羅 16歳

 喜多川兄弟 15歳


 喜多川兄弟が、その店で働き出してから分かったことだが、店にいる間の姉の星羅に対する店側の扱いがものすごく酷い事を知る。


 違法であるが故に、何も言えない星羅に対して、他のホステスからの嫌がらせがあったり、客の行き過ぎた卑猥な行動にも、従業員は、他のホステスの場合には注意するところを、星羅の場合は放置していた。


 そして、むしろ星羅の指名が増えていくのだが、他のホステスはそれも気に入らない。

 さらに嫌がらせもエスカレートしていった。


 常連客も星羅には少々のことは許されると分かって、卑猥な行動がどんどんエスカレートしていく。

 胸を触られるなどは、日常茶飯事になっていた。


 それを知ってしまった北斗は、アパートで星羅に詰め寄った。


北斗:「星羅。俺はもう無理だ。」


星羅:「やめて、北斗。

 私が我慢すればいいだけだから。

 今はお金が必要なの。少しずつ、お金を貯めて、3人でこの街を出ていくの。

 あなたたちも働き出したから、少しずつだけど、お金は貯まって来てるのよ。

 ね。分かって。北斗。」


南斗:「やっぱ、世の中、金だよなぁ。

 金がないと舐められるんだよ。

 なぁ、北斗。わかってんだろ?」


北斗:「クソっ!」


 そして、その数日後にある事件が起きた。

 喜多川兄弟が傷害事件を起こしたのだった。



 ◇◇◇◇◇



 星羅が働く夜のお店にて。


常連客:「今日もキラちゃん(星羅の源氏名)を指名してあげたよ。

 いっぱいサービスしてよね。」


 この常連客は、とある不動産会社の社長さんで、もっぱら星羅に入れ込んでいる。

 週に3回は、この店に通い、その都度、星羅を指名している。

 しかも、個室のVIPルーム。

 超お高いのですけど……。


星羅:「はい。いつもありがとうございます。

 飲み物はいつものでいいですか?」


常連客:「今日はねぇ。奮発してドンペリ開けちゃう!ちょっと臨時収入が入ったからね。」


星羅:「うわー、スーさん!ありがとうございます!

 すいません!ドンペリお願いします!」


 部屋の外にいた黒服に注文を伝える。



常連客:「でさぁ。あれ、考えてくれた?」


星羅:「そうですね。

 もう少し考えさせてください。」


常連客:「キラちゃん。お金欲しいでしょ?

 破格の条件だと思うんだよね?

 月に50万だよ。

 住む部屋も準備してあげるからさぁ。」


 いわゆる愛人契約と言うやつである。


星羅:「いいお話なんですけど、なかなか踏ん切りが付かなくって。」


常連客:「そればっかじゃん。

 もうダメだよ。今日決めてくれる?

 もう、我慢汁の限界だよね?」


星羅:「スーさん。お気持ちはありがたいんですけど、私にはまだ早いです。

 何年か経って、まだスーさんがそう思ってくれたら、その時にまた誘ってください。」


常連客:「はぁ!?キラちゃん?

 こっちが優しくしてると思って、調子に乗ってるんじゃないの?

 これまで、お前にいくら使ったと思ってんの?バカなのか?」


星羅:「いえ、そんなつもりは……。」


常連客:「もういいよ。

 キラちゃんは今日で終わりね。」


 スーさんと言う常連客は、星羅との愛人契約をあっさりと諦めた。

 ただし、その欲望を無理矢理実行するために、今まさに星羅に襲い掛かり、さらに服を脱がせにかかった。


星羅:「スーさん!?やめてください!」


 星羅は必死に抵抗するも、男性の力には全く敵わない。


常連客:「一発ですぐ終わるから、大人しくしろって!」


星羅:「嫌ーーー!誰かーー!」


常連客:「ここには誰も来ないから!

 騒ぐんじゃないよ!」


 常連客は、星羅の口を手で塞いで、覆い被さっている。

 星羅は必死に抵抗するも、口が塞がれて、助けを呼ぶことができない。



 なぜ、誰も来ないの?



 外で待機している黒服も、星羅の叫び声は聞こえたが、完全に無視している。

 常連客に買収されている模様だ。


 ただ、その声を北斗は聞き逃さなかった。


 その場にすぐ駆けつけて、まず、部屋の外に待機している黒服に声を掛けた。


北斗:「主任!今、VIPルームの中で悲鳴がしたよな?」


黒服:「お前、勝手に来るなよ!

 ここは俺が見てるから、大丈夫だ。

 持ち場に戻れ!」


 黒服主任の言葉を無視して、北斗は構わずにVIPルームの扉を開けた。


 そして、服を剥がされて涙を流しながらもがく星羅の上に覆い被さっている客を見た瞬間に、北斗の頭の中が線が完全にブチ切れた。


北斗:「おい、お前!何してんだよ!ゴラ!」


 常連客を星羅から引っぺがし、壁に投げつけて、床に倒れたところに思いっきり腹を蹴り上げた。

 常連客は、飲み食いしたものを全て思いっきり吐き出している。

 周りはぐちゃぐちゃに。

 そして、部屋に乱入して止めに来た黒服の主任の顔面も容赦なく思いっきり殴った。

 その拳は主任の顎に綺麗に入ったようで一発で気絶し、その場に落ちた。


 腹を蹴り上げられ、もがき苦しむ常連客に馬乗りでマウントを取り、泣き叫ぶ客にも容赦なく、怒りの鉄拳を落としていく。


 そして、その後すぐに、大勢の黒服が騒ぎを聞きつけて乱入して来て、北斗を制止しようとするも、それらの黒服も逆に返り討ちにしていった。

 だが、入って来た南斗が、北斗以上に普段の鬱憤を晴らすかのように、黒服を殴って倒していく姿を見て、ようやく北斗は我に返った。


 北斗は、星羅に近づいて自分の上着を無言で渡した。

 星羅も、それを無言で受け取って、その上着を羽織った。

 南斗は、その様子を見て、事の経緯をなんとなく把握し、それ以上は何も言わなかった。


 その後、店の通報により、警察が駆けつけて、喜多川兄弟が傷害事件の加害者として連行されていった。

 スーさんと言う常連客は、救急車で最寄りの病院に搬送された。

 こいつは傷害事件の被害者ではあるが、同時に強姦未遂事件の加害者だ。

 その後に取り調べが待っていた。



 今回起こった強姦未遂事件と傷害事件。


 喜多川星羅は、被害者なのだが、喜多川家として見た場合に、被害者と加害者の両方の側面を持っており、いろいろ複雑な状況であったため、さまざまな関係で民事事件としては示談、刑事事件としては双方から被害届を提出しないことで決着した。


 これが、一連の事件の顛末である。


 ◇◇◇◇◇

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