第110話 横浜捜索依頼1
◇◇◇◇◇
日本探検者協会本部の4階にて。
協会副会長の野神紗英から、まずは横浜ゲートが完全に消滅したことが一斉放送にて通知された。
これは、ここ最近、世界でもすでに消滅したゲートが存在しており、時期的にゲート発生から約20年経過したことにより、徐々にそういう傾向が出ていることで、さほど特別な状況ではないことを付け加えた。
なお、事前に横浜ゲートは封鎖していたのだが、数名のエクスプローラが異世界内に取り残されており、これについては、協会で引き続き対応するとのこと。
さらに、川崎ブレイク内で消息不明になっていた天堂龍太郎が、渋谷ゲートから無事に帰還したことが、正式に発表された。
この件に捕捉して、ゲート内の異世界は地続きになっており、異なるゲート間での往来は可能であることが判明したことも公表されて、世界が新しい発見に驚愕した。
そもそも、日本以外の海外のゲート間はそれほど距離が密接ではなく、本来であれば一番距離の近い渋谷ー横浜間で発見されてもおかしくはなかったのだが、そこはエクスプローラ後進国であるが故に現在に至る。
この情報は、ある程度非難されるのを覚悟で公表に踏み切った。
そうでないと、今回の天堂の帰還について、辻褄が合わないからだ。
それでも、公表が想定より早まったことにより、期間的に天堂のスキルなしでは説明がつかないところだが、あえてそこは触れないという方針の元に対応するということだった。
その他に、天堂龍太郎はすでに日本探検者協会幹部となっているため、接触する場合には協会を通す様に厳重注意の通達も併せて行われた。もちろん、実際には海外の各国に向けての牽制の意味が強い。
なお、この件を境にエクスプローラ後進国の日本が、世界から注目を集めることになる。
◇◇◇◇◇
紗英は、一斉放送を終えて協会最上階の副会長室に戻って来ていた。
秘書:「戻って来て早々にすみません。
今回の公表に対して、すごい量の問い合わせが来てますよ。」
野神:「ふぅ。でしょうね……。
今は横浜ゲートの対応で忙しいから、終わってから返答すると返しておいて。」
実際に一仕事終えた紗英には、次の横浜ゲートの対応が残っている。
紗英は、一息ついてからスマホを取り出して、龍太郎に電話をかけた。
プルプルプルプル!ガチャ!
野神:「天堂くん。放送は見てた?」
龍太郎:『ああ、見てたぞ。
やっと解放された気分だよ。』
野神:「ふふふ、そうね。
あなたにとっては、そうかもしれないわね。
それで、横浜ゲートの件だけど、一度こちらに来てもらえるかしら?」
龍太郎:『ああ、分かった。今から行くよ。
久しぶりの外出だなぁ。』
野神:「ええ、そうね。すぐにお願いね。」
◇◇◇◇◇
クランハウスと協会本部は、同じ敷地で目と鼻の先にあるので、龍太郎はまもなく紗英のいる副会長室に到着した。
龍太郎:「野神さん。来たぞ。」
野神:「ありがとう。座って。
早速なんだけど、横浜ゲートが消滅したのが事前に封鎖してから3日しか経ってないから、中に残されたエクスプローラがいるのよ。
調べたところ、残されたのは4名。
天堂くんには、渋谷ゲートから入って、横浜ゲート跡地に向かって欲しいのよ。
あなたのスキルがあっての依頼よ。
あなたにしか出来ないと思ってるの。
残されたエクスプローラも不測の事態に精神的に追い込まれることになるし、食糧が底をつく可能性もあるから、そんなに時間は残されてないと考えてるの。
現に他の国でゲート消滅によって中に取り残されたエクスプローラが見つかった実績はないわ。
まあ、これは異世界内が地続きであるという情報が存在しなかったことにもよるんだけど。
今は、その事実が分かったことで、助かる命が、可能性があるのよ。
貴重なエクスプローラの命を助けるために協力して欲しいの。
引き受けてもらえるかしら?」
龍太郎:「そこまで言われなくても引き受けるつもりで来てるからな。大丈夫だぞ。
それで、その4人は誰かわかってるんだろ?」
野神:「天堂くん。ありがとう。
そう言ってくれると思ってたわ。
取り残された4人は……。」
紗英は、その4人の写真を龍太郎に見せた。
龍太郎:「ああ、分かった。こいつらか。
この4人を探して連れ戻すってことだな。
でも、この4人かぁ。
俺、ちょっと、苦手かも。」
野神:「ええ、確かに癖のあるパーティよね?
でも、遠慮する必要はないからね。
それと、これがあなたからもらったホログラムマップから研究所で導き出した横浜ゲートの位置よ。
彼女たちはこの辺りに残っている可能性が高いから、まずはそこに向かって欲しいの。」
龍太郎:「お!研究所すごいじゃん。
こういう位置関係なのかぁ。
でも、こっち方面はまだ行ったことがないからな。1から始めることになるな。
飛翔スキルで進んだとしても、結構かかりそうだな。」
野神:「それでも、他のエクスプローラよりは進むのが早いでしょ?
それに期待してるのよ。」
龍太郎:「ああ、そうだな。承知した。
じゃあ、行くとするか!」
野神:「ちょっと、待って!
もし、彼女たちを見つけたとして、どうやって渋谷ゲートまで帰るつもり?」
龍太郎:「そりゃもちろん、同伴転移で一瞬だぞ。見つけてしまえば楽勝だよ。」
野神:「そうね。そうすると、彼女たちにあなたのスキルがバレるわよ。」
龍太郎:「あ!そうだった!そうか……。
かと言って、4人と一緒に引き返すとなると、とんでもない時間がかかるよなぁ……。」
俺のスキルは墓場案件だ。
信頼できない奴に、秘密がバレることは避けたい。でもなぁ。どうしたらいいんだ?
野神:「でしょう?だからね。提案なんだけど、彼女たちを見つけたあとに例のソフィアを説得した監獄長スキルがあるでしょ?
それを使って、彼女たちを説得した後に連れ戻すことにしましょう。」
龍太郎:「監獄長スキル!?」
野神:「そうよ。リスクを避けるのよ。
あなたのスキルのことを知られると、大変なことになるわ。」
龍太郎:「それは、そうなんだけど……。
監獄長スキルってすごく特殊なんだよなぁ……。」
紗英は、監獄長スキルがどういうものか、詳細を知らない。
まさか、全裸で縛られて、尋問されるなんて、想像してないだろうな。
野神:「そうなの?
ソフィアは喜んで帰って行ったけど?
じゃあ、ここで私にかけてみてもらえる?
どんなものか、一度体験してみたいわ。」
龍太郎:「えーー!?野神さんに!?」
野神:「そうよ。危険なの?」
龍太郎:「いや、危険ではないけど……。」
龍太郎は、再度、紗英の顔と体を見た。
野神さんが全裸で縛られる?
龍太郎は、想像して生唾を飲んだ。ゴクッ。
野神:「じゃあ、お願い。
どんなものか、楽しみだわ。ふふふ。」
龍太郎:「……いやいや、無理!
お試しでやる様なもんじゃないから!
野神さんには無理!」
野神:「あらそう?残念。なら仕方ないわね。
その代わり、彼女たちには、きちんとそのスキルで説得するのよ。
後で後悔することのない様に、きっちりと約束させるのよ。分かった?」
龍太郎:「ああ、分かったよ。」
あれは、ソフィアさんだからって感じもするけど、今の俺のスキルの中では、それしかないんだよなぁ。
もう一つの危険スキルである洗脳スキルも今はもう合成しちゃって存在してないし。
野神:「もし、彼女たちと帰還することが出来たら、4人ともここに連れて来てね。
きちんと誓約書も書いてもらいますから。
それじゃあ、お願いね。」
◇◇◇◇◇
龍太郎は、協会本部の副会長室を出て、一旦クランハウスに戻った。
そして、異世界捜索の準備をしてから、カレンに電話した。
横浜ゲートで4人が取り残されて、その捜索を紗英から依頼されたことを説明したが、カレンはあまりそれに突っ込むこともなく、事情を理解した。
捜索は長い期間かかるはずだが、毎日夜は一度戻ってくることを約束した。
それは転移スキルがあるので出来る技だ。
細かい話は、その時に話せばいい。
電話での会話もそこそこに、龍太郎は一人で渋谷ゲートから異世界に潜って行った。
横浜ゲート跡地を目指して。
◇◇◇◇◇
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