第108話 応接室帰還

 ◇◇◇◇◇


 監獄から戻った二人、龍太郎とソフィアは、特別応接室のソファの上で意識を戻した。


 ふぅ。やっと戻って来た!

 これって結構な時間が経ってるよな?


 かなり濃厚な時間を過ごしたことにより、時間の感覚が相当に狂っている様だ。

 そして、龍太郎は戻って来たことを知らせるためにすぐに紗英に電話した。


 プルプル。ガチャ!


龍太郎:「あ!野神さん?終わったぞ。」


野神:『え?もう?嘘でしょ?

 まだ、応接室を出たばっかりなんだけど。』


 紗英は、スマホを片手に通話を継続しつつ、応接室に入って来て、すでに用のなくなった電話を切った。

 その後ろからついて来たカレンも驚いた様子で入って来た。


野神:「ソフィア、もう終わったの?」


ソフィア:「イエス。完全に終わりました。」

 

野神:「そう。それならいいんだけど。」


ソフィア:「ミスターテンドウ。

 あなたはとても素晴らしいボーイデス。

 また、会いに来ますよ。いいわね?」


 監獄にいる間は、そんなに気にならなかったのだが、応接室に戻って来てからソフィアの全裸を思い出して、ちょっと興奮した。

 あのダイナマイトボディは激ヤバ。


龍太郎:「あ、ああ。また来いよ。」


 龍太郎は、少し詰まりながら答えた。


 ソフィアの方も、かなり満足した様な清々しい表情で、特別応接室を後にして行った。

 早速、明日帰国する予定らしい。


 いやー、ソフィアさん。すごかったなぁ。

 監獄スキルかぁ。あんなことやこんなことをいろいろとしちゃったんだよなぁ。


 たらーり……。


カレン:「ちょっと、龍太郎!大丈夫?

 鼻血が出てるよ!何があったの?」



 ◇◇◇◇◇



 そのあと、部屋に残った紗英とカレンは、鼻にティッシュを詰めた間抜け顔の龍太郎からソフィアと応接室であったことを聞いていた。


龍太郎:「べ、別に大したことはなかったよ。

 ソフィアさんの監獄スキルで監獄に入れられて、尋問されそうになったんだけど、その前に俺が監獄長ってスキルを取って解放してたから、それを使ったら立場が逆転して何もされなかったんだよ。」


 龍太郎は、カレンが横にいるので、監獄の中であった出来事を詳細には告げなかった。

 龍太郎にしては何故か珍しく、言ってはいけない予感がしたのだった。


野神:「そう。それは良かったわ。

 その割には、彼女は満足して帰って行ったみたいだけどね。

 彼女は一体、何のために来たのかしら?」


龍太郎:「あ、それは聞いたぞ。

 俺のスキルの正体と王の資質を持つ者かどうかを確認しに来たらしいぞ。

 当然、俺は何も教えなかったけどな。」


野神:「へぇ、そういうことなのね。

 王の資質を持つ者ねぇ。

 それなら、天堂くんがその王の資質を持つ者ってことに勘付いているってことかもね。」


 王の資質を持つ者。


 初めてのワードにカレンの方が真っ先に食い付いた。


カレン:「え?龍太郎って王の資質を持つ者なんですか?

 超能王ってスキルだからですか?」


野神:「そうね。まだ分からないんだけどね。

 その可能性は十分にあるわ。

 説明の順番が逆になっちゃったわね。

 実は、今日来てもらった用件のもう一つは、それに関連してるのよ。

 二人には聞いて欲しいことがあってね。」


カレン:「はい、聞きますけど……。」


野神:「それじゃあ、今から二人とも副会長室に来てちょうだい。」



 ◇◇◇◇◇



 エレベータに乗って最上階の副会長室へ向かい、紗英の専属秘書には一時退席する様に指示をした。


 副会長室には、紗英、龍太郎、カレンの3人になった。


野神:「それじゃ、まずこれを見て。」


 紗英は、部屋に常設されている大型モニターに例の石板を表示した。


龍太郎:「野神さん。これ何?」


野神:「アメリカの異世界内で発見された石板よ。発見されたのは今年の9月11日ね。」


龍太郎:「それって俺の誕生日じゃん。

 それで俺になんか関係あんのか?」


野神:「そうね。最初のゲートが開いた日でもあるわよね。

 関係があるかは今のところ分からないけど。

 ただ、石板の文字は日本語で書かれていたのよ。これって意味がありそうじゃない?」


カレン:「遂に王が世界に降り立った。

 五つの神級迷宮を踏破せよ。

 さすれば希望の門は開かれる。

 ですか。」


野神:「そう。そして埋められた5色の石。

 色は、赤、青、黄、黒、白。

 中央の黄色い石が渋谷を指しているのよ。

 これを見て何か気づかない?」


カレン:「あ!迷宮城キャッスル?」


野神:「そうよね。石の色とキャッスルの色がピッタリ合ってるわ。

 天堂くんの話を聞いた時に真っ先にこの関連性に気付いたのよ。

 ということは、キャッスルの踏破を指していて、それをトリガーに希望の門を開くと何かが起こるってことよね?

 実はこの情報は、WEAから情報統制の指示が来ていてね。

 今は日本ではカーバンクルにだけ開示している情報なのよ。」


龍太郎:「へぇ。琴音姉さんたちか。」


野神:「ええ。彼女たちには、イエローキャッスル、こちらでは、イエローゴッドゲートと呼んでいるんだけど、所在地の調査をしてもらっているわ。

 ただし、何処にあるかも分からない状態で探索してもらってるから、まだ何の手掛かりも見つかってないんだけどね。」


 カーバンクルも未開の地にも行動範囲を広げて調査を継続しているのだが、全く情報に進展がなく、まさに雲を掴む状況が続いていた。


 それに反応した様に、カレンが先日気付いた点を話し始める。


カレン:「野神さん。それなら、その情報についての可能性があります。

 ほら、龍太郎。私の持ってるマップよ。」


龍太郎:「ホログラムマップのことか?

 それが何かあるのか?」


カレン:「うん。あのマップに黄色く光るやつがあったでしょ?」


龍太郎:「ああ、めっちゃ光ってるもんな。

 あ!そっか!黄色く光るやつ!?」


カレン:「野神さん。私の持ってるマップに、一箇所だけものすごく光ってる点があって、それが黄色く光るやつなんです。

 それって関係あるんじゃないかなって。」


野神:「え?そうなの!

 それはものすごく良い情報よ!夢咲さん!

 そのマップを見せてもらうことはできる?」


カレン:「マジックアイテムなので、ここではちょっと見せられないですね……。」


野神:「そうよね。確かにそうよね。」


 紗英は少し残念そうな顔をした。


龍太郎:「ああ、その写真ならあるけど。」


野神:「え?あるの?」


 紗英は少し嬉しそうな顔をした。


 そして、龍太郎は自分のスマホを取り出して、ホログラムマップの写真を紗英に見せた。


龍太郎:「ほら。これがマップでここに黄色く光るやつがあるだろ?」


 紗英は、龍太郎のスマホをぶん取ってマジマジとその写真を眺めている。


野神:「確かにあるわね。

 ちょっと小さくて、詳細は分からないけど。

 それにこのマップ、地形がものすごくリアルに表示されてるのね?

 夢咲さんがこれをドロップしたのね?

 これはすごいわ!

 天堂くん!この写真を私に送ってもらえる?」


龍太郎:「ああ、いいぞ。」


 龍太郎は、紗英からスマホを返してもらって、紗英のアドレスに写真を送った。


 紗英はすぐに受け取った写真を研究所の乃亜に送って、調査を依頼した。


野神:「二人とも、ありがとうね。

 この写真は乃亜に調べてもらうわ。」


龍太郎:「そっか。黄色く光るやつはイエローキャッスルだったんだな。

 それならブルーノに言っときゃ良かったよ。

 失敗したなぁ。」


野神:「例の魔人ね?

 イエローキャッスルに向かったのよね?」


龍太郎:「そう。因縁のヤツに会いに行ったんだよ。」


野神:「無事に帰ってきてくれるいいわね。

 天堂くんたちは、どうするの?」


龍太郎:「俺たちもいずれは行きたいと思ってるんだけど、イエローキャッスルには貴族魔人がいるらしいからな。

 俺たちじゃ、相手にならないと思うぞ。

 ブルーノと同じレベルだと全く歯が立たないと思う。

 あいつ、レベル99って言ってたから。」


野神:「レベル99!?

 魔人ってそんなにすごいの?」


龍太郎:「だよなぁ……?

 ダンジョンを素手で壊すくらいだから……。

 野神さん。エクスプローラのレベルって上位だとどれくらいか知ってる?」


野神:「そうねぇ。全て把握しているわけじゃないけど、上位でもレベル50もあれば、世界でもトップクラスなんじゃないかしら?

 日本だと、そこまでのレベルはいないと思うわ。伝説のお千代さんでも推定レベルは30〜40って噂されてるみたいだし。」


龍太郎:「そっか。やっぱ、まだまだだな。

 俺たちはレベル上げに専念するよ。」


野神:「そうね。それがいいと思うわ。

 カーバンクルにも、調査方針を改めて知らせることにするわ。」


 そして、そのあと少し話をしたのち、龍太郎、カレンとの秘密の話は終了した。


 全てを知らせる義理はないわよね?

 どうやってこの情報を使うか?

 もう少しこちらで調査してからアメリカと話をすることにしましょうかね。


 紗英は、この情報をアメリカにも開示するべきかを悩んだが、やはり現状は様子見にすることにした。



 ◇◇◇◇◇



 翌日、AEA本部会長室にて。


 ソフィアが帰国してAEA本部に来ていた。

 そして、ノックもせずにいきなり会長室に入って来た。


 バタン!


ソフィア:「ハワード。帰って来たわよん。」


ハワード:「おー。ソフィアか。

 無事に戻って来た様だな。」


 ハワードは、すぐに会長室にいた秘書に出て行く様に指示をした。

 ハワードは、なぜかは分からないがソフィアと会う時には必ず人払いをする。



ハワード:「それで、ミスターテンドウのスキルはどうだった?」


ソフィア:「スキルは分からなかったわ。」


ハワード:「はぁ!?分からなかっただと?」


ソフィア:「そうよ。」


ハワード:「なら、その他の情報は?」


ソフィア:「彼はすごいわよ!

 たぶん、彼がジャパンのキングね。

 以上よ。」


ハワード:「だから、他の情報は?」


ソフィア:「ハワード……。

 あなた、口の聞き方に注意しなさいね。

 情報はそれだけよ。私はこれからも定期的にジャパンに行くことにしたわ。

 彼に用があるときは、必ず私を通しなさい。

 分かったわね?」


ハワード:「おい。一体、何があったんだ?」


ソフィア:「だから、彼は素晴らしいってことよ。まさにキングよ。」


ハワード:「全く意味が分からん。」


ソフィア:「一つ忠告しておくわよ。

 彼と勝手に接触したら、タダでは済まないからね。分かったわね?」


ハワード:「いや。そういうわけには……。」


ソフィア:「分かったわね!」


ハワード:「イエス……。」


 ハワードとソフィアの関係は、複雑な事情がありそうだ。

 かくして、幸運なことに今後AEAは直接、龍太郎に手が出せなくなるということに。


 ソフィア、恐るべし。


 ◇◇◇◇◇

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