第104話 事情聴取

 ◇◇◇◇◇


 乃亜と紗英は、すでに龍太郎が異常であることは認識しているが、さらに認識を改めることになる。

 では、龍太郎の取り調べ開始!


龍太郎:「昨日、こっちに戻ってくる前に販売ショップに寄って来たんだよ。

 それで、店は閉まってたんだけど、ちょっと入っちゃった。てへ!

 でも、何も盗んでないぞ。

 本当にあれを見に行っただけだぞ。

 なかなか、あの内側に入れないし、ちょっと触ってみたかったんだよ。

 ほんの出来心です。すいませんでした!」


 龍太郎は、無断で販売ショップに入ったこと、そして無断で大剣を体験したことを頭を下げて謝った。


三上:「それじゃないのよね。

 私が聞きたいのは、どうやってゲート内で写真が撮れるのか?って意味なのよ。」


龍太郎:「ああ、そっちか!……そっち!?」


三上:「そう。そっちよ。」


 これはマズい。非常にマズい!

 三上さんが俺をロックオンしてる!

 アイちゃんのことは、まだ誰にも言ってないし、アイちゃんからも口止めされている。

 これは困った……。


龍太郎:『アイちゃん!どうする?』


AI:〈どうする?じゃないよ!

 まあ、仕方ないから、新しいスキルって言っておけば?〉


龍太郎:『おー!なるほど!ナイス!』


三上:「天堂くん。どうなの?」


龍太郎:「ああ、新しいスキルだ。

 俺のスキルのことは聞いてるんだろ?」


三上:「ええ、聞いてるわ。

 新しいスキルなのね?」


龍太郎:「ああ、そうだ。」


 どうなる?バレてないよな?


三上:「天堂くん!素晴らしいわ!

 それっていつでもどこでも撮れるのかしら?

 回数に制限とかあるの?」


 うわ!三上さんの食いつきがエグい。


龍太郎:「たぶん。いつでもどこでもだ。

 回数に制限はないぞ。」


三上:「ワオ!素敵だわ。エクセレント!

 これは未だかつてないすごいスキルよ!

 天堂くん。次からゲート内の写真を撮って来てもらえる?

 謝礼はいくらでも出すわ。

 他には持ってないの?」


龍太郎:「今はないな。

 わかったよ。次から撮ってくるよ。」


三上:「ああ!ありがとう!

 これは、ものすごいことになるわね!」


 三上さんの興奮が半端ないぞ!

 まあ、研究所の所長だもんな。


龍太郎:「スキルのことは墓場案件だからな。

 絶対に言っちゃダメだぞ!」


三上:「ええ。わかってるわよ。

 言われなくても、大丈夫よ。

 外に出せる情報じゃないからね。」


 三上さんって、見た目でクールな性格かと思ってたけど、そうでもないみたいだな。

 めっちゃ、喜んでるぞ。


野神:「乃亜、もういいかしら?

 じゃあ、本題に移るわよ。

 で、天堂くん。川崎ブレイクのゲート内の話を聞きたいんだけど。」


龍太郎:「ああ、そうだったな!

 それより、大剣はもらえるのか?」


野神:「欲しい?」


龍太郎:「もちろん、欲しい!」


野神「ファイナルアンサー?」


龍太郎:「ファイナルアンサー!

 って、これなんだよ!」


 え?なんだ?この沈黙は??


野神:「……………………正解!」


龍太郎:「ふぅ。ビックリした〜!」


野神:「冗談よ。連絡しておくわ。

 今度、販売ショップに行った時に受け取ってちょうだい。

 まさか、適性者が現れるなんてね。」


龍太郎:「よっしゃー!大剣二刀流じゃー!」


野神:「ふふふ。良かったわ。

 で、ゲート内の状況はどうだったの?」


龍太郎:「ああ、それな……。」


 昨日、アイちゃんと相談して、野神さんには全部話すということにしている。

 いまさら隠し事をして、後で後悔するくらいなら、全部隠さず話したほうがいい。

 アイちゃんのこと以外の情報だが。

 それに、野神さんは信用出来る。

 

 龍太郎は、ブルーノに聞いた話も含めて、あったことを全て包み隠さずに話した。


 初めて、龍太郎の口から話を聞く乃亜は、先ほどにも増して、さらに興奮している。



龍太郎:「それで、ブルーノがそのイエローキャッスルに向かったんだよ。

 そのあと、俺は転移スキルで渋谷ゲートに転移して脱出したって感じだ。

 まあ、これで話は全部だな。」


三上:「ふぅ。息をするのを忘れてたわ。

 ものすごい情報よ。これは。

 そんな仕組みになってたのね。

 ダンジョンブレイクの経験があるAEAやその他の国ならある程度の情報は持ってるかも知れないけど、魔人の封印の情報については、持っていないと考えられるわね。」


野神:「確かにね。それがあったから、あの早期収束に繋がったのね。」


三上:「天堂くん。その持ち帰った魔生石を見せてくれないかしら?」


龍太郎:「それは無理みたい。

 ここでは取り出せないな。」


三上:「むー。そうなのね。」


龍太郎:「あ!そうだ。

 魔人のコアなら取り出せるぞ。

 これなんだけど。」


 龍太郎は、こぶし大のコアを机の上に置いて見せた。


三上:「えー?何これ!!

 この大きさと濃さは!いいわ!」


 乃亜は、すぐさま手に取って眺めている。


野神:「すごいわね。」


三上:「ええ。すっごく大きいわ。

 この光具合もたまらないわね。

 天堂くん!当然、これは買取よね!?」


龍太郎:「ああ、そうしてもらえるとありがたい。」


三上:「ふふふ。素晴らしいわ!

 少し査定に時間がかかるけど大丈夫よね?

 これは預かっていきます!」


龍太郎:「ああ、大丈夫だ。」


 乃亜は、すぐさまコアをカバンに仕舞った。

 もう、私のものよ!と言わんばかりに。



野神:「天堂くん。それで話の中で出て来たイエローキャッスルについてなんだけど、全部で5色に区分されたキャッスルがあるって言ったわよね?」


龍太郎:「ブルーノから聞いた話だけどな。」


 紗英は、例の石板との関連性があると考えている。


野神:「それについては、こちらの情報で似たような情報を入手しているわ。

 もっとも、関連性については想定になるけどね。詳しくはここでは話せないから、日を改めて協会に来てもらえるかしら?」


龍太郎:「ん?ここじゃダメなのか?」


野神:「そうね。今のところは、あまり公にしたくないのよ。夢咲さんも一緒に来て。」


カレン:「あ、私だけですか?」


野神:「そう。その前に天堂くんと夢咲さんにはお知らせすることがあるの。」


 野神は、また違う書類を龍太郎たちの目の前に置いた。これも契約書みたいだが。


野神:「天堂くんと夢咲さんには、協会に所属してもらいます。

 この書類は、協会の役員へ任命する旨が書かれているのよ。」


龍太郎:「なんで?」


 いきなり、協会の所属でさらに役員ってどういうこと?


カレン:「理由を教えてもらえますか?」


野神:「これは、我々、日本探検者協会の思惑が強いんだけれど、同時に天堂くんのためでもあると考えているのよ。

 実は、川崎ブレイクの映像を見た各国の協会が天堂くんに目をつけたみたいなの。

 まあ、あの異常な行動を見れば、そうなるのも必然と言えるわね。」


カレン:「ああ、そういうことですか。

 確かに、あれを見たら注目されてもおかしくないですよね。

 でも、それと協会に所属することとどういった関係があるんですか?」


龍太郎:「そうそう。なんで?」


野神:「それはね。各国の協会、あるいは国そのものがいろんな手を使って天堂くんに接触しようとしてくることが考えられるの。

 エクスプローラは、基本的には自由に活動を制限されない立場にある。

 そして、本人の意思でどの国に所属することも出来る。

 要するに引き抜きを防止するためと考えてもらっていいわ。

 もちろん、強制的に天堂くんを縛ることは出来ないんだけれど、日本以外の国で天堂くんの扱いがどうなるかは保証できないと思っているの。実際に謎が多いのは間違いないからね。

 最悪の場合、実験に活用されるってこともあり得るんじゃないかしら?

 そうなれば、墓場案件なんて言ってられないわよ。」


龍太郎:「ひえー!それは困る!

 一番恐れてたモルモットじゃんかよ。

 わかった。所属する。日本がいい。」


野神:「じゃあ、そこにサインしてくれる?」


カレン:「天堂くんのことは、それが理由として、私は何故ですか?」


龍太郎:「夢咲さんもマークされてる?」


 龍太郎は、カレンの秘密も知っているので、そういうことかと理解していたが、どうやって知ったんだろうという疑問は残る。


野神:「いえ。まったく。」


 違うんかい!


野神:「夢咲さんには、天堂くんの相談役として専属秘書のポジションに就いてもらうわ。

 天堂くんのサポートをしてもらう形ね。

 と言っても、天堂くんも夢咲さんも非常勤という形を取っているから、たまに来てもらえればいいようになってますけどね。」


カレン:「天堂くんの秘書で相談役ですか。

 わかりました。お受けします。

 それで天堂くんのポジションって?」


 カレンは、もう一度、机に置かれた書類に目を通すと……。


カレン:「え?副会長!?」


龍太郎:「副会長!?俺が?

 え?もうサインしちゃったよ。」


 アイちゃんが、問題ないって言うからサインしたんだけど、副会長?大丈夫?


野神:「そうよ。念には念を入れてね。

 天堂くんは、協会内では私と乃亜とは同格というポジションよ。

 要職の副会長なら、もし何かあったら国際問題に発展しますからね。

 ちょっとやそっちじゃあ、手が出せないと思うわよ。」


カレン:「すごいですね。そこまでやるんですね。わかりました。

 天堂くんの相談役としてサポートします。

 けど、副会長の任命って副会長の野神さんじゃないですよね?

 工藤さんも知ってるってことですか?」


野神:「もちろん。天堂くんは、今や世界を揺るがす存在になってますからね。

 工藤が任命した形になってるわよ。

 協会は全面サポートの体制ですよ。」


華那:「わー!やっぱり、先生ってすごい人だったんだね。」

玲奈:「私たちって運が良かったよね。」


 カレンも書類にサインをして、これで龍太郎とカレンは協会の非常勤役員となった。

 龍太郎は、日本探検者協会副会長。

 そして、カレンは、その副会長専属秘書。


野神:「はい、これで完了ね。

 二人ともよろしくね。

 と言っても、たまに呼ぶからその時に話をさせてちょうだい。

 それ以外は今のまま、エクスプローラとして活動を継続してね。

 天堂くんは、協会に来る以外は、少しの間、クランハウス待機を継続よ。」


龍太郎:「ああ、わかってる。

 1週間くらいだろ?」


野神:「そうね。それはまた連絡するわ。

 長引くかも知れないから、ここでの生活が出来るようにしておいた方がいいと思うわ。

 その辺りも専属秘書さんよろしくね。」


カレン:「え?あ、はい。」


野神:「それじゃあ、私たちはこの辺で失礼するわね。今日はありがとう。」


 紗英と乃亜は、クランハウスを出て行った。

 乃亜は、今日得た情報とバカでかいコアを手にして、ものすごく喜んで帰って行った。


 その夜、ネット放送で天堂龍太郎が本人が行方不明のまま、協会副会長に就任したことが、ニュースとして発表された。

 ネット上では、謎の人として、アンチも含めて天堂ブームが巻き起こっていた。

 超底辺エクスプローラだった数ヶ月前では考えられないことが起こっていた。


 そして、そのニュースを見たのか、久しぶりに家から電話があった。

 どうも、実家にも報道の人が押し寄せているらしい。申し訳ない。

 全然、電話していないことを怒られたが、最後は体に気をつけて、頑張れと言われた。


 久しぶりに声を聞けてなんだか良かった。

 臨時収入があったし、少し振り込んでおこうと思った。ありがとうございます。


 でも、俺って行方不明なんだよな?


 ◇◇◇◇◇

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