第102話 川崎ブレイク終結

 ◇◇◇◇◇


 ブルーノを見送った後、龍太郎は転移スキルで、渋谷ゲート内の販売ショップ前にいた。


龍太郎:『アイちゃん!龍次郎!

 ちょっとショップに寄ってくぞ!』


AI:〈今日は店開いてないよ?〉


龍太郎:『ふふふ。だからじゃん!

 こんな機会、滅多にないだろ?』


 龍太郎は悪い顔をして笑みを浮かべた。


 さらに龍太郎は、転移でショップ内に潜入。


AI:〈ちょっと!何するの?泥棒!〉


龍太郎:『待てって!見るだけだよ。』


 そして、いつもガラス越しに眺めているだけの非売品の大剣の裏側に行って、開けてはいけない扉も開けて、その内側に入った。


 でも、これって鍵もかかってないんだよな。

 防犯はどうなってるんだ?という疑問。


 そして、触ってみたい衝動にかられて、ついに間近に近づいた感動!その時が来た〜!


 うー!これこれ!吸い込まれる〜!


 非売品の大剣は、2本でペアになっている。

 それがクロスの状態で台に飾られていた。

 その1本は金を基調とした装飾が施されており、もう1本は銀を基調としたものだった。

 その大剣から醸し出す雰囲気は、まさに超レア物だと分かる神々しさがあった。


 龍太郎は、まずは右手で金の大剣の柄を握って持ち上げた。


 軽い!これってめっちゃ軽いじゃん!


 周りを気にせずに金の大剣をブンブンと振り回している。


 調子に乗って、左手で銀の大剣の柄を握って、それもブンブン振り回す。


 うおー!めっちゃいい!カッコいい!

 フェザー!これってフェザー!


AI:〈その辺を壊さないでよ!〉


龍太郎:『大丈夫だって!

 うわー!これ、めっちゃ欲しい!

 これって試験をパスすれば貰えるんだよな!

 早く、Aランクにならないとな!』


 龍太郎は、2本の大剣を振り翳し、何やらポーズを取っていた。はしゃぎ過ぎ!


龍太郎:『なぁ、アイちゃん!

 これって記念に写真撮れない?』


AI:〈龍次郎の視覚を通してならいけるよ!〉


龍太郎:『おー、それいい!

 龍次郎!頼む!これで撮ってくれ!』


 龍次郎は、龍太郎の正面に立ち、瞬きを一つ。パシャ!


AI:〈いけたよ!そろそろ出て来なよ!〉


龍太郎:『おぅ。満喫した〜!

 アイちゃん!今の写真、スマホに送っといて!

 まずは、ランクアップ頑張ろ!』


 龍太郎、満足。転移でゲートへ。


 そして、ゲートから現世界に移動。



 ◇◇◇◇◇



 龍太郎、寝不足だがアドレナリン効果で目がバキバキ。もうすでに真夜中なんですけどね。


龍太郎:『ふぅ。やっと渋谷に戻って来たな!

 ちょっと、クランハウスに寄っておくか。』


 ヴィーン。ガチャ!


 龍太郎がクランハウスに入ると、1階にはカレンが一人でソファに座っていた。


カレン:「天堂くん!?」


 カレンは驚いて大きな声をあげた。


龍太郎:「ああ、やっと終わったよ。

 そっちも無事に終わったんだな。」


カレン:「うぅ。良かった〜!」


 カレンは、ソファから飛び上がって、龍太郎に抱きついた。カレンの目にはうっすら涙が。


 抱きつかれた龍太郎は、ドキドキしながら棒立ち状態になっていた。

 同伴転移でも、同じ様な感じで抱き付かれるのだが、やはりまだ耐性はない。

 さらに言うと、今、カレンはノーブラ状態だ。これは流石にちょっとヤバい!


 動揺がバレない様に冷静を装う龍太郎。


カレン:「ゲートが消えちゃったから。

 でも、信じてたよ。絶対に戻ってくるって。

 本当に良かった!」


龍太郎:「ああ、そうだったな。

 俺もゲートが消えた時は流石にヤバいと思ったんだよ。でも、ゲートが繋がっててさ。転移スキルが使えた。それで渋谷ゲートから戻って来れた。」


カレン:「え?そうなの?」


龍太郎:「ああ。本当なんだ。」


 物音を聞き付けた他のメンバーも自分の部屋から出て、1階に降りて来た。


華那:「え!?先生?」


 そして、龍太郎を見つけて、一様に驚き、同じ様な反応で抱きついて来た!

 美紅以外ですけど。

 もう、これはヤバいことになって来た!

 すでにみんなは、シャワーを浴びて部屋着に着替えている。

 ということは、全員がノーブラ状態だ。


 なんかわからんけど、ちょっと幸せ。


 女性陣にもみくちゃにされている龍太郎の下半身が暴走寸前だ!


 バレない様に冷静を装う龍太郎パート2。


 そこに電話がかかって来た。

 こんな時間に?


野神:『天堂くん?』


龍太郎:「ああ、戻って来た。

 どうした?こんな時間に?」


野神:『どうした?じゃないでしょ!

 こっちのセリフだわ。ビックリしたわよ。

 あなたが渋谷ゲートから戻って来たのを確認したのよ。

 それより、無事で良かったわ。

 で、どうやって戻って来たの?』


龍太郎:「ああ、野神さんには話すことがあるから会って話すよ。明日でいいか?」


野神:『ええ、ちょうど良かったわ。

 私からも話したいことがあるから、私がそちらに行くわ。

 明日、何時に行けばいい?』


龍太郎:「じゃあ……昼の12時でいいか?」


野神:『分かったわ。明日の12時ね。

 あと、今はクランハウスにいるわよね?』


龍太郎:「ああ、着いたところだからな。」


野神:『じゃあ、当分の間は家に帰らない様にして。あなたがこんなに早く帰ってきたって知られると結構厄介なことになりそうだから。

 こちらも、天堂くんが戻ったことは公には伏せておくつもりよ。』


龍太郎:「ん?あー!なるほど。そうだな。

 話したいことも関係してる。」


 川崎ブレイクのゲートが閉じて、龍太郎が取り残された内容は、報道により未だニュースとして取り上げられており、ネット上でもトレンドとして上がっているほど注目されていた。


 ただ、紗英の心配は、この内容が日本以外の国の協会に知られることとなり、なんやかんやと疑いをかけられて、情報の開示要求が殺到することだった。

 紗英で抑えられることには限界があり、下手をすれば、龍太郎の安全そのものに影響が出る恐れがあると考えていた。

 

野神:『それに一応言っとくけど、あなた、たぶん、今帰ってもすんなりとは家に入れないわよ。』


龍太郎:「どういうこと?」


野神:『あなたのアパートの周りはメディアだらけよ。あとで、どこかのネット放送を見てみなさい。』


龍太郎:「嘘っ!?」


野神:『とにかく、今から最低1週間はクランハウスで寝泊まりすること。いいわね?』


龍太郎:「ああ、分かった。」


野神:『じゃあ、明日お願いね。』


 電話を切った龍太郎。

 明日、ここに紗英が来ることを伝えて、みんなでネット放送を確認する。


 そこには、今現在の川崎駅周辺の様子が映し出されるも、その情景は戦争のあとの様に無茶苦茶になっている。

 現在も復旧作業は継続していた。


龍太郎:「うわー。すごい状況だな?」


カレン:「うん。もう原型がない状態だよ。」


龍太郎:「大変だったんだな。」


カレン:「これでも早かったんだって。

 でも、復旧には1ヶ月はかかるらしいよ。」


 各国のダンジョンブレイクの場合、もっと広範囲に被害が広がるらしく、悲惨な状況ではあるが、被害は小さいと報道では伝えている。


 ネット放送のチャンネルを変えると、さっき言っていた龍太郎のアパートが映し出された。


龍太郎:「マジかよ!うちじゃん?」


 放送のテロップには、『行方不明の天堂龍太郎のアパート前から中継』と書かれている。


 そのボロアパートの前には、多くのメディア関係者が集まっている様子が伺える。

 そして、そのアパートの住人だという人がインタビューに答えている。


龍太郎:「この人、誰?」


 この人曰く、毎日、スクーターで出かけるのは見ていて、外見からエクスプローラとは知っていたが、あまり気にしていなかったらしい。

 会話もしたことがないので、よく分からないが、夢咲カレンが来たことがあったので、驚いた。という様なことを言っている。


 そこから、夢咲カレンとの関係は?

 みたいな話へと討論が発展している。


 結論は、クランメンバーの一人で、それ以上の関係はない。という予想結果だった。


龍太郎:「めちゃくちゃ言ってるな!

 本当だけど、だいぶ失礼じゃないか?」


カレン:「天堂くんの評価って、両極端だよね?」


美紅:「カレンさんとの関係って話題が上がるだけでも、カレンさんに失礼だと思う。」


龍太郎:「そっちかよ!?

 でも、この様子じゃ、当分帰れないってのは本当だな。」


華那:「先生、ここに泊まるんだよね?」


龍太郎:「ああ、悪いけど、ここのソファ貸してくれ。野神さんから1週間はここに居ろって言われたから。」


華那:「うん、もちろん。

 ちょっと、ドキドキするね。」


美紅:「天堂さん。絶対、上に来ないでよ!」


龍太郎:「心配しなくても、いかんわ!」


 4人組は、別に来てもいいんだけど、と思いながらも恥ずかしいので黙っていた。


 カレンも龍太郎が泊まることは嬉しそうだ。


 一通りの会話が終わると、みんな安心したのか、就寝のために各自の部屋に戻って行った。

 龍太郎もシャワーを浴びて、ソファに寝っ転がるとそのまま寝落ちした。


 前日の夕方に始まったネオ・ダイアモンズにとっての川崎ブレイクはここに終結した……。


 ◇◇◇◇◇

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