第101話 川崎ブレイク6

 ◇◇◇◇◇


 川崎ブレイクゲート内跡地にて。


 消滅してしまったゲートを前に焦る龍太郎。

 片や、ブルーノは、至って冷静だ。


龍太郎:『どうやって戻ればいいんだよ!

 ヤベェ!やっちまった〜!

 もう!どうすんだよ!?』


 髪の毛をぐちゃぐちゃ掻き回している。


ブルーノ:『だから、なぜ慌てておる。

 主ならなんとかなるだろうよ。』


龍太郎:『いやいや、簡単に言うなよ!

 俺は戻り方はまったく知らないぞ!

 ブルーノは何か知ってるのか?』


ブルーノ:『主には転移スキルがあるだろう。

 いつも使っているゲートまで転移すれば、問題ないではないか?』


龍太郎:『え?嘘!嘘!そうなのか?』


 龍太郎は、あまりに簡単な答えに逆に驚愕!

 ただ、単純な性格なのか、ブルーノの言う通りに早速、試しに転移スキルを使ってみた。


 転移!


 すると、なんてこったい!

 龍太郎には見慣れた風景が広がった。

 目の前には、渋谷ゲート内にあるいつもの販売ショップがあった。

 今日は、ショップは閉まっている様だが。



龍太郎:「おーーーー!マジか!?

 これって一体どういうこと?」


 ダンジョンゲート発生から20年。

 実は現在でも、別のゲートから入ったエクスプローラ同士が遭遇することがなかったことにより、研究者の間では、ゲート内は個別の異世界に繋がっているという説が有力視されており、これが一般的な定説になっていた。


 しかも龍太郎の転移スキルは、現世界と異世界の間では、転移できないことはすでに確認している。


龍太郎:『アイちゃん!ちょっと!』


AI:〈ん?マスター。何?〉


龍太郎:『転移で戻ってこれちゃったよ。

 これって、異なる異世界でも異世界間転移は可能ってことなのかなぁ?』


AI:〈うーん。そうだね。

 そういうことなんじゃない?〉


龍太郎:『それってアイちゃんは知らなかったってこと?

 もう、肝心なこと知らないよなぁ。』


AI:〈マスター。僕もなんでも知ってるわけじゃないからね!

 ブルーノに聞いてみれば?〉


 AIなのに、ちょっと拗ねてるアイちゃん。


龍太郎:『ああ、そうだな!

 ブルーノは何か知ってるのかも。」


 転移!


 龍太郎は、さっきまでいた川崎ブレイク跡地まで戻って来ていた。



龍太郎:『ブルーノ。お前の言う通りだった。

 でも、なんで知ってたんだ?』


ブルーノ:『そうか。それは良かったな。

 知っていたも何も、我は転移スキルを使うのを見ていたからな。当然であろう。』


龍太郎:『いや、そうじゃなくって!

 なんで、渋谷ゲートに転移出来るのを知ってたんだって意味だよ。』


ブルーノ:『主よ。言っている意味がまったく分からないのだが……。』


AI:〈マスター。ちゃんと説明しないと。

 ブルーノ。実はね……。〉


 龍太郎に代わって、アイちゃんが疑問点を整理してブルーノに説明した。

 その説明を聞いて、ブルーノはようやく龍太郎の言っている意味を把握出来た様だった。


ブルーノ:『ほぅ。なるほどな。

 そういうことか。それなら納得だ。

 だが、そもそも、その認識が間違っておる。

 境界門が複数あろうと、その先は同一の魔物界に繋がっておるのだ。

 要するにだ。魔物界と人間界はそれぞれ一つの対応する星が複数の境界門で繋がってるということだな。

 なぜ、その様な変な誤解が生じたのかは理解できんがな。』


龍太郎:『へぇ。そういうことなのか!

 それなら、転移できるよな。

 同じ異世界だったんだな。

 まあ、帰り方が分かって良かったよ。』


AI:〈そうだね。今までゲート間で干渉がなかったのが不思議だけど、ゲート発生の場所がランダムであると定義すれば、あり得るよね。

 これは新しい発見だね。〉


龍太郎:『そうだな。

 帰ったら、野神さんにも教えてやるか。

 研究者も知らない情報だからな。

 驚くぞ。ふふふ。』


ブルーノ:『主。アイ殿。何かまだ少し誤解がある様だ。この魔物界と主の人間界、地球だったか、それを繋いでいる境界門は、同じ座標で繋がっているのだぞ。

 そこを理解しておるのか?』


AI:〈え?それが本当だとすると、辻褄が合わないんだけど。〉


ブルーノ:『辻褄などはどうでも良い。

 現にそうなのだからな。

 考えられるのは、それぞれの星の大きさが違うというところか。

 地球という星が、極端に小さいということかもしれんな。』


AI:〈あー!そういうことね。〉


龍太郎:『ん?地球はデカいぞ。』


AI:〈星レベルで言えばってことだよ。

 確かに地球は小さくないけど、そう仮定すれば考えられなくもないよ。〉


ブルーノ:『まあ、仮定ではあるがな。』


龍太郎:『うーん。そうすると、ここがめちゃくちゃデカいってことだな。』


AI:〈その理解で合ってるよ。〉


龍太郎:『まあ、いいや。

 ここが繋がってるってことで、今度、同じことになっても安心だな。

 ん?ブルーノ。どうした?』


ブルーノ:『主よ。魔人の気配が近づいて来た様だ。』


龍太郎:『お!やっと来たか。

 ブルーノの以外の魔人は初めてだな。』


 魔人と思われる人物が警戒しながら近づいて来た。見た目は普通の人と変わらない。ただし、目の白目が黒いので一目で魔人とわかる。


ブルーノ:『主はここで待っていてくれ。

 我が行って、話をしてくる。』


龍太郎:『ああ、分かった。』



 ブルーノが、一瞬で平民魔人の目の前に現れた。平民魔人は驚き、身構えた。


 そこでブルーノと魔人の会話が始まったのだが、龍太郎には念話を通してブルーノたちの会話が聞こえて来た。


ブルーノ:『驚かなくて良い。

 我はブルーノ・フォン・アインバッハ子爵だ。お前の名は何と申す?』


魔人:『はぁ!?貴族?

 なぜ管理者ではない貴族がここにいる?』


ブルーノ:『ほぅ。お前は管理者5人を全員把握しているのか?


魔人:『当たり前だ。質問に答えろ!』


 目の前にいる魔人は、ブルーノが貴族だということを疑っていた。

 それもそのはず、管理者以外の貴族が魔物界に来ることなど、滅多にないことだからだ。


ブルーノ:『お前、自分の立場がわかってない様だな。』


 言うや否や、ブルーノは魔人のこめかみを片手で掴み、軽々と持ち上げた。

 魔人は抵抗して、ブルーノに対して拳や蹴りを全力でぶつけるが、まったく効いている様子がない。蚊に刺されたほども感じない。

 貴族ブルーノ、まさに恐るべし。


魔人:『分かった!待ってくれ!

 疑って悪かった!』


 平民魔人は、圧倒的な力の差に察した。

 これは、本当に貴族なのだと。


ブルーノ:『最初からそうしておけ。

 それで、名は何と申すのだ?』


魔人:『スグシムだ。痛ぇよ!離してくれ!』


ブルーノ:『ああ、ひと通り聞いたら離してやる。で、お前の所属する迷宮城キャッスルは?』


スグシム:『黄土迷宮城イエローキャッスルだ!』


ブルーノ:『ふむ、なるほどな。

 ここはイエローのエリアか。そうか。

 管理者は誰だ?そこには、何人いる?』


スグシム:『カニバル・フォン・エリック子爵だ。子爵を入れて全部で18人いる。』


ブルーノ:『カニバル!だとぉ!?』


 その名を聞いたブルーノの眉間に皺が寄り、スグシムを掴んだ右手に力が入った。


スグシム:『ガー!頭が割れるー!』


ブルーノ:『心配しなくても、これが最後の問いだ。イエローキャッスルはどっちだ?』


スグシム:『あっちだ!あっち!

 頼むから!早く離してくれー!』


 苦痛に歪んだ顔でスグシムは指でイエローキャッスルのある方向を示した。


ブルーノ:『スグシムよ。良い話が聞けた。

 助かったぞ。ゆっくりと休むが良い。』


 そう言うと、ブルーノは右手に力を込めて、スグシムの頭を容赦なく握りつぶした。


スグシム:『グギャギ!』


 スグシムの砕けた頭からは、脳漿などの液体が辺り一面に飛び散った。

 そして、頭の無くなった魔人は地面に転がっていた。即死である。


 この光景には、流石にゴブリンやオークを数多く討伐している龍太郎でさえ、衝撃を受けていた。ブルーノ恐るべし。


 当のブルーノは、何やら怒りを抑えるために、その場に留まっていたが、少し経って転がっている魔人からモンスターコアに当たる魔核を体内から強引にもぎ取って、龍太郎の元に戻って来た。


 そして、その魔核を龍太郎に手渡した。


ブルーノ:『主よ。我にはやることが出来た。

 ここからは、単独行動を取らせてもらう。』


 もはや、何かを決心したといった様子の表情だった。


龍太郎:『ああ、もちろんいいぞ。

 けど、急にどうしたんだ?』


ブルーノ:『カニバルがこの魔物界にいる。

 そいつが我を嵌めた張本人だ。

 しかも、奴は元男爵位。

 我のいない間に子爵位に陞爵しておった。』


 ブルーノは、冷静に話はしているが、怒りが込み上げているのは表情で分かる。


龍太郎:『そういうことか!

 それはやり返さないとな!

 やられたら、やり返す!当然だ!』


ブルーノ:『主よ。我には、もう何も残っていないと思っていた。

 だが、我には、まだやり残したことがあった様だ。

 主には、感謝しておる。

 こうして、我の自我を戻してくれたのだからな。

 だが、奴も今は子爵位。そう簡単には行かんだろう。

 我はもう戻れぬかもしれんが、その時は許せ。』


龍太郎:『そう言われるとなぁ。

 うーん。じゃあ、俺も行くよ。』


ブルーノ:『いや、断る。

 主は異常だが、所詮は人間。足手纏いだ。』


龍太郎:『えー!即答!?

 そんなにはっきり言う!?』


ブルーノ:『はっきり言わんと付いてくるであろう。』


龍太郎:『いや、そうだけど……。』


 アイちゃんにはなんとなく分かった。

 ブルーノが、龍太郎に気を遣っていることを……たぶん。


龍太郎:『行き先はイエローキャッスルなんだな?』


ブルーノ:『ああ、そうだ。』


 これに関しては補足を(ブルーノ談)


 黄土迷宮城イエローキャッスルとは、迷宮城の中央に位置付けられ、その管理者は、この魔物界のおける人間界侵食の統括管理者、要するに5人の管理者のトップに当たる。

 その他の迷宮城にも色に因んだ名前があり、各エリアを管轄している。

 ・青木迷宮城ブルーキャッスル

 ・赤火迷宮城レッドキャッスル

 ・白金迷宮城ホワイトキャッスル

 ・黒水迷宮城ブラックキャッスル



龍太郎:『ブルーノ!絶対に戻ってこいよ!』


ブルーノ:『そうだな。主と再び会うことが出来れば僥倖だな。』


龍太郎:『ああ、ギョウコウで頼む!』


 ブルーノは、龍太郎と握手をして、スグシムが指差した方向に向かって出発していった。

 龍太郎は、それを見ていたが、すぐに見えなくなった。


龍太郎:『行ってしまったな……。

 なぁ、アイちゃん!

 ギョウコウってどう言う意味?』


 龍太郎は、ブルーノに言われた通り、何かの役に立つかもしれないということで、魔生石を収納箱に格納して、その場を去った……。


 ◇◇◇◇◇

 

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