第100話 川崎ブレイク5

 ◇◇◇◇◇


 川崎ブレイク包囲網内にて。


 ダンジョンブレイクから約6時間が経過して、ゴブリンズ討伐もようやく終盤に差し掛かっていた。

 自衛隊による包囲網もかなり範囲を狭めており、同時に各所にて救助活動も進んでいた。

 包囲網の外では、警察、消防、救急が所狭しと駆け回っている。

 残念ながら、多数の犠牲者を出したが、思った以上の早期決着によって、助かった命も少なくなかった。

 それは、源三、千代の伝説老人組と龍太郎たち、ネオ・ダイアモンズの功績が大きかった。


源三:「もう体力の限界じゃわい。」


千代:「あと少しだよ。踏ん張りな。」


 伝説老人組は、今回の件でさらに目に見える形で伝説を作っていた。

 のちに敬意を持って『元祖最強店員』または『GST』と呼ばれる様になる。


 一方、ネオ・ダイアモンズのメンバーも休憩を挟みつつではあったが、相当な数のゴブリンズを討伐して貢献していた。


華那:「あと、あの集団で終わりだよ!」

カレン:「うん、ラストもう少しだよ!」

亜実花:「早く終わって〜!」

玲奈:「気持ち悪い〜!浄化して〜!」

美紅:「もう無理〜!枯渇した〜!」

詩音:「もうちょっとだよ!がんばろ!」


 みんな、バテバテになりながらもよく倒れずに頑張っている。

 それもそのはず。尋常ならざる数のゴブリンズをこの短時間で討伐しているのだ。

 疲れない方がおかしいレベルだ。

 この頃には、全員のレベルが、なんと!3つも上がって、レベル9まで上がっていた。

 それによって、ゴブリンズとの戦闘に関しても、少し余裕が出てきたのが大きいかもしれない。


華那:「これで最後だー!」


 華那が最後のゴブリンにトドメを刺す!


亜実花:「やったー!やっと終わった〜!」

玲奈:「浄化〜!先生のところに行こうよ!」

詩音:「もう!ちょっと休もうよ!」


カレン:「終わったね。」

美紅:「終わりましたね。」


 ゴブリンズの死骸があちこちに散らばっている中、メンバーはそれを気にすることもせずに地べたに座り込んでいる。


 日が変わって午前0時10分。

 川崎ブレイクが今、終結した。


自衛隊隊長:「みんな、ありがとう!

 あとの処理は、俺たち自衛隊が責任を持つ。

 ゆっくり休んでくれ!

 おら、最後の仕事だ!

 気合い入れていくぞ!」


自衛隊員:「「「「おーーーー!」」」」


 自衛隊総勢で、ゴブリンズの死骸処理や残りの救出作業などを継続している。

 同じく、警察、消防、救急も慌ただしく活動を継続している。


 未曾有の大災害。川崎駅の周辺一帯は見るも無惨な姿に変わっている。


 最後の消火活動と救助活動が続く中、ネオ・ダイアモンズのメンバーの元に、こちらも討伐を終えた伝説の老人『GST』の源三とお千代がやってきた。


源三:「お嬢ちゃんたち。よう頑張ったのう。

 お疲れさんじゃ。」


カレン:「源さん!お千代さん!」


千代:「本当によくやったよ。」


カレン:「いえ、もうバテバテです。

 お二人とも、すごかったです。

 本当にお疲れ様でした。」


源三:「なになに、余裕じゃよ。

 遊んでるようなもんじゃ。のう、お千代。」


千代:「……はぁ。そうだね。

 しかし、終わったのはいいが、気の毒なことだよ。危うい世の中になったねぇ。」


源三:「そうじゃのう。

 多くの犠牲が出たのう。まあ、あとは任せるしか無いがのう。ワシらにできることは、討伐することくらいじゃからのう。」


千代:「そうだねぇ。まったく。

 それはそうと、龍太郎は大丈夫かねぇ?」


源三:「おう。そうじゃったのう。」


カレン:「あ!はい。

 それなら、一度、こちらに戻って来た時に言ってました。

 向こう側のゴブリンズはすでに討伐完了したらしいです。

 ただ、まだ、やることがあるとかで、また戻っていきましたけど。

 それがやり終わったら帰って来るんじゃないですか?」


千代:「そうかい。あの子も頑張ったんだね。

 でも、どうやって帰って来るんだい?」


カレン:「え?それはゲートを通って……。」


千代:「そうだろうね。知らないんだね?

 ゲートは少し前に消滅したよ。」


全員:「「「えーーーーーーーー!?」」」


カレン:「本当ですか?」


源三:「ああ、本当じゃ。

 今から10分ほど前だったかのう。

 突然、失くなってしもうた。」


玲奈:「嘘!先生、取り残されちゃったの?」

亜実花:「えー!なんで〜?」


 ネオ・ダイアモンズメンバー全員が衝撃の事実を聞いて、信じられないといった表情でお互いの顔を見渡した。


華那:「私、ちょっと行ってくる!」

詩音:「私も行くよ。」

亜実花:「あー!私も!」

玲奈:「それじゃあ、私も!」


3人:「どーぞ、どーぞ。」


玲奈:「もう、そんなことやってる場合じゃないでしょ!」


華那:「ごめーん!そうだね。」


 ネオ.・ダイアモンズの全員で川崎ブレイクのゲートがあったはずの川崎駅のロータリー跡地まで走る。

 当然、カレンと美紅も一緒に。


玲奈:「わー!本当にないよ!」

亜実花:「先生、どうなっちゃうの?」

詩音:「これって帰って来られないってこと?」

華那:「もう!」


カレン:「本当に消滅したんだ……。」


 失くなったゲートを確認してしみじみと言うカレン。


カレン:「みんな、信じて待とうよ。

 天堂くんなら、なんとかする気がする。

 私の直感がそう言ってる(笑)」


美紅:「カレンさんが言うなら、大丈夫かも。

 天堂さんってしぶとそうだから。」


華那:「うーん。そうだね。心配だけど。」

玲奈:「チートでなんとかしてくれればいいけど。」



 ◇◇◇◇◇



 日本探検者協会本部副会長室にて。


 紗英は、乃亜と連絡を取っている。


野神:「川崎ブレイクは収束したけど、それよりもゲートが消滅してしまったみたい。」


三上:『今までの各国で発生したダンジョンブレイクの情報に対して、いくらなんでも、今回のは早すぎるわ。6時間なんて。』


野神:「そうね。しかも、天堂くんが向こうに行ったままね。」


三上:「例の青年ね。彼に情報を貰いたいところだけど、それは無理よね。

 で、これからどうするの?」


野神:「それは……。」


三上:『……でしょうね。

 私も今からそちらに行くわ。

 お疲れのところ、申し訳ないとは思うけど、今回参加した討伐メンバーを全員招集してくれない?

 なんでもいいから情報が欲しいわ。』


野神:「わかったわ。連絡を取ってみる。」


三上:「ありがと。じゃあ、後で。』



 ◇◇◇◇◇



 副会長室に野神紗英と三上乃亜が揃った。


 召集されたネオ・ダイアモンズのメンバー6名が対面の椅子に座っている。


野神:「皆さん、討伐お疲れ様でした。

 すごい活躍でしたね。ありがとう。」


カレン:「なんとかお役に立てました。」


野神:「紹介するわね。こちらは三上乃亜さん。協会研究所の所長です。」


三上:「三上です。

 私も見てたわ。討伐お疲れ様でした。

 お疲れのところ、申し訳ないんだけど、いろいろ聞かせて欲しいの。

 あなたたちの前に、源三さんとお千代さんから、状況を聞かせて頂いたんだけど、天堂くんから連絡があったのよね?」


カレン:「はい、ありました。」


三上:「それは何時くらい?」


カレン:「はい、正確な時間は分かりませんけど、午後8時くらいだと思います。」


三上:「その時に彼は、ゲート内のゴブリンは討伐完了したと?」


カレン:「はい、そう言ってました。」


 それを確認した三上は、考え込んだ。


 確か、天堂くんがゲートに入ったのは、午後7時くらいよね?

 約1時間で全滅させたってこと?

 全滅?あり得ないわ。

 ゲート内のモンスター発生はそんなにすぐには止まらないはず。

 何かの異常が発生しているとしか考えられないわね。もしくは……。


三上:「夢咲さん。天堂くんから、他に何か聞いてることはない?」


カレン:「いえ、天堂くんが帰って来たのは、一瞬だったので。」


三上:「そうなのね?ありがとう。

 ところで夢咲さん。あなた、天堂くんとは会ってないわよね?

 どうやって、その話を聞いたの?」


カレン:「あ!それは……。」



野神:「墓場案件ね?そうね、夢咲さん?

 三上はいいのよ。天堂くんからも、工藤と三上には情報開示の許可は貰ってるから。」


カレン:「そうなんですか?

 なら、実は……。」


 それは、伝心スキル。


野神:「乃亜。それが天堂くんなのよ。」


三上:「ますます、興味が湧いたわね。

 本当に会ってみたいわ。

 でも、これじゃ、策がないわね。」


野神:「そうね。それは後で話しましょう。」


カレン:「野神さん。天堂くんのことで、何かあったら言ってください。」


野神:「ええ、もちろん。

 みんな、お疲れのところ、ありがとうね。

 ゆっくり休んでね。

 あと、クランの代表と話したかったんだけど、天堂くんの代理って?」


カレン:「あ、私でいいです。」


野神:「じゃあ、夢咲さん。

 また、連絡するわね。」


 ネオ・ダイアモンズの6名は、長い1日から解放されて、クランハウスに帰って行った。


 ◇◇◇◇◇

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