第99話 川崎ブレイク4

 ◇◇◇◇◇


 日本探検者協会本部副会長室にて。


秘書:「またです。今度はロシアからです。」


野神:「もう!WEAを通す様に言って!

 そう通達してるから。」


秘書:「はい!」


野神:「まったく!しつこいわね!」


秘書:「あのー。野神さん。

 AEA会長から直接のお電話ですが、どうしますか?

 緊急で話したいことがあるそうです。」


野神:「うーん。もう!繋いで!」


ハワード:『ハロー、ミスノガミ。

 ハワードだ。突然すまないな。』


野神:「ハロー、ミスターハワード。

 早速ですが、緊急の用件は何ですか?

 こちらも忙しいので。」


ハワード:『そうだろうな。

 単刀直入に言う。こちらのソフィアをそちらに向かわせた。ミスターテンドウへ面会の要請だ。設定してくれ。』


 AEAはエクスプローラ第一の大国であり、日本にとっては同盟関係にある。

 しかも、このハワードという男は強硬派として知られており、なかなか対応が難しい。


野神:「用件はそれだけですか?」


ハワード:『そうだが、交換条件を用意した。

 ここだけの極秘情報だが、我々は、青神迷宮ブルーゴッドダンジョンをすでに発見している。』


野神:「え?こんなに早くですか?」


ハワード:『そうだ。人海戦術でな。』


 この男、出し抜いたわね。

 他の国には、少数精鋭と言っておきながら。


ハワード:『今は、そのブルーゴッドダンジョンの踏破のために、戦力をかき集めて動き出しているところだ。ここから先は、一筋縄ではいかないみたいだからな。』


野神:『日本の喜多川兄弟もですか?』


ハワード:『彼らは自ら参加した様だが、そうだな。ブルーブラッズに合流した様だ。』


 AEAは、日本の様に管轄でクランを縛らず、自由主義の方針で運営している。

 圧倒的に多数のエクスプローラを抱える自由の国、アメリカならではの運営方針である。

 また、外国籍のエクスプローラもAWA所属のクランに一時的にメンバー登録することによって、活動することが出来る様になっている。


野神:『その情報が交換条件ですか?』


ハワード:『いや。交換条件は、ブルーゴッドダンジョンについて今後知り得た情報をそちらにも提供しようと思ってな。

 我らは同盟国だからな。

 2国協力体制と行こうじゃないか。』


野神:『では、交換条件の前にひとつ。

 AEA上級顧問のソフィアがわざわざ来て、天堂に会って何をするつもりですか?』


ハワード:『ミスターテンドウに会わせるだけでいい。』


野神:「それは、ソフィアからは一切の質問はしないということですか?」


ハワード:『ああ、そうだ。

 ソフィアが行って、どんな男か確認するだけでいい。それだけだ。

 悪い条件ではないだろう?』


 この未知の世界では情報は武器である。

 喉から手が出るほど欲しい。

 紗英には、圧倒的に有利な条件に思えた。


野神:「……わかりました。

 会うだけということなら、了承します。

 日時については調整後、こちらから追って連絡しますので。」


ハワード:『ああ、そうしてくれ。

 今後もよろしく頼む。』


 そう言って、電話は切れた。


 まさか、もう青神迷宮を見つけていたなんて……。

 こうなると中国の赤神迷宮も怪しいわね。

 こちらはまだ、何の進展もないのに。


 天堂くんには、申し訳ないけど……。



 ◇◇◇◇◇



 川崎ブレイク包囲網内にて。


 龍太郎は、ブルーノに監視を任せて、一時ゲートを潜り現世界に戻ってきていた。


龍太郎:『夢咲さん!聞こえるか?』


 伝心スキルを使って遠隔で話しかけている。


カレン:『あ!天堂くん!聞こえるよ!

 戻ってきたの?』


龍太郎:『ああ、ちょっと様子を確認しに帰って来た。

 こっちはどうなってる?

 だいぶ減ってるように見えるけど。』


 龍太郎は、俯瞰スキルで包囲網の様子を確認したが、初期よりもだいぶと範囲が狭まってきている様だ。


カレン:『うん。源さんとお千代さんが参戦して、ものすごい勢いで討伐してるから。

 私たちもなんとか頑張ってるよ。

 結構な数のゴブリンズを討伐してるから、みんなレベルが上がったよ。

 だいぶと討伐が楽になってるよ。』


龍太郎:『おー!そっか!

 確かにこれだけの数がいたら、レベルも上がるかもな!それは一石二鳥だな。

 こっちは収束しそうか?』


カレン:『そうだね。時間はかかると思うけど、なんとかなると思うよ。

 そっちはどうなの?』


龍太郎:『ああ、こっちもなんとかな。

 向こうのゴブリンズは全滅したぞ。』


カレン:『嘘っ!早っ!やっぱ天堂くんだね。

 じゃあ、そっちは終わり?』


龍太郎:『いや、まだやることがあるんだ。

 また、戻らないといけない。』


カレン:『え?それって何?』


龍太郎:『詳しくは終わってから話す。

 じゃあ、俺は戻るな。』


カレン:『あ!うん。気をつけてね。』


龍太郎:『ああ、そっちもな。』


 川崎ブレイクのゴブリンズ包囲網は、一旦乗った勢いそのままに加速度を上げて収束に向かっていった。



 ◇◇◇◇◇



 川崎ブレイクゲート内の魔物界。


 少し離れた岩陰から、ダンジョンブレイクゲートを監視している。

 その横に封印された魔生石がポツンと突っ立っている。

 先程までとは打って変わって、静かな風景が広がっている。


ブルーノ:『主。どうであった?』


龍太郎:『ああ、あっちは問題なさそうだ。

 こっちはまだだな。』


ブルーノ:『そうだな。まだ気配はない。』


龍太郎:『なあ、ちょっといいか?

 あのゲートだけど、だいぶ薄くなってないか?

 通ってきた時の感覚もだいぶ変わってるんだけど。』


ブルーノ:『そういうものだ。あのゲートはしばらくして消滅するだろう。』


龍太郎:『24時間だったっけ?』


ブルーノ:『そうだな。そんなものだ。』


龍太郎:『なら、魔人が戻って来るのってまだまだ先になるのか?』


ブルーノ:『その可能性もある。

 だが、大抵の場合はイレギュラーが発生していないかを定期的に確認するはずだ。

 これを設置した魔人の性格によるがな。』


龍太郎:『待つしかないってことだな?』


 待ってる間は暇なので、雑談をして過ごしていたが、その中でも貴族魔人はヤバいってことが分かった。

 下級貴族でも個体強度レベルが限界のレベル99か、それに近いレベルなんだとか。

 そもそも、個体強化レベルに限界があるってのも初めて知ったのだが。

 ちなみにブルーノはレベル99だ。

 ただ、魔界にいる上級貴族に関しては、なんらかの方法で限界突破しているらしい。

 その方法はブルーノは知らないらしく、それで上級貴族にはなっていなかったのだとか。

 とにかく、階級イコール強さという、魔人らしい仕組みなんだそうだ。

 そういえば、人間で限界まで上げた人っているのかなぁ?

 日本だとお千代さんが一番近いと思うけど、どうなんだろ?

 魔人は長生きみたいだからなぁ。


 それから待つこと数時間。


 1時間経過……。


 2時間経過……。


 4時間経過……。


 あまりにも長い時間待たされているので、とりあえず、再度、現世界の様子を見に行こうと思った矢先に状況の変化があった。


龍太郎:『え?消えた!?』


ブルーノ:『ほぅ。これは意外だな。

 想定よりも早く消滅した様だな。』


 なんらかの前触れもなく、突然に川崎ブレイクのゲートが消滅した。


龍太郎:『えー?なんで〜?

 まだ、発生から6時間くらいしか経ってないじゃないか?

 どうなってんだよ?』


ブルーノ:『我にも分からんが、魔生石を封印したからかもしれんな。』


龍太郎:『ん?どういうこと?』


ブルーノ:『ゲートに魔物の往来がなくなったからな。予定より早く、魔素量が減少したのかもしれん。』


龍太郎:『へぇ。そうなのか!

 って、ちがーう!ヤバいじゃんか!?

 俺はどうやって帰ればいいんだよ〜!』


ブルーノ:『主ならなんとかなるだろう?』


龍太郎:『嫌だ〜!マジ、勘弁して〜!』


 ◇◇◇◇◇

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