第98話 ダンジョンブレイクの謎
◇◇◇◇◇
川崎ブレイクゲート内。
ブルーノ:『終わったぞ。もうこれでゴブリンは出て来られないぞ!
主よ。残りの残党を始末してしまおうぞ。』
龍太郎:『なんか分からんけど、サンキュ。』
ブルーノによって、発生源を押さえて、こちら側でもゴブリンズの発生が無くなり、残る残党も見える限りとなった。
龍太郎:『よっしゃ!これで終わりだな。』
ブルーノ:『ああ、これで全部だ。』
龍太郎:『数が少なくて意外に早く終わったな。と言ってもだいぶかかったけどな。
ところで、さっき何やってたんだ?』
ブルーノ:『ああ、我が封印した。』
龍太郎:『封印したって、発生源ってあのデカい鉱石みたいなあれだよな?
あれは一体何なんだ?』
ブルーノ:『あれは、
主よ。説明の前に一旦身を隠そう。
この辺りにまだ、我が同胞がいるはずだ。
ここに戻ってくるやもしれん。』
龍太郎:『ああ、わかった。
魔生石は、そのままでいいのか?』
ブルーノ:『ああ、問題ない。』
龍太郎とブルーノは、一旦、離れた岩陰に身を潜め、ゲート付近の様子を伺っている。
ゲートは、こちらに来た時より、気持ち薄くなっている様にも見えるが……。
龍太郎:『で、ブルーノ。続きを教えてくれよ。
同胞ってのは、魔人ってことだよな?』
ブルーノ:『ああ、そうだ。
貴族ではない平民のはずだがな。
ここに境界門を造った魔人だな。
この簡易的な境界門の規模なら一人で造ることができる。
とは言っても、相当な魔力を使うがな。』
龍太郎:『なあ、ブルーノ。
そもそも、何の知識もない俺には謎だらけなんですけど。
もう少し、基礎から分かりやすく教えてくれないと。』
ブルーノ:『うむ。確かにそうだな。
人間には知り得ないことだろうからな。
では、待つ間に少し教えておこう。』
それから、ブルーノ先生のよるダンジョンブレイク基礎講座が開かれた。
境界門とは異世界ゲートのことだが、ダンジョンブレイクの場合、短期間で簡易的に造られるゲートのことのようだ。
とは言え、簡易的にでも境界門を造れる魔人は限られており、平民の中でも貴族候補になりうる魔人であり、個体強度もそれなりに強いらしい。
いわゆるエリート平民魔人である。
そういった意味で、貴族魔人とは世襲ではなく、個人に与えられた称号であるらしい。
一方、侵食開始時には、長期間に渡って境界門の準備が行われて、半恒久的な境界門が複数造られる。渋谷ゲートなどがそうだ。
それを開始時に一斉に開門するらしい。
この時には魔界から相当な魔人が派遣されるのだとか。人海戦術ということらしい。
前述の通り、この侵食開始時にほとんどの場合、確率にしてほぼ90%以上が成功する。
地球の場合の様に侵食開始時に失敗する例は、10%にも満たない。
その後は、侵食の成功失敗に関わらず、5名の下級貴族魔人とその配下の少数のエリート平民魔人が残されて、侵食先の星の状況に合わせた場所に設置された5つの巨大管理迷宮(通称:
侵食成功時には、境界門から魔素が継続的に送られて、侵食先を魔人が活動可能な魔物界に変えていく作業が進められる。
一方、侵食失敗時には、同様に残された魔人によって、境界門から魔物や魔獣を定期的に送り込み、徐々に侵食を継続していくのだ。
それにより、侵食先の生物は徐々に疲弊し、最終的には、どんな場合でも侵食は成功へと導かれるのだ。時間はかかるが100%だ。
その後は、先程と同様に境界門から魔素を送り込み、魔物界に仕上げていく。
ただ、地球の場合はさらに特殊で、侵食開始時の失敗のみならず、一部の人間が境界門を通って、魔物界と往来できると言うイレギュラーが発生している。
ブルーノ曰く、この様な事態は今まで見たことも聞いたこともないのだとか。
自我を失っている期間を除いてだが、ブルーノの知る限り、魔界初の出来事であろうと。
余談の話だが、通常、侵食自体はそれほど時間はかからないが、侵食後に侵食先の星を魔物界に仕上げるには、相当な時間が必要となるらしいのだ。
それは、その星自体が大きな意志を持つ、一つの魔生命体に変える必要があるのだとかで、長い期間、その魔素を吸収し続ける必要があるらしい。
そうなることによって、その星自体から魔素が自然発生するようになり、魔物や魔獣も自然発生する様になる。
また、魔物や魔獣が死亡後に星に吸収される現象も同じ様な原理なのだとか。
ちなみにキャッスル以外のダンジョンについても魔素濃度が高くなった場所に自然発生するものらしい。
余談の余談だが、人間界での星、いわゆる地球も、そういった意味では、大きな意志を持つ一種の巨大な生命体ということなのだが……。
うーん。奥が深い。深すぎる。
話は戻って、次に魔生石についてだ。
これは、魔界でのみ採れる鉱石を加工して創られたもので、その加工方法については、魔界でもごく限られたものでしか知らない極秘事項とされており、貴重なものだとか。
長さが約2メートルくらいの縦に長い鉱石で、周りには複雑な紋様が施されている。
ちょうど、大男1人分くらいの大きさだ。
それが地面に突き刺さっている。
さて、この魔生石の特徴だが、龍太郎の持つ収納箱スキルに似た性質を持っている。
その違いだが、龍太郎の収納箱は、生物以外が格納可能で、その格納空間では時間経過が止まるという性質を持っている。
対して、この魔生石は魔物や魔獣のみが格納可能で、それらは、ある個別の魔空間に転移されて、時間も経過するという性質を持つ。
通常の魔生石は、封印状態になっており、生きた魔物や魔獣をその魔生石にぶつけることで、魔空間に格納できるという仕組みだ。
この魔空間には、無制限に魔物を格納することが可能だが、この格納する作業が結構な重労働で、嫌う魔人も多い。
ダンジョンブレイクは、その準備作業が一番大変なんだとか。
また、格納しておく魔物や魔獣は1種類にする必要もあるらしい。
それは、格納先の魔空間で種族対立が発生し、格納した魔物の数を減らしていくからだ。
間違って、個体強度の差が大きい魔物が混在してしまった場合は、目も当てられない。
また、魔物は大量に格納する必要があるため、ある程度の数がいて、容易に集められる魔物に限定されるとか。
よって、必然的にあまり個体強度の高い魔物にはならないらしい。
そうして、準備が終わり運び込まれた魔生石が、ここに刺さっているのだ。
そして、これをどうするのか?
簡易的に造った境界門の近くに、魔生石を刺して、その封印を解放するだけである。
解放された魔生石からは、魔空間に閉じ込められて凶暴化した魔物が一斉に溢れ出す。
魔物は、その習性によって吸い寄せられるかの様に、境界門から人間界に飛び出していくのだ。そして、人間界で暴れまくる。
ここまでの話が、ダンジョンブレイクの仕組みである。
ブルーノは、そこで話を締めた。
ブルーノ:『主よ。どうだ。』
龍太郎:『うん。すんごく良くわかったぞ。
ブルーノって、説明が上手だよな。
教師とかに向いてるかもな。』
ブルーノ:『ふ。教師か……。
我は貴族なんだがな。』
龍太郎:『え?気に障ったのか?
魔人界のことはよくわからないから。
人間界だと、教師っていい意味なんだけど。
まあ、俺の言うことは、あまり気にしないでくれ。本当に悪気はないからな。』
ブルーノ:『いや、大丈夫だ。
魔界でも悪くはない。』
龍太郎:『じゃあさ。もう一つ。
魔生石ってブルーノが封印したんだよな。
あれって封印を解放されたらまた出てくるんじゃないのか?
いっそ、壊した方が良くないか?』
ブルーノ:『いや、それはダメだな。
破壊した場合、一気に出て来るだけだ。』
龍太郎:『え?そうなのか!ヤバ!
たぶん、知らないと破壊するだろな。』
ブルーノ:『まあ、そう簡単には破壊出来んのだが、魔生石の封印は限られた魔人にしか出来ん。結局は同じだな。』
龍太郎:『あ!そっか。そうだよな。
じゃあ、ブルーノがいて助かったよ。
あとは、魔人が戻って来るのを待つだけだな。』
ブルーノ:『ああ、そうだな。』
龍太郎:『とは言っても、魔人ってほんとに戻って来るのか?
このまま、戻って来ないってことも考えられるよな?』
ブルーノ:『いや、必ず戻って来る。
今は枯渇寸前まで使用した魔力を回復するために、どこか魔素濃度の高い場所に一時的に移動して休息しているだけだ。』
龍太郎:『なんで、そう言い切れるんだ?』
ブルーノ:『言ったであろう。魔生石は貴重だと。必ず、回収しに来る。』
龍太郎:『あ!なるほど。そういうことな。』
これまでの一連の話で納得した龍太郎は、その平民魔人が来るのをひっそりと隠れて待つことにした。
ブルーノを従者にしてから、人間が知り得ない情報が次々と明らかになっていく。
そして、ここから物語が龍太郎とブルーノを中心に回り始めていくことになるのだが……。
◇◇◇◇◇
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